聖女、新たな脅威を感じ取る
ハンターズの処遇のまとめ。
ダルイズ家の資産没収及び父親の男爵の爵位剥奪。直接的な罪を犯してはいないものの、見せしめとして両親の二人を終身刑とする。
ソーク家の資産没収及び父親の爵位剥奪。息子のグスカスによる少年殺人事件の隠蔽など、数々の余罪を含めて情状酌量の余地なし。一家、終身刑とする。
ビラン家の資産没収及び爵位剥奪。ルキヤーが起こした事件隠蔽など数々の余罪を含めて情状酌量の余地なし。一家、終身刑とする。
コーパス家の資産没収、爵位剥奪。魔術による殺傷事件など、数々の余罪を含めて情状酌量の余地なし。
両親、死刑とする。キャランを除いた息子達、無償の魔力供給を生涯の義務とする。
ザイーネ、無償の魔力提供を生涯の義務とする。魔術師、治癒師に消費した魔力を供給する事で社会的な利益が期待できる。
グスカス、終身刑とする。しかし精神面で安定せず。時折発狂するなど、社会的な利益は期待できない。
ルキヤー、終身刑とする。キャラン、終身刑とする。ただし精神面で労働に従事不可という懸念がある。
「ふぅ……まったく、頭が痛くなりますね」
「まったくだ。元凶とはいえ、我が国の民には違いないのだからな」
アドルフ王の自室にて、私達はいつものように白湯を飲む。
あれからハンターズ達を王都に連行して形だけの裁判を行った。
グスカスは悪夢が効いているのか、寝不足でかなり限界がきている。
キャランは闇属性低位魔術でも懲りずに馬鹿笑いして、ルキヤーは最後まで口汚く喚いていた。
他の一家は罪を認めたものの、あの発言この発言を重ねて減刑を懇願するという有様だ。
「本来であれば死罪なのだが、使えるものは使っておきたい」
「アドルフ王も割と冷酷になってきましたね」
「誰の影響だろうな?」
「さぁ?」
本来ならほぼ全員、死刑なんだけど今回はアドルフ王の計らいがあった。
私の時に前国王、リデア、デイビット、ルイワード侯爵周辺がグルになっていたように。
今回の裁判は本当に形だけだ。いつもの真面目なアドルフ王なら絶対にやらない。
「食料問題解決の為の農地開拓……ハンターズ残党討伐など、人員はいくらいても足りない。国の復興の為なら、多少は手を汚そう」
「国内の復興もそうですが、防衛も無視できません。アドルフ王、カドイナの街……国境周辺の警備を固めていただきたいのです」
「国境周辺を?」
「あの炎の魔人……ビフリートの言葉が引っかかるのです」
――血肉躍る戦い! 飽くなき闘争! 待っていた甲斐があった! いいぞぉ!
アドルフ王にその言葉を伝えても、ピンときていない様子だった。
私も少し拡大解釈が過ぎるかなとは思う。だけど、なんで待っていたのかな?
飽くなき闘争というなら、自分から近くにあるカドイナの街に攻めてもおかしくない。
強い相手を見つけるにしても、タウロスみたいに積極的に攻めたほうが効率がいいはず。
「単に強い相手を求めているだけならよかったのですけど。私はもしかして余計な事をしたのかもしれません」
「炎の魔人討伐か? 王都では治癒師ソアの偉業が知れ渡って、民も活気づいている。考えすぎではないのか?」
「それはいいんですけど、どうも嫌な予感がします。あのビフリートはまるで何かを守っていた……いえ」
アドルフ王が言う通り、考えすぎならそれでいい。
曲がりなりにも魔王や邪神みたいな国を脅かす巨悪と戦ってきた私だ。この勘を信じてみたい。
「何かを待っていたように思えます」
「ま、待っていただと? 飽くなき闘争を、か?」
「闘争がしたいだけなら自分が動けばいい……それなのに待っていた理由とは? 単に挑戦者を待っていただけならいいんです。むしろそっちであってほしいくらいです」
「……上の存在か?」
「ジェドの例がありますし、まったく不思議ではありません」
アドルフ王の表情が動かない。
ジェドは十二魔星を名乗るアスクスなる魔族の眷属だと名乗っていた。
ジェドクラスを従えさせる魔族の存在が明らかになっているなら、炎の魔人の上がいるとも考えられる。
「そもそもなぜ国境付近か」
「そこなのです」
「隣国へ使者を送った時は炎の魔人は確認できなかった」
「想像したくないですが、隣国はどうなっているのでしょう?」
アドルフ王がぬるくなった白湯を一気に飲む。焦っていたのか、少しむせて胸を叩いていた。
この人がここまで取り乱すような反応を見せるという事は—―
「よし、ソアよ。カドイナの街に騎士団を追加で派遣する準備を整えておこう」
「ありがとうございます。それともう一つ、空間魔術でいい事を思いつきました」
「まさか集団転移か?」
「それはまだ難しいのですが、せめて個人間での連絡を行えるようにしたいなと。やってみせましょう」
私が空間転移で一度、屋敷へ帰った。
私一人なら、王都内を自在に転移できる。
空間魔術は繊細かつ複雑で、構築難易度も高くて消費魔力を抑えるのに苦労する。
新たな使い方を発見するのに手間取っている理由の一つだった。
「アドルフ王、聴こえますか?」
「ソ、ソアか! どこへ行った?!」
「今、屋敷にいます。空間と空間で音だけを届けられるようにしました」
私の周辺にアドルフ王の声が響く。あっちにも私の声が響いているはずだ。
空間から空間へ音だけを届ける。これが出来れば情報伝達がスムーズに進むどころじゃない。
ただし現時点での欠点は、他の人にも聴かれてしまうところ。
敵が近くにいる場合は使えないからじっくりと研究したいところだけど、やっぱり時間がない。
「今はまだこの程度しか出来ませんが、いずれは街から街へと接続できるようにしたいですね」
「情報こそが生命線……! そうなれば、我が国の事情は一気に変わる! よくやったぞ、ソアよ!」
「どうも!」
この人にストレートに褒められると俄然やる気になる。
こんなにはしゃいでもらえるなら、もっと新魔術を開発したい。





