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新たなる予兆

 ハンターズの元凶が王国軍に捕まったという情報が入った。

 聞けば、やはり私とプリウが追いつめたあの連中だったようだ。

 思い起こすほど悔しさが込み上げる。あの時、私に力があれば聖騎士団の地位は変わっていたのだから。

 挙句の果てに今やどの街でも、我々さえ出入りできない。王国軍が先手を打って、我々の行動を封じたのだ。


「オイ、アルベールゥ……ボケっとしてんじゃねえぞ」

「ハッ! グラ隊長、申し訳ありません!」

「今のオレ達はハンターズの残党狩りでちまちま点数を稼ぐしかねぇ。誰かさんがしくじったせいでな」


 グラ隊長は目の前にいるハンターズ残党を睨んだままだ。

 元凶や案内人を失った彼らの逃げ場所など限られている。街にも入れず、行きつく先は魔物が徘徊する森や洞窟の中しかない。

 同情心など欠片もないはずだが、このグラ隊長が相手ではわずかにでも芽生えてしまう。


「せ、聖騎士団……」

「なぁにビビっってんだよぉ? あん?」

「と、投降する」

「そうか……」


 武器を捨てて、両手を上げたハンターズの者達だがグラ隊長にそれは通用しない。

 先頭にいる男がグラ隊長の特殊な刃によって裂かれる。

 サーベル状のそれは刃の部分の形状が独特だ。斬られてしまえばより激痛を与えると共に、治癒魔術をもってしても傷口がなかなか塞がらないようになっている。

 切断、斬るというよりは痛めつけるのだ。何故、そんな構造をしているのかといえば――


「がはぁッ! あ、がふぉッ……」

「いてぇだろ? でもな、オレはてめぇらみたいなのに容赦したくねぇんだ。出来るだけ苦しんでほしいわけよ」

「あが……」

「あーあ、死んじまった。こんなに早く死ぬんじゃ改良が必要か」


 あまりの残虐な光景に、残りのメンバーも逃走を試みるが無駄だった。

 一人はのたうち回り、一人は呼吸だけが出来ないまま息絶える。

 そしてグラ隊長が、あえて残した一人の胸倉を掴んで立ち起こした。


「仲間の居場所を吐けよ。見逃してやるからさ」

「カ、カドイナ方面に……たぶん、街で助けを求めるつもりだ……」

「で、てめぇらは置いていかれたわけか?」

「そ、そうです……」

「ふーん、そりゃかわいそうなこった」


 手を離してから、グラ隊長が男の顔面に強打を入れる。

 容赦のない暴力の連続には辟易した。私も正義の元に行動している自覚はあるが、ここまでする必要があるのかと疑問に思う。

 烈騎士グラ。原型をとどめないほど敵を徹底して痛めつけて蹂躙する事から騎士団長に名付けられた。

 対峙した敵は肉体も何もかもまともな形で残らない。終わった後は凄惨な現場となり、免疫がなければ嘔吐しかねなかった。


「しゃ、べった、のに……」

「誰がてめぇらとの約束を守るって? 今まで散々楽しんだんだろ? じゃあ、もういいだろ」

「だず、げ、でぇ……」

「やだよ、馬鹿」


 国境付近の森の中、この場にいた最後のハンターズが地面に叩きつけられて果てた。

 私はもちろん、プリウも口元に手を当てて堪えている。そんな様子にグラ隊長が大きく舌打ちした。


「あのな、誰のせいでオレ達まで出張ってると思ってるわけ? 吐きたいなら吐けよ」

「は、い……」

「レーバイン騎士団長の命令でてめぇらを精神面から鍛え直せって言われてんだよ。つまり成果が出ないとオレも怒られんの。って、きったねぇな!」

「すみばぜん……」


 プリウの背中を私がさすっていると、グラ隊長が軽蔑したような眼差しを向けてきた。

 抗議など出来るはずもない。グラ隊長が言う通り、私達は一からやり直しているのだから。


「敵への情けを捨てろや。お坊ちゃんとお嬢ちゃんに足りねぇのはコレだよ。その闘志がありゃもう少しマシな結果が出せたはずだ」

「そ、その通りです……」

「敵を憎め、見下せ。屑以下だ。てめぇらは優等生だが、教科書通りすぎるんだよ。ん?」


 グラ隊長が林の奥へと目を向けた。

 何かがこちらに来る。それも複数だ。魔物か?

 しかし姿を現したのは人間達だ。ハンターズかと疑ったが、その鎧に刻まれているエンブレムを見て言葉を失った。


「なんでこんなところに隣国の兵隊がいるのかねぇ?」

「き、騎士団だ……。まさかこんなところで……」

「ここは王国領だってわかってんのか?」

「滾る、戦いたい、今すぐ……!」


 隣国の兵達の肉体が鎧を破壊する。

 膨れ上がった巨躯は上半身だけが肥大化するというアンバランスさがあった。

 口から伸びた上下の牙や剥き出しになった眼球は、まるでゴブリンなどの低級の魔物を彷彿とさせた。


「オイオイ……オォォイ? いきなりなご挨拶じゃねえの?」

「闘争だ……殺し合いだぁ……!」

「チッ!」


 兵隊だった者達が腕を振るうと、付近にあった大木が軽々となぎ倒される。

 私達もうかうかしていられない。確実に急所を狙って斬りつけるが浅い。


「ウハハハ! いてぇなぁ! でもこれこそが戦いなんだよなぁ!」

「なんだよ、こいつら……見た目も中身もイカれてんなぁ!」


 グラ隊長が兵隊を裂くと、どばりと血を噴き出した。しかし彼らは怯まない。笑いながら攻撃を再開する始末だ。

 グラ隊長が息を吐いた後、武器を静かに振るう。


「烈ッ!」

「ギャッ……」


 兵隊の急所を含めた複数個所が一瞬で裂かれた。それも同時に複数人だ。

 よろめいた兵隊はさすがに耐え切れず、ようやく巨体を森の地面に倒した。


「グ、グラ隊長。さすがです……」

「……まぁな」


 さすがのグラ隊長もこの事態にどう対応していいかわからない様子だ。側頭部に手を当てて考えている。


「なーんで隣国の兵隊がこんなところにいて、こんな事になってんだかなぁ?」

「魔族と何らかの関係が?」

「知るかよ。狩りは終わりだ、引き上げるぞ」


 グラ隊長が不機嫌さを隠さずに歩き始めた。

 追おうと私も歩を進めるが、足元から何か聴こえる。


「……かい、を……戦い、を……」


 迷わず首元に一刺しを入れてから思考した。

 グラ隊長の烈は止めを刺す時の技だ。つまりグラ隊長の全力をもってしても仕留めきれない。いや、それ以上にこの事態そのものに動揺を隠せるはずもなかった。

 一体、何が起きているというのだ?

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