魔術師エルナ VS ハンターズ
この人達、どこから入ってきたんだろう。
魔力は低いけど刺々しくて歪んでいて、悪い人のそれとまったく同じだ。
ソアさんが教えてくれた通り、魔力には人によって特徴があった。
――エルナちゃんの魔力はふんわりと優しい感じですね
――そういうのあるんですか?
――まぁ悪い人の魔力は刺々しかったりとか、あるんですよ
――そんなのあるんですか?!
「さぁ歩いて」
「わかった……」
背中を見せて歩き始めた。と思ったら振り返って――
「……危ないっ!」
「か、かわしやがった?!」
魔導銃からの狙撃だった。魔力感知のおかげだ。
名は体を表す。魔力は人を表す。ソアさんが言うように、魔力は人の行動と共に動く。
それをいかに詳細に素早く感知できるか。これが出来るかどうかで、魔術師としての戦闘力が変わってくる。
魔術師はただ強い魔術を放てるから強いんじゃない。魔力を知り尽くして感知し、操れるから強い。ソアさんが教えてくれた事だった。
「もう殺しちゃおうよ! 死ね! 死んじゃえよ、ブスゥ!」
足元から突き出す石柱。女の子の指から放たれる氷の礫。更に小指を動かした際には炎の球だ。
だけど魔力の動きが単調で助かった。
「ハァ?! これもかわすとか!」
「魔術? じゃないよね……」
あの魔導銃と同じく、魔導具かな。
こっちの知識はほとんどないから、より油断できない。
そろそろあの魔導銃の人がまた狙いを定めてくる。
「だせーな! ギャハハハ!」
「うるせーし! だったらあんたがやってみろよ、キャラン!」
キャランとかいう人が複数に増えた。
幻術かな。初めて体験するけど、これも予習済みだ。
――攻撃魔術だけではありません。精神や視覚を狂わせるものもあります
――それは防ぎようないですよね?
――そこで魔力感知ですよ。よほどの相手でない限りは有効です
――魔力感知かぁ、苦手なんだよなぁ
――頼りすぎるのもよくないのですが今はこれに集中しましょう
「少し痛い目にあってもらうね……水属性下位魔術!」
「ギャハッ……!」
無事、本物に直撃した。
下位魔術とはいえ、当たれば人体も破壊されて目が覚めない。
幻術使いの人が大の字になって倒れた。人を傷つけたくはなかったけど、これも覚悟だ。
――エルナちゃんの優しさをとことん強さに変えましょう
――私、優しいのかな……
――自警団に手を出せなかったのは相手が人間だからでしょう
――そう、かも
「私が倒れたら、街の人達が傷つく」
自分の後ろには多くの命がある。そう思えば、相手が人間だろうと奮起できた。
何がもっとも大切か。何をしなきゃいけないか。それを見誤らなければ、迷わない。ソアさんが教えてくれた。
「死んどけやぁ!」
男の両手に握られている魔導銃からまた放たれた。
魔導銃、女の人の下位魔術らしきもの。魔力感知さえすれば、すべてに対する安全圏が見つかる。
見事、そのスポットにいる私を二人の攻撃がすれすれで通過した。
「このブス! マジうざいんだけど!」
「水属性下位魔術!」
「んぎゃッ……!」
圧縮されて撃ち出された水が女の人の肩に当たった。
あの指から放たれる魔術みたいなものさえ封じられたらよかったんだけど。
「いだぁぁい! いだあい! ああぁぁ!」
「少しだけ我慢して」
魔導銃による攻撃をかわしながら、女の人に告げる。肩ごと破壊したし、痛みで気絶してくれた。
私が魔導銃の人を睨むと、わずかに怯む。
「クソッ……なんで当たんねぇんだよ」
「それを捨てて大人しくして」
「わかったよ……ってかぁ!」
口とは裏腹にまた撃ってきた。
懲りない、と思ったところで気づく。私の後ろには民家がある。
魔力強化した上で体で受けたけど、激痛で頭がクラクラした。叫びたくなるほど痛い。
「おぉ! 理解したねぇ! いい子だ! ヒャハッ!」
男が跳躍して二発目を撃つ。
そもそもこれは何を撃ち出しているの?
元になっている弾がさっきからどこにも転がっていない。考えられるのは圧縮した空気かな。
痛みを堪えながらも、男の追撃を警戒する。
「回避しろよぉ? いいんだぜぇ! ヒャッハハァ!」
二丁の魔導銃で私に狙いを定めて、嬉々として発砲してきた。
胸とお腹に一発ずつ、さすがにクラクラする……。
「かってぇな! それも魔術かよ?!」
「そうだよ。そんなものに頼るのもいいけど、もう少しお勉強したほうがいいよ」
「この状況で大したタマだぁ! ぶっ殺す!」
――魔術だの魔力だの、いろいろ教えましたが一番大切なのは心です
――心ですか
――私達は心を持つ生き物です。戦いといっても支えているのは心ですからね
――間違わない事が大切なんですね
――言おうと思ってたのに
治癒師のソアさん。不思議な人だった。
短い間だったけど、私は教わりすぎたと思う。
「次はそこだぁ!」
――心がしっかりしていないと高確率で間違います
――悪いことをしないように! ですね
――それもありますが見誤るんです、そして負ける事もあります
――うーん……どういう事だろう?
「死ねやぁ!」
「水属性中位魔術」
水量がたっぷりある水の壁をようやく作り出せた。その直後、私の頭を狙った狙撃が水に飲み込まれる。
ソアさん直伝、進むほど水の圧力がかかる特別製だ。といっても私のはたぶん劣化もいいところだけど……。
「なるほど、見誤るってこういう事か」
「何がだよ! そんなもん、角度を変えりゃ」
「こっちから音がしたぞ!」
騎士達が左右から駆けつけようとしている。あの人が挟み撃ちになる形だ。
うろたえて逃げようとするけどもう遅い。
この人は見誤ったんだ。私に夢中にならないですぐに逃げるべきだった。これだけ騒いで誰も気づかないはずない。
「そこの男! 武器を捨てろ!」
「チッ! まだまだ……あ、あれ? なんで撃てねぇ?」
何度か撃とうとしたけど、発射される気配がない。
その隙を見逃すはずもなく、魔導銃の人は捕らえられてしまった。
「なんでだ! オイ! クソがぁ!」
「こいつら、もしかして……」
「聞いていた特徴と一致している。そこに倒れている連中も拘束だ」
よくわからないけど助かった。
さっきから痛みで倒れそうでつらかったんだもの。
今回は何とかなったけど、ソアさんなら一瞬で倒しちゃうんだろうな。
私、まだまだ修行不足だ。だってこんな事で意識が――
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