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聖女、過去と今を考える

「こちらがマオこと、元魔王です。はい、挨拶して下さい、マオ」

「お前が現国王か。なかなかの面構えだ」


 一国の王に対して尊大な幼女がいる。マオのことは悩んだけど、明かす事にした。

 私から離れない以上、正体を隠しておくのも無理があるから。

 アドルフ王はテーブルに肘をついて指で頬をかいて白湯を飲む。

 天井に大きく一息を吐いて目をこすった。面白いリアクションをしているけど、情報処理が間に合ってないんだと思う。


「ソアよ、そなたがこの類の冗談を言わん事は承知している。しかし、容易に信じるのは不可能だ」

「申し訳ありません。私としても信じがたいのですが、このマオは紛れもなく魔王です」

「だとすれば、私が受け入れる理由は何もないな」

「その通りです。ですから今回は報告だけに止めておきます」


 アドルフ王がマオを見下ろしている。

 マオはそんなアドルフ王をまるで品定めするかのように、いろんな角度から凝視していた。


「我が魔王として君臨していた時の国王がこの者ならば、違った結果になっていただろうな」

「……まずはソアに感謝するのだな。その上で聞こう。何が狙いだ?」

「我はソアの下につく。たとえ国王だろうと、お前の意のままにはならんと言っておこう」

「遠慮のない物言いだな」

「お前の下につこうなどと言ったところで受け入れんだろう?」


 ギスギスしたやり取りが繰り広げられている。

 能力値最低のくせに意のままにはならんとか牽制したところで、私からすれば苦笑するしかない。


「そなたは魔族や魔物を率いて我が国を脅かした。これは紛れもない事実だ」

「その件について弁解する気はない。あの時はそれが正しいと信じていたのだからな」

「正しいだと?」

「我は魔族だ。当然、同胞を優先する。我らこそが優れた存在であり、世界に冷遇される謂われもない。故に居場所を作ろうとしたまでよ」

「貴様、ぬけぬけとッ……!」


 あのアドルフ王が青筋を立てて怒っている。

 私もこの発言は見過ごせず、マオを片手で遮った。


「そこまでです。あなたに反省や更生を求めてませんが、アドルフ王への挑発は許しません」

「すまなかった。以後、気をつける」

「あなたの真意はわかりませんが、私と共にいる以上は従っていただきます」

「ソアよ、一つ聞きたい。それほどの力を持ちながら、なぜこの国に肩入れをする?」

「あなたと同じですよ」


 私の意外な返答にマオは黙った。

 図々しくも白湯に口をつけるけど、ただのお湯だとわかって首を傾げる。


「私の仲間や居場所を優先したまでです。魔族は人間を見下して何かと私達と対立しますが、根底にあるのは生存競争なのかもしれません」

「……そうだ。我も手始めにこの国を滅ぼして、魔族が暮らせる国を作りたかった。それが絶大な力を持って生まれた我の使命だと思っていた」

「それがあなたが言っていた呪縛ですか」

「そうだ。しかし反省も後悔もしない。あの時、我の元に集った魔族達の志や命を軽んじたくはないのだ」


 幼くなっても魔王、きちんと道理を理解している。アドルフ王からの反論はなかった。


「お前が現れて、すべてが打ち砕かれた。こんな人間がいる以上、我ら魔族が生きる術などない、と」

「だから従うと? それはそれで感心しませんね」

「我は魔族だ。人間のような大志は抱けん。せめて魔族に準じた思想の元、行動させてもらう」

「改めてわかりました。アドルフ王、私からのお願いです」


 未だ険しい表情をしているアドルフ王に私は頭を下げた。途端、表情が崩れる。


「ソアリスよ、まさかこの魔王の為に頭を下げるというのか?」

「私自身、マオに対してどう心の整理をつけていいのかわかりません。しかし、今はマオの言葉を信じてみたいと思います」

「よせ、お前のすべてを信頼しているのだからな」

「ありがとうございます……」


 言葉ではこう言ってるけど、内心は納得がいってないと思う。私のワガママを聞いてもらったようなものだ。

 大きなため息がそう言っていた。


「私とて、無駄な血は流したくない。敵が魔族であろうとな」

「その為には一刻も早く王国復興を目指しましょう」


 少しの間、沈黙が訪れた。

 アドルフ王とマオが互いの瞳を覗いているような気がする。

 これは私にとっても大仕事だ。元魔王という爆薬を抱えてしまった以上は私が爆破を防ぐしかない。


「失礼します!」

「そこでいい。何用だ?」


 急かすようなドアのノック音が鳴る。

 例によって隠れようとした矢先、アドルフ王が無言で手で制してくれた。


「ハッ……。先日、国境付近で隣国の部隊が確認されたとの事です」

「隣国だと?」

「詳細は不明です。発見した冒険者によれば、魔族の姿も確認できたそうです」

「隣国の部隊に魔族?」

「それに伴って聖騎士団の動きが早く、国境付近に部隊を展開しているとの情報もあります」


 情報伝達も重視している。

 カドイナの街を始めとした国境付近の地点で監視用の部隊を置いてあるおかげだ。

 ただ国境付近の情報となると、思ったより前の出来事だと思う。


「よく報告してくれた。支度をするのでそこで待っていろ」

「ハッ!」


 聖騎士団といえば、カイマーンの言葉を思い出す。

 もしかして、あの人が言っていた情報ってこれの事じゃ?

 私達を揺さぶる時間を捨てて、自分達で利用する方向へと舵を切ったんだと思う。

 だとすれば隣国も気がかりだけど、聖騎士団も放っておけない。

 このまま大規模な国防を成功させられたら、世論が傾く可能性があった。

章タイトル通りの展開になりそうな感じです!


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