滅炎のザイーネ VS 炎の魔人
「クソッ! なんだあの警備は!」
カドイナの街を経由してから魔物の巣に行く予定が狂った。
自警団に支配されるような街だったはずだが、真新しい門や壁が新設されている。それだけならまだよかった。問題は僕達すらも街へ入れなかった事だ。
「ザイーネ、強行突破しちまえばよかったのによ」
「それをやったら賞金首だぞ、グスカス。正体がバレていないというアドバンテージが台無しだ」
「チッ、めんどくせぇなぁ……」
身分証明はもちろん、根掘り葉掘りの質問攻めが嫌らしい。あの街に入れるのはきちんと認められた人間だけだ。誰だよ、自警団に支配されてるとか言った奴。
そんなわけで昨夜は野宿しつつ、ようやく問題の魔物の巣に辿り着いた。
熱気漂う岩盤地帯、岩をぶち抜いて噴き出すマグマ、踊るような炎の輪。
この一角だけが別世界みたいだ。手強い魔物や魔族が支配する魔物の巣は地形そのものを変化させるというが。
「なるほど、これは本物だね」
「あっちぃぃぃ! 近づけねぇよ!」
「ザイーネェ! ホントにやるのぉ?!」
「なんで火ぃ出てんだ? ギャハハハ!」
ハッキリ言ってこいつらは足手まといだ。歯ごたえがあるゲームは好きだけど、こいつらはどうしたものか。
「君達は下がってな。邪魔だ」
「言われなくてもそうするっつの! クソッ!」
グスカス、ルキヤー、キャランが離れていく。
これでいい。あんな連中でも役立つから、ここで死なれるのは困る。
特にキャランの幻術は資金回収にも必要だ。さて、お相手の主はというと――
「……いたな」
陽炎の奥、二対の目を光らせた巨大な何か。
そいつが静かに僕を見据えている。挑戦したければここまで来いというわけだな。
上等だ。この程度の熱で僕がどうにかなるとでも思ったか。
余裕をもってゆっくりと近づくと、そいつも動く。奴を覆う炎の輪が激しく回転して、まるで僕を挑戦者と認めたかのようだった。
「僕はザイーネ。今から炎の魔術で君を殺す」
何も答えない。
炎の化身と形容して問題ない見た目なだけあって、表情どころか全容すらよくわからない。
炎の渦から伸びた上半身らしき姿と二対の光る目だけが、こいつという存在を表している。
「無口な奴だな。まぁ僕も君なんかとお喋りしたくないし……とっとと終わらせるよ。炎属性高位魔術ッ!」
超圧縮させた熱を局所的に撃ち出して殺傷力を高めた炎魔術だ。
火竜の鱗も炎も関係ない。極限にまで高められた熱は物質そのものを破壊する。
それが例え炎の魔人とて――
「……効いてない?」
あいつを覆う炎の中に炎属性高位魔術がのみ込まれた。
仕方ない。もう少し魔力を捻出する必要があるか。
「はぁぁぁ……! 炎属性高位魔術ッ!」
今度は炎の渦が揺らめいた。
いや、だけど。これは。
「こいつ、何なんだよ?」
途端、意識が飛びかけた。
爆風で宙を舞って、後方まで飛ばされたんだ。
無様にも岩盤地帯に体を強く打ち付けてしまった。
「うぐぁ……クッソォ! やったな!」
魔力強化は切らしていないはずだ!
今度こそ本気の本気、最大出力!
「炎属性高位魔術ォッ!」
炎の魔人の頭部を直接、消し飛ばす。だけど、こいつの頭はどうなってる?
僕の魔術の影響なんてないかのように、揺らめきながら頭部が元の形に戻る。まるで不定形だ。
「あ……」
手足が動かなくなった。
頭から足先まで体温が消えていく感覚を覚える。
どうしたんだ、僕の体は。
「おい、次の攻撃だろ。ザイーネ、どうした」
手が震えている。腕そのものが上がらない。魔力が出ない。
次だ、次の攻撃に転じろ。何をやっている。
「く、くる……」
直後、全身に激痛が走る。声が出ない。息が出来ない。指先すら動かせない。視界にあるのは空だ。僕は倒れているのか。
奴の攻撃か? 違う、違うに決まってる。攻撃されてない。されていないんだ。
「あ、あ、ぁ……」
炎の魔人がすぐそこにいる。
何故だ。何故、僕はこうなってる?
おかしい。ありえない。僕は天才のはずだ。
滅炎なんて呼ばれて、誰もが二十歳にもなってない僕を恐れる。
僕と対峙した奴は等しく死体すら残らない。残らないんだよ。
「ご、ごふッ……ぼぐ、は……」
死ぬのか? こんなところで? 嘘だろう? 嘘だって。なんで、僕が。
やばい、意識が。目の前が暗い。冷たい。沈んでいく。こんな、ところ、で。
「高位治癒魔術」
視界が戻った。体温が戻ってくる。
「どなたかわかりませんが、ひとまず助けました」
「は……? なんだ、これ? 君、は?」
僕の脇に立っているのは誰だ。誰が僕を助けた。顔を見せろ。おい。
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