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聖女、謎の幼女を保護する

 ハンターズの残党討伐と並行して、今日は拉致されて囚われていた人達の救出をした。

 場所は本当に巧妙で協力者の民家の床下に地下牢が作られていたり、廃墟になった街や村が利用されていた。

 もちろん協力者という名のハンターズは捕えたけど、進捗はあまり感じられない。潰しても次から次へと出てくる有様だもの。

 そして廃墟に隠れるようにして作られた奴隷売買所を見て唖然とした。

 人を人とも思わない扱いをされていたり、餓死寸前の人までいる始末だ。


「お、お前は何者なん」

「会話する気も失せます」


 ハンターズの奴隷商人と思われる男を空間圧縮して死体も残さなかった。

 背中を見せて走り出したもう一人の奴隷商人の男を空間転移で引き戻す。

 後ろから首を掴んで力を入れた。


「ああぁぁあがぎゃあぁ!」

「一人くらいは連行します」


 まさに首根っこを掴んで、同行した騎士達に引き渡した。

 衛生観念も何もない売買所を歩きながら、捕らわれている人達を解放していく。

 家族の元へ帰せる人は帰してあげたいけど、中にはメンタルケアが必要な人もいた。こういう人達を助けてこそ王国復興だ。


「さて、残りは……」

「お、お前はまさか聖女ソアリスか?」

「はい?」


 牢にいた女の子が私の名前を呼んだ。

 年齢は一桁くらいでロングヘアーにボロボロの服、面識がない。

 頭部の左右から生えた小さな角以外に目立った特徴がなかった。待って、角ってなに。


「どこの子ですか?」

「我を忘れたか!」

「我って何ですか。からかってないで本当の事を言いなさい」

「ぬ、そうか。この姿ではわからんのも無理はない」


 子どもにしては偉そうで流暢な喋り方だ。よく見ても、やっぱり知らない。


「あの、そろそろ救出しますね」

「ま、待て! 抱えるなぁ!」

「抱えますよ。私も忙しいんです」

「我だ! 魔王ゼスペルだ!」


 思わず歩みが止まった。

 地下内を捜索している騎士達が私を訝しむ。幼女を抱えてる私を。


「なぜあなたがその名前を? お母さんか誰かから聞いたのですか?」

「ええい、それではお前が最後に我に止めを刺した魔術を当ててやろう! 炎属性最高位魔術(フレア)だ!」

「……偶然でしょう」

氷属性最高位魔術(コキュートス)の練度は感心した」


 氷属性最高位魔術(コキュートス)で氷漬けにしても死ななくて、面倒だから炎属性最高位魔術(フレア)で跡形もなく消した。

 ウソでしょ。なんで。魔王はあの時、死んだはず。落ち着いて、ソアリス。

 冷静に魔力で感じ取ればわかるはず。


名前 :魔王ゼスペル?

攻撃力:1

防御力:1

速さ :1

魔力 :1


「こんなひどい魔王がいてたまりますか」

「ひどい?!」


 普通の子どもの数値だ。感じる魔力もそれと同じ――

 いや。研ぎ澄ませ、ソアリス。このかすかに感じた禍々しくも重い魔力。

 魔力値は低いけど、感じる魔力の性質は確かに。


「あなた、本当に魔王ゼスペル?」

「そう言っている。気がつけばこんな姿になっていたのだ。我にもわけがわからんのだ」

「いつから?」


「ソアさん、その女の子は?」


 騎士に話しかけられて、思わず中断してしまった。

 慌てて抱えていた女の子を下ろすと、私の正面に回ってくる。


「我はお前と敵対する気はない」

「そんな数値じゃ敵対しませんよね」

「こんな姿になって人間どもに捕らえられてしまったが、会えてよかった。我はお前に従おう」

「はぁ……」


 ダメだ、疲れが出てきた。

 いくら私でも、こんなの頭の中で処理が追いつかない。

 倒したはずの魔王が幼女になって復活した。この魔王の言ってる事が本当だとして、私はどうすればいいんだろう。

 いや、信じていいのかすらわからない。


「ソアさん、その子はどうするんですか?」

「あ、すみません。私が保護します」

「え? しかし」

「ご心配はいりません。皆さんは捕らえられていた方々の保護をお願いします」


 強引に騎士達を追い払った後、改めて魔王を名乗る子どもと向き合う。

 なんで幼女? 魔王は完全に化け物で、人間とは程遠い外見だったはず。


「なぜこうなったのか、いつからなのか。我にもわからぬ。確かにあの時、死んだはずだというのに……」

「そんな姿になって、すべての力を失ったと?」

「そのせいで目が覚めてすぐ人間どもに捕らえられた。以前の我なら闇属性高位魔術(ダークメビウスロンド)で片付けたものを」

「そのネーミングセンスは間違いなく魔王!」


 他にも闇属性最高位魔術(ゼロワールド)だの闇属性最高位魔術(ダークオブダーク)だの、微妙なセンスのネーミングだった。

 それをドヤ顔で、さもかっこよさげに放つものだから恐れ入る。


「ソアリスよ。お前は我に打ち勝った。我はお前に従おう」

「あの魔王が? 何を企んでいるんですか?」

「我は強者として他の魔族や魔物を従えた。強者には従うものだ」

「それを私に信用しろと? 散々王国を脅かしたあなたを?」

「改心したなどと主張する気はない。今は聖女ソアリスという存在に惹かれるのだ」

「……今更、何を」


 殺そうと思えば殺せる。

 主張の真偽まではわからなくても、今の魔王に以前の力がない事だけはハッキリしていた。

 現時点で危険な存在じゃないけど、仮にも魔王だ。ソアリス、どうする?


「……わかりました。あなたは私と一緒にいて下さい」

「そうさせてもらう」

「ただし、私の目が行き届く範囲から出たら殺します。何か怪しいと感じた時点でも同様です」

「承知の上だ」


 あのゼスペルは尊大で魔族特有の人間見下しが激しかった。

 簡単に信じたくないけど、放っておくわけにもいかない。

 それにこのゼスペル復活が一連の騒動と無関係とは思えなかった。連れていれば何かわかるかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 思いもよらぬ人?とあったなあ。これからどうなるんだろう?
[一言] 弱くてニューゲーム
[気になる点] 幼女魔王だ・・・と・・?(;゜д゜)ゴクリ… 現役時代(化け物)は性別男だったんでしょうか? 転んだら死にそうなステータスですが、弟子2号にして鍛えるというのは危ないですかね~?
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