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トリニティハート、心を見せつける

 隣国、第七魔術師団の団長イーアン。

 氷爵の異名はオレも少しだけ聞いた事がある。奴が戦った後は敵兵の氷像が立ち並び、美術品展示会みたいに見えるとかいう噂だ。

 それなりに名が通っているだけあって、油断したかもしれないサリアを戦線から離脱させるだけはある。

 そんなすごい奴相手なら一筋縄じゃいかない。さすがに苦労した。


「オイ、なんで膝をついてるんだよ」

「ぐうぅ……! この私の魔術が、届かないわけが……!」


 それなりに、な。

 氷柱みたいな物理的な魔術の他に、気をつけるべきは冷気による凍結だ。

 だけどオレのブレイズエッジは冷気を切り裂く。おまけにこいつ、魔術師だけど軌道が単純すぎた。

 氷柱をぶつけられるにしても、オレ程度の魔力感知で事足りる。

 氷爵様がこの程度か、なんて思ったけどそうじゃない。


「お前なんか足元の爪先にも及ばないすげぇ魔術師を知ってるからな。そいつからしたら、お前はかわいいもんだよ」

「そんな奴がこの国にいるなど、ありえないんだが?! まともなのはあの聖女ソアリスだが、もういない!」


 オレのせいで、サリアがこんな奴に。冷静に戦えば勝てない相手じゃないのに。

 敵兵もすでに全滅させて、残るはこいつ一人だ。

 そしてオレ達にとって朗報なのが、敵兵の中にまともな思考を持っている奴がいた事だ。

 悪いようにはしないと説得した上で投降してもらった。今は騎士団に身柄を拘束されているはずだ。


「人を超えただか知らないが、とんだ魔人様だったな」

「そうだ、思い上がるのは早いんだが……?」


 全身が元のサイズの数倍になる。咄嗟にノックバックして助かった。


「私はね、確かに自分の魔術に満足していなかった。魔術とは自己表現のようなもの……いわば、自身の具現化のようなものだ。

どう表現するか、どう捉えるか。魔術を単に魔力からひねり出すものとしか思ってない者に魔術を扱う資格などない」

「それで、そんな姿がお前の本性ってわけか!」


 白い体毛に覆いつくされた化け物が誕生した。

 目鼻が隠れているが、かろうじて見える二対の目には確かな狂暴性を感じる。

 オレの拙い魔力感知でも、さっきとは比べものにならないとハッキリとわかった。


魔人化(ネクスト)……雪魔人(イエティ)。人が氷点下で問題なく暮らすにはこの姿がうってつけなんだが? これこそが次世代の人の姿といえるんだが?」


 姿形だけでもマジで化け物だ。

 これが次世代の人の姿? 馬鹿野郎。あんなだせぇ姿なんか願い下げだ。

 見た目だけじゃない。得体の知れない力に手を出して、さも我がもののように語ってやがる。


「そうか……」

「諦めたほうがいいと思うんだが? お前も実力者なら、私の力を肌で感じているだろう?」

「知ってるか? オレ達には絶対になくしちゃいけないものがある」

「ほう? 興味深いんだが?」

「すぐわかるさ」

「何を……ぐぎゃぁあぁぁっ!」


 雷の網が雪魔人(イエティ)を縛り付けた。

 締め付けるようにして、網は収縮に向かう。


「よくもやってくれたわね、化け物……!」

「おおまま前ぇぇたた倒れたはずずずじゃじゃあああ!」

「自分の力に酔いしれる前にもっと周囲を観察する事ね」


 雷に蝕まれる雪魔人(イエティ)の周囲には騎士団と警備隊だ。

 サリアを倒したと思い込み、勝手に変身して勝った気になっている。


「お前が人間のままで、冷静に周囲を観察すればこんな事にはならなかったかもな」

「なななんだどどどぉぉ……まままだぁぁぁ! 氷属性高位魔術(コキュートス)ッ!」


 雪魔人(イエティ)から放射状に冷気が放たれる。

 更に電撃の拘束を振りほどいて、巨体を躍らせた。剛腕がオレを狙う。


「速いけど遅ぇ!」

「ぐぎぃっ?!」


 回避しつつ、入った流し斬りが拳を縦に裂いた。

 自分よりも強くて硬い相手に対して、オレなりに考えて編み出した戦い方だ。

 熱によって切れ味を生み出しているブレイズエッジを更に活かせる。


「あああづういいぃぃ!」

「さっきからうるせぇな。だから言っただろ、お前は失くしちまったんだよ」

「な、何をぉぉ……」

「心だよ。力に溺れて驕り、敵を舐めてかかる。観察も怠った。いくら強くてもオレ達に心がある以上、向き合わなきゃいけないんだよ」


 いつかソアの言葉だ。

 思えばオレが敵兵殺しを躊躇していたのも、心のせいだった。

 時には邪魔になるけど、向き合えば打開の鍵にもなる。


「何が心だ……そんなものがあったところで、あのお方には勝て」


 ぐらりと巨体が倒れた。

 誰だ、止めを刺したのは。ハリベルでもサリアでも騎士団、警備隊でもない。


「間に合ったようだな」


 倒れた雪魔人(イエティ)の体の上に誰かが立っていた。

 騎士鎧を身に着けた男がオレ達を見下ろしている。


「だ、誰だ? いつの間に……」

「私を捉えられないのは必然だ。落胆する必要はない」


 遅れてやってきた新たな集団も騎士らしき連中だった。

 鎧には聖女信奉者のエンブレムが張り付いている。こいつら、まさか。


「アルンス様、敵は残っていないようです」

「そのようだな」


 アルンス、聞き覚えがある。

 そうだ、鷲騎士アルンス。国内最速の騎士。まさか、このおっさんがそうなのか?

最後の人マジで誰よって思った人は「聖女、聖騎士団を見極める」辺りを読めばわかると思います


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで楽しく読ませて貰っています。 [気になる点] 一対とは、2つがペアになっている2つの物をまとめて言う事です。滅炎のザイーネVS炎の魔人(ビフリート)の所でも今回の隣国魔術師団長イー…
[一言] これゲーム的な感覚で言うとMOBA形式【今で例えるとポケモンユナイト】で言うところのキルスティールだよなこれ同チームならともかく他チームにそれされたら普通に嫌がられるな最悪キレる。 鷲騎士…
[良い点] 経験値泥棒か!! アルベールもそうだったが、弱らせた敵のトドメだけもっていくとかないわー
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