聖女、ハンターズの根に迫る
アドルフ王にこれまでの経緯を説明した。
顧客リスト、ザイーネ、炎の魔人討伐。この人も連日、予算割り当ての決定なんかで疲れている。会うたびに治癒魔術をかけてあげているけど、なんだか胸が痛む。
それでも私の顔を見ると笑顔を見せてくれた。
「すまないな、ソアリス。結局、聖女と呼ばれた君に頼りきりだ」
「何を仰いますか。私は好きで動いているので気になさらないで下さい」
「国内にこれだけ多くの問題を抱えてしまっているのは、私の」
「そういうのはいいですから。私が炎の魔人を討伐してみせれば、士気が上がるかもしれません。国内にこれだけ強い味方がいると知らしめるんです」
さっきからアドルフ王は白湯ばかり飲み続けている。
謝らなきゃいけないのは私のほうだ。王都でも私に関する良くない噂が出回っている。私が魔族と通じているとか国を乗っ取ろうとしているだの、両親の耳にさえ入ってきていた。
アドルフ王も知っていると思う。
「何も気にするな。炎の魔人討伐、やってみせてほしい」
「肯定していただけると心強いです。その際に出来るだけ大規模の部隊編成をお願いしたいのです」
「うむ、そなたの実力を大勢に見せつけるのだ。第二の聖女ここにありとな」
「後はハンターズですね。こちらは順調であるものの、大元がさっぱりわかりません」
投降した元ハンターズには無期限の労働に従事してもらっている。武器を持たせる仕事はさせてない。
こんな風に人手不足の穴は埋めつつあるけど、大元に関しては誰も知らなかった。
「しかし妙だな。ハンターズの案内人も何者かと通じているはず。何故、途切れる?」
「案内人も先にいる相手の顔や名前はわからないそうです。覆面をしていたり言葉を発さないで筆談をしてきたり……。そんなのが各地にかなりいるんですよ」
「情報の聞き込みの成果は?」
「ナシです」
更に覆面の先に、と考えると途方もない。どうもかなりのルートを経由して金や情報をやり取りしているみたいだ。
問題なのはいつどこでそんなのを構築したのか。
「もう一度、顧客リストを見せてくれ」
「はい」
アドルフ王が顧客リストを見つめたまま、白湯のカップにすら手をつけていなかった。
「この顧客、貴族が目立つな。地方の下位貴族とはいえ、これだけの者達と関係を築くのは容易ではない」
「何かお気づきになられたのですか?」
「私もすべての貴族と面識があるわけではないが、この四人はそれぞれ交流がある。仕事上の関係であったり、私的であったり……」
「まさかその方々が背景に?!」
「いや、そう決めつけるのは早計だ。注目すべきは他の顧客だな。冒険者はわからんが、かなりの割合で彼らと関わりがある仕事に従事している。或いはしていた」
頭を魔力強化された拳でガツンとやられた気分だった。
いくら顧客の情報を集めても、そこにある共通点を見つけ出さないと意味がない。私や冒険者がいくらリストを見てもわからないわけだ。
「え、えっと。つまり?」
「四人の貴族が主犯格かどうかはさておき、この人脈の共通点は只事ではない。貴族……もしくは彼らに近い人物が、把握している人脈を基盤として広めていった……とも思える」
「彼らが大元である可能性があると?」
「否定はできないな。そもそもハンターズという存在が周知されたのも異常に早かった」
もし貴族達が主犯格だとしたら、まさにルイワードやグレースは氷山の一角だ。
ネズミ講みたいに顧客から顧客に伝播していった可能性もある。そうなると覆面の人物や案内人も、それ関係かもしれない。
「ではルイワードの時みたいに彼らの元に……」
「彼のように大胆な証拠を残していればいいがな。それに何度も言うが貴族が主犯ではない可能性がある」
「近しい人物……家族や部下ですか?」
「その者達が情報を悪用しているかもしれん。いずれにせよ、確実な事は言えないがな」
私が口を開きかけた時、この部屋に誰かが近づいてくる。話し声でも聞かれたらまずいから、魔力感知で探っていた。
「誰か来ます」
「クローゼットに隠れてくれ」
やたらと大きなクローゼットに身を隠すと、ドアをノックしてから入ってきたのはラドリー騎士団長だ。
覗いて確認したいけど今は魔力感知だけで我慢した。
「報告、申し上げます。かねてより監視していた聖騎士団が大規模な部隊を編成しているとの情報が入りました」
「レーバイン……何か掴んだか?」
「そうだとすれば、我々も急がねばなりません。彼らが大きな成果を挙げたとなれば、こちら側への強い牽制にもなります」
「本来であれば協力すべきなのだがな……。まったく、こんな時だというのに我々は何をしているのか。よし、わかった」
ラドリー騎士団長に向けて話しているアドルフ王だけど、かすかに視線をこちらに向けた。
私にも話している。そういう意思表示だ。
「今から伝える各街へ部隊を派遣しろ。いつでも動けるように待機しておけ。いいか、最優先は民の命だ。聖騎士団が踏み込んできてもそれは同様だ。わかるな?」
「ハッ!」
街は心配ないというアドルフ王のメッセージだ。
仮に聖騎士団がハンターズの主犯格に目星をつけていた場合、街にも容赦なく踏み込んでくる。
その際に巻き込まれるのは関係ない人達だ。そうなる前に街に正規軍を派遣しておけば、防衛になる。
もし聖騎士団が正規軍に手を出そうものなら、完全に討伐の口実にもなった。
「それと炎の魔人討伐隊編成も急がせろ。三日後に発つ」
「あ、明日中ですか? それに今、炎の魔人討伐を優先するのは……」
「治癒師ソアが一人で炎の魔人を討伐する」
「ソ、ソア殿が?! さすがにそれは……」
主犯特定も大切だけど、本当に危険なのはザイーネみたいな実力者だ。
私が炎の魔人討伐をしたという噂が流れたら、向こうからやってくる可能性があった。
「彼女の実力を知らしめる時が来たのだ」
「……わかりました」
ラドリー騎士団長も、私の噂は知ってるかもしれない。
少し迷う様子を見せていたけど相手は王様だ。すぐに切り替えた。
「急がせます!」
「頼んだぞ」
アドルフ王のその言葉はやっぱり私にも向けていた。
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