聖女、エルナと再会する
「お目覚めですね、エルナちゃん」
「ソ、ソア……さん?」
エルナちゃんが私の元に担ぎ込まれた時はショックだった。
魔力強化の上から何かで撃たれた跡があって、それが複数個所ある。
別れた時とは比べものにならない魔力を感じただけに、まともな戦いのダメージじゃないとすぐにわかった。
撃たれた跡がすべて真正面からだもの。何かを庇っていたとしか思えない。
「よく無事でいてくれました……」
「あ……」
エルナちゃんの手を強く握って涙を堪えた。短い間だったけど、復活して一番最初に魔術を教えた子だ。
明るくて熱心で正義感ありすぎて優しすぎて。そんな子を死なせるようじゃ何の為のソアリスだ。
「ソアさん、来てくれたんですか……」
「事情は後で話します。今はわぁっ!」
「ソアさん……! 会いたかった!」
エルナちゃんが抱きついてきて、堰を切ったかのように涙を流す。
何か言おうと思ったけど、何も出てこない。頭を撫でつつ、時が過ぎるのを待つしかなかった。
街の為に、皆の為に。そんな風に無理をしていたのかもしれない。
だとしたらソアリス、あなたに何が出来るの?
「ソアさん! 例の件……あっ!」
「キキリちゃん、もしかして準備できましたか?」
「いいーんです! お構いなく!」
「お構いますよ。今、行きます」
エルナちゃんから離れると、まだ名残惜しそうに見つめてくる。
一人でお母さんを支えて、街を守ってきたこの子は一体何を拠り所にすればいいんだろう。
私の治癒魔術で治ったとはいえ、精神面の回復はまだかかるかもしれない。
* * *
「食事と聞いたけど、何も用意されてないじゃないか」
開口一番にザイーネが悪態をつく。
だいぶ余裕が出てきてるようだけど、今から何が始まるかなんて予想もしてない。
場所はカドイナの街内にある宿の食堂だ。私とザイーネ、ラドリー騎士団長を含めた騎士数名。
トリニティハートやキキリちゃんと、これでもかという顔ぶれに参加してもらった。
「ではご用意していただきましょう」
ようやく運ばれてきた食事にザイーネが前のめりになるけど、すぐに静止する。
テーブルの上に置かれたのは渇きかけたライスに塩スープのみだからだ。
「まさかこれを食えというんじゃないだろうね」
「それがあなたの食事です」
「ふざけるなよ。こんなもの食えるか」
「そうですか? ですがあなたはこれからずっと、そういった食事で過ごす事になるんですよ」
「……はぁ?」
いわゆる臭い飯だ。
これこそが今日の本題であり、ザイーネの命日でもある。
からかわれたと思ったのか、ザイーネが席を立ってライスと塩スープをひっくり返す。
「集団で僕をおちょくっているのかッ!」
「いえ、少し回りくど過ぎましたね。クイントさん……いえ、ザイーネ」
「えッ……」
「えッ、じゃなくて。もっと詳しくいえば、ダルイズ家の長男ロイド。そこそこの財を成した男爵家の息子ですが、ずいぶんと甘やかされたようですね」
「え、え、えぇ?」
「え、え、えぇじゃなくて」
私が話し終えると、食堂に入ってきたのは騎士に拘束された仲間の三人だ。
エルナちゃんが倒したグスカス、ルキヤー、キャラン。
特にエルナちゃんを撃ったグスカスから私は目を離さない。
「き、君達!」
「ザイーネ、てめぇも捕まってたのかよ。ざまぁねえな……」
「なんでここにいるんだよ! まさか君達が僕の事を」
「うるせぇ。討伐に失敗して生かされてる奴に言われたくねぇよ」
仲間割れしているところで、私が手を叩いて注目を戻す。
落ち着いて、ソアリス。あくまで冷静に。グスカスへの個人的な感情は後回しだ。
「ハンターズの皆さん。改めて、今日はあなた達の罪を明らかにしたいと思います」
「へっ……聞いて驚くな、オレのオヤジは」
「下位貴族であるソーク家の交易商が介入できる余地がないのはわかるでしょう」
「か、下位貴族だとぉ! つうか、なんで……」
グスカスは慌てて、ルキヤーはカラフルな爪を指で撫でている。
事態の重さをまったくわかっていない。キャランに至っては鼻をほじってる。
「腹が減った! ギャハハハ!」
「あー、爪の手入れしないとなぁ……」
この二人も下位貴族の娘や息子だ。調べたところ、まともな環境じゃない。
ルキヤーの父親は娘の危険すぎる火遊びを町長権限でもみ消して、キャランの家も魔術師の名家とはいってもほとんど没落してる。
兄達は魔術師の権威を振りかざして、毎日のように遊び歩いていた。
貴族家が落ちれば街中の悪党と化すケースも珍しくない。
ザイーネことロイドを含む四人は典型的な落ちぶれ貴族のダメ子息だった。
「ていうかさっきから汗臭いんだけど?」
「すみませんな、ルキヤー殿」
「殿だって! このジジイ、マジでうけるんだけど!」
「このような老輩でも若者に喜んでもらえたようで何よりです」
厳格で厳しいラドリー騎士団長の物腰が低い。
この人なりの皮肉なんだけど、ルキヤーはケラケラ笑って気づかない。
これから笑えなくなるんだから、今のうちに笑っておかないとね。
「ルキヤーさんは両親が大好きですか?」
「当たり前じゃん。私の為になんでもしてくれるし?」
「そうなんですか。だから今回も安心してるんですね」
「大体、騎士団とかさぁ。パパは軍事大臣だった偉い人と知り合いなんだけど? 言いつけちゃおうかなー?」
またまた騎士団に連れられて入ってきたメンツを見て、さすがに四人も固まる。
そこにいたのは今、話していた両親達だ。ほとんどが青い顔をして、誰とも目を合わさない。
「パ、パパ?!」
「ルキヤー……お前、なんてことを……」
「オヤジ! なんでいるんだよ!」
「グスカス、見ないと思ったらこんなところにいたのか」
拘束済みの両親の前だと、さすがに虚勢すら張れない。唯一、元気なのはキャランの両親と兄達だ。
「来てみれば、キャランじゃないか。出来損ないめ……」
「なんだ、てめぇら? ギャハハハ!」
「閉じ込めていたはずなのにいつの間に脱出したんだ!」
「それより腹が減った! ギャハハハ!」
この場でもっともカオスな一家だ。
この一家は魔術師である事を鼻にかけて、散々な悪さをしたみたい。
魔術を使えるというだけで一般の人には脅威だから、広く弱いものいじめが出来る。
さて、ハンターズの最終処分の始まりだ。
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