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トリニティハート、防衛戦に挑む

 俺達、トリニティハートが派遣されたのは王国北東部にあるルッセルンだ。

 周辺は山々に囲まれている上に、隣国側には湿地も多いから攻め込むのも難しい。難しいはずだった。


「お前ら、隣国の兵隊だろ! なんだってこんな街を襲撃する!」

「欲しけりゃ戦って勝ち取る! これこそが世界の真理だッ!」


 国境付近の街だけあって、俺達以外の常駐している部隊の実力は凄まじい。

 次々と襲いかかる隣国の兵隊と互角に渡り合って、押していた。

 オレ達も負けていられないとは思うけど――


「デューク! 迷わず殺すしかないわ!」

「チッ……盗賊ってんなら迷わないんだけどな」


 俺達、トリニティハートと騎士団が街中で隣国の兵隊と交戦している。

 人を殺すのは初めてじゃないけど、慣れているわけじゃない。ましてやこれはもう戦争だ。特に恨みもない奴を殺すのはきつい。


「デューク! 動きが鈍いぞ!」

「ハリベル、あいつら何かおかしくないか! 目が血走っていて、さっきから動きが衰えない!」

「わかっているが迎え撃つしかない!」

「そりゃそうだけどよ……」


 笑いながら斬りかかってくる兵隊に恐怖を感じた。

 欲しければ戦って勝ち取るなんて言ってたが、戦いそのものが目的にしか見えない。

 前までのオレならこんな事をごちゃごちゃと考えなかった。


「チッ! 少し寝てろっ!」

「ぐぇっ……」


 剣を使わず、素手でぶん殴った。

 ガキの頃は村でずいぶんとやり合ったもんだ。無敗のデュークはガキ大将率いる軍団をも蹴散らした。

 少しの間だけ気絶してもらうしか――は? 倒れもせず、怯みもしない。


「こ、こいつらマジでどうなってんだ!」

「デューク! いいから殺せ!」

「やべっ……」


 不意に追加でもう一人、襲いかかってきた。やばい――


雷属性低位魔術(サンダーブリッツ)!」


 サリアの雷魔術が二人の兵士を仕留めた。

 さすがに起き上がる気配はないけど、これ死んでるんじゃ……。


「デュークは下がってたほうがいいかもね」

「な、何だと?」

「私のほうが強いから!」

「はぁ?!」


 オレを煽った直後、サリアは颯爽と兵隊を迎え討ちにいった。

 杖を振るえば魔術が発動して、敵兵の息の根を止める。

 確かにサリアは強い。だけどオレより強いなんて事はない。

 あいつは昔からそうだ。オレがケンカをしてりゃ、あいつも混ざってきて。

 オレが剣を振るえば、剣を持ち始める。さすがにあいつの腕力じゃものにならなくて、一時期はベソをかいてた。

 それからいつの間にか魔術を覚えて、またオレと張り合い始めたな。

 今でこそ落ち着いた部分はあるが、たまにこうやってオレを挑発してきやがる。

 何が私のほうが強い、だ。魔術を覚えた途端、調子に乗りやがって。


「オレのほうが強……」

「きゃあぁッ!」

「サリア?!」


 サリアに直撃したのは氷柱だ。一体、誰が。


「ん? もしかして当ててしまったかな? そんなつもりはなかったんだがなぁ? ん?」


 兵隊を従えて出てきたのは細身の魔術師だ。

 ローブの上から氷を張りつけるようにして身に纏っている。

 氷越しに見えるのは隣国のエンブレムだ。という事はあいつが司令官か隊長か。


「サリア、しっかりしろ!」

「ハ、ハリベル……油断しちゃった」

「デューク! オレと共にサリアを守れ!」


 ハリベルに言われるがままに、サリアの前に立つ。

 あの魔術師、サリアに魔術でダメージを与えたのか。かなりの使い手だな。


「ん? 君達はもしかしてこんな僻地を守っているのかな?」

「僻地だろうがここには人がいる。守ってる人間がいて当然だろうが」

「ん? もしかして怒ってしまったのかな? そんなつもりはなかったのだがなぁ?」

「とぼけた野郎だ……なんだって、こんな真似をする。戦争でもやりに来たのか」

「ん? もしかして戦争と勘違いしていたのかな?」


 首を大袈裟に傾げて、すっとぼけたような態度を取りやがって。

 こいつ、かなりの魔力を保有してるな。見せつけるように魔力を解放してやがる。


「いやぁ、力を持て余すとつい試したくなるものだが?」

「口だけはよく回るな。暇なら真面目に仕事を探したらどうだ?」

「ん? 私は他の戦いたがりの連中とは違って、純粋に蹂躙してみたいだけだが? この力、試したくならんほうがおかしいが?」


 魔術師の周囲が氷に浸食される。

 街への被害、サリアの心配。どうしても目の前の敵に集中できなかった。

 それにあの兵隊どもの虚ろな表情、オレには何かに操られているようにしか見えない。

 だとしたら尚更、殺せねぇ。

 だって生きてりゃ確実にいい事がある。オレ達がソアに助けられて、強くなったように。

 聞けばあのソアはずっと人助けをしていたらしい。

 だとしたら、オレ達以外にも救われた奴らは大勢いる。

 常にサリアと張り合って、強さばかり見ていたオレには出来ない生き方だ。


「サリア、少しの辛抱だ」

「デューク……」


 オレが持てなかった強さをサリアは見せてくれた。相手が人間だろうが、敵と認識して戦った。

 張り合ってばかりだったこいつに対してそう思えるようになったのは、ソアのおかげかもしれない。

 他人をよく見て成長させる。いつも目の前しか見ていなかったオレにソアは教えてくれた。

 オレは魔術師を見据えて、剣に炎を纏わせる。


「ん? まさかそんなもので魔人である私と張り合おうと?」

「魔人?」

「ん? 私のように人を超越した人をそう呼ぶんですが? 魔人化(ネクスト)……我々が次に進むべきステージですが?」

魔人化(ネクスト)……」


 ソアから聞いた覚えがある。

 王都内で妙な薬を飲んだ人間が魔物化したらしい。とある人間は魔人化(ネクスト)と口にした。

 つまりこいつが喜んでる玩具は王都内で出回った謎の薬か?

 これは朗報か吉報か、オレには判断つかない。早く王国に、ソアに伝えなきゃいけない情報なのは確かだ。


「お気楽な奴だな。変な薬でも飲んだか?」

「ん? はて、薬? まぁいいでしょう」


 微妙な反応だが少なくともオレにやる気を出させてくれた。

 人を殺してでも成し遂げなきゃいけない。いや、殺したくないんじゃなかったか。

 少しでもこいつらを救えないか。どこかの誰かみたいに、そんな方向でずっと考えていた。

 だけどやっぱりオレの柄じゃない。オレにはオレのやり方しかないんだ。

 サリアが自分のやり方でオレに見せてくれたように。

他の皆も頑張ってます


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