治癒師ソア VS 炎の魔人
フードのせいで顔はよく見えないけど女だ。
そして向こうに見えるのは騎士団に冒険者か? なんだこれ? そういえばルキヤー達はどうした? いつの間にか姿が見えない。
助かったけど状況はもっと最悪だ。よりによってこのタイミングで王国騎士団が来るなんて。
「さてと、これはなかなか強そうですね」
「誰だか知らないけど、まさかあいつを討伐しようっていうのか?」
「そのつもりです」
「君なんかが」
言葉が続かなかった。まただ。さっきも攻撃できなかったし、僕は何かされたのか? 声を出そうとしても、かすれてしまう。しかも震えが止まらない。
「炎の魔人という表現に相応しい風貌ですね。とはいえ、中身はかすかに見えてます」
「中身だって?」
「あの炎の衣をどうにかしましょう。あれをどうにかしない限り、本体へ攻撃が通りません」
女が両手を炎の魔人に向ける。
全身が締め付けられるような感覚を覚えた。いつの間にか暑さも感じなくなっている。
震えがより収まらなくなって、ついに立てなくなってしまった。僕は、僕は、どうした。
「炎属性高位魔術」
炎の魔人が突如、爆破に包まれた。
オレンジと赤が彩る大嵐。局所的に発生したそれは絶えず炎の魔人を襲う。
何が起こってる? 僕は何を見せられている?
「炎が生むのは熱だけではありません。爆風、光、そのすべてが炎の強さなのです」
「何を言ってる?」
「あ、ようやく正体を現しましたね」
「正体……?」
そこにいたのは全身が真紅に染まった二足歩行の牛だった。
鼻から尚も火を噴き出して、腕や足にも未練がましく炎のリングをアクセサリのように身につけている。
あれが炎の魔人だって?
「炎の魔人という情報だけではわかりませんでした。あれは伝承魔族ビフリートです」
「伝承魔族……?」
「炎の中から現れた大牛は炎の化身そのものでした。人間達は大牛を恐れて生贄を捧げたりなど、様々な儀式を行うようになりました」
女の説明を肯定するかのように、牛が鼻から爆炎を噴き出して突進してきた。
「うわっ!」
「問題ありません」
女が片手を突き出して爆破を起こすと、牛がぶっ飛ばされた。
牛がよろめきながらも起き上がると、その表情は明らかに憤怒に染まっている。
「ブ、フォォォ……!」
「ようやく何かを発しましたね」
牛の鼻からまた灼熱が噴き出す。
今度こそ逃げないと。だけど僕は気づいた。まだ立てない。立ち上がろうとしても、腰が上がらないんだ。
女を見上げると、この暑さの中で寒気を感じた。さっきから感じていたのはこれだ。この女の得体が知れなさすぎる。全身がすべての行動を諦めているんだ。それはあのビフリートにやられた時も感じた。
「怖いなら無理をしないで下さいね」
「こ、怖いだって? この僕が……」
「さっきから震えてますよ」
そうだ。不安で押しつぶされそうで、逃げたくて生きたくてたまらなかった。
こんなところに来るんじゃなかった。ずっとそんな事を考えていた気がする。そう自覚した時、涙が流れた。
ビフリートに手も足も出なかった事実を今ここでようやく自覚できた。
「お、お前、その魔力って……」
女は僕のほうに目もくれない。
もし僕が攻撃しても問題ないと判断しているからだ。あのビフリートよりも劣っている僕だから。
「この僕が、魔術の天才が、なんで、なんで、お前、何だよ……」
あの巨大なビフリートよりも小さいはずの女が大きく見える。
ビフリートの炎も何故か女には届いていない。いや、触れてない?
目を凝らしても何がなんだかわからない。なんでわからないんだよ。なんでだよ。
「ブフォォォ……!」
「さすがにタフですね。ですが強い音と光、そして爆風は確実にあなたの命を削り取ります」
「こ、れ、だ……」
「はい?」
「血肉躍る戦い! 飽くなき闘争! 待っていた甲斐があった! いいぞぉ!」
尻餅をつきながら後ずさりしている自分を認めたくなかった。
こんなゲーム、認めない。僕が攻略できないゲームなんてないんだ。
「炎の中から生まれたとされるビフリート……。詳しい事はあまりわかってませんが、何か意味深ですね」
「この命、尽きるまで……燃え上がるッ!」
「ちょ、まだそんな力が……」
ビフリートがまた炎に包まれた。
今度は目鼻の痕跡すらない。完全に炎の化身だ。
「さすが伝承魔族ですね。聞きたい事はありますが、目的を見失うわけにはいきません」
裕福な家庭で生まれた僕はある日、自分に備わっていた魔力に気づく。
後は簡単だ。片手から自然と炎が出せる。あの無能な両親も僕を利用しようとしたけど、そうはさせなかった。
誰も僕には逆らえない。僕に勝てる奴なんかいない。それなのに、この女は。
「派手でドカーンみたいな魔術だけではありません。炎だけではなく魔力も極限まで圧縮してこそ生まれるものがある……」
やばい、逃げないと! ビフリートなんか問題じゃない!
やばいのはあの女だ! やめてくれ、死んでしまう! だってこの魔力はおかしい!
「炎属性最高位魔術」
視界が消えて、目が潰れる。残ったのは音だけだ。断末魔の叫びも何もない。
「……! ……?」
女が何か言ってる。そうか、音のせいで耳がおかしくなったんだ。
ビフリートはどこにもいない。死んだのか。そうか。
「………!」
女が僕を抱えて走り出す。
この怪力、魔力強化か。僕をどこへ連れていく気だ?
まさか正体がばれたわけじゃあるまい。だとしたら、まだ希望はある。
この化け物女をどうにか騙して、逃げないと。
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