廃洋館にて
「ハンターズ! 貴様らには何一つ情けはかけん!」
地道な調査を続けた甲斐があって、ついにハンターズの隠れ家を発見した。大昔に失脚した下級貴族の別荘だった廃洋館だ。場所が場所だけに発見が遅れたのは致し方ない。
ここが奴らの本陣かどうかは不明だ。しかし築年数の割に建物の劣化があまり進んでいない時点で、継続的に使用されていたのは明らかだった。
この私、アルベールとプリウの総仕上げだ。ここを攻略すれば、私はアルンス様やグラ様が座る真騎士の席に着く事が出来る。そんな私達を出迎えたのはハンターズの男女三人だ。
「なぁにぃ? ここ見つかっちゃったわけぇ?」
「だから言っただろぉ! こんなでかい建物じゃ見つかるってよぉ! ギャハハハッ!」
驚いた事に、全員が少年と少女といっていい見た目だ。年端もいかない少女が目が痛くなるほどのピンク髪を主張していた。
その横で伸ばしきった不衛生な黒髪に無精髭の少年が、不快な笑い声をあげている。
「うるせぇなぁ。で、何なの、君達?」
「聖騎士団の騎士アルベールだ」
「聖騎士団……あー、なんかわかる。わかるわかる。で、やるの?」
「当たり前だ。自分達のした事がわかっているのか」
長い金髪と間延びした喋り方がどことなく軽薄な印象を受ける。あの笑い声の少年といい、こいつらは何なのだ? 全員、まだ子どもではないか。
「あいつはどうしてる?」
「寝てるよ。起こすとキレるからオレらで処理すっかぁ」
「えー! だるいー! あんた一人でやってよぉ!」
「はぁー? じゃあ、ここが見つかりましたけどルキヤーに押し付けられましたってあいつにチクるけど?」
「うわっ……死ねばいいのに」
なんだ、こいつらは? 我々を前にして、何をやり取りしている?
どうも今まで討伐してきたハンターズとは毛色が違う。相手が少年少女だろうと関係ない。ここは先制で――
「チッ!」
「外したんだけどぉ?!」
ピンク髪の少女ルキヤーが片手で氷の弾丸を放った。しかも足元からの岩柱の波状攻撃だ。魔術師か? その割には魔術が感じられん。
「かわされてんじゃねーよ」
「まったくだな」
「ちょっ……」
この中でもっとも強いのは金髪の少年だ。
刃が体を――通過した?
「ギャハハハ! 騙されてやんの!」
「あの男か!」
無精髭の男の魔術だ。幻術系か精神干渉系か?
プリウも騙されて空振りした直後、金髪の少年が両手に何かを持ってこちらに向けてきた。あの丸い空洞から何かが放たれる?!
予想通り、放たれた何かが床や壁を滅多打ちにする。
「マッジかぁ! これで大体、仕留められるのによぉ!」
「貴様、なんだそれは!」
「知らねーの? おっさん、古いなぁ」
「おっさんだと! 私はまだ二十代だ!」
「おっさんじゃん」
手の内は大体わかってきたが、無精髭の男の魔術が肝だ。おそらく侵入者用に最初から下準備は整えていたのだろう。
「おめーら、どんどん攻めろよぉ! ギャハハハッ!」
「攻めろぉ! ギャハハッ!」
「ギャハハハハッ!」
無精髭の少年が分裂したように見える。それに伴って笑い声が増して、余計に思考や視覚がかき乱された。
更にピンク髪の少女ルキヤーと金髪の少年にも同じ現象が起こる。なるほど、なかなかやるがこの程度なら魔族の足元にも及ばない。
「甘いッ!」
「ギャァァッ!」
「いだぁぁい!」
「うぎゃっ!」
致命傷を負わせない程度に、全員を斬った。
幻術だろうが、この私達がどれだけの相手と戦ってきたと思ってる。ろくに気配も殺せないようなガキどもに後れを取るわけがない。
「いでぇよぉ……」
「見たところ、あまり戦闘経験がないようだな。それはともかく、お前達もハンターズなのか?」
「あ……ザ、ザイーネ……起きたのか……」
「なに……」
突如、全身が炎に包まれる。
視界が消えて、意識も途絶え――
「ハァ……ハァ……」
「ア、アルベール、様……ご無事ですか」
「今のは……」
何者かが階段の上からエントランスホールへと降りてくる。
心臓の高鳴りが止まらない。今の錯覚は、降りてきた主がその気になった時の未来だ。その未来が訪れていたら、私は死んでいた。
「寒いなぁ……。君達じゃ分が悪いのもしょうがないけどさ。せめて奇襲くらいはやってよ。努力しようよ」
「わ、悪かった……反省する、ザイーネ」
ザイーネと呼ばれた少年だ。あいつが私達に死をイメージさせた。紅の短髪、まだ幼さが残る顔、年齢は十代前半といったところか。あいつがザイーネ。聖騎士団でも最高の危険度に設定されている魔術師。ここでザイーネと遭遇するとは。
少年少女達の軽薄な態度はどこへやら、全員が怯えている。
「怪我を治してやるからさ。後で取り分、僕に全部くれよ」
「ぜ、全部……わかった……うあぁぁッ! 熱いッ! 熱いぃ!」
「治癒魔術は使えないんだから我慢しろよ。傷口なんて焼いて塞げばいいんだよ」
背中を見せている。隙だらけだが動けない。
動いた時点で結果はわかっているからだ。本能があの少年との戦闘を拒否している。強引な治療を終えたザイーネが私に向き直った時、身体が震えてしまった。
「で、他に仲間とかいる?」
「い、いない……。私達だけだ……」
「ホント? 真騎士ならまだしも、こんなザコを派遣したかぁ。聖騎士団、もしかして僕を舐めてるな? 寒いなぁ」
年下の少年に侮辱されて、言葉も何も出ない。誇りよりも、命を優先している私がいる。怒れ、アルベール。剣を向けろ。
「しっかし、ここがバレたのは痛いなぁ。どうしよっか?」
「あー! じゃあさ! そいつらを人質にしちゃえば? どうせ聖騎士団なんて頭硬い馬鹿の集まりだし、ちょっと脅せば何でも言いなりになるんじゃない?」
「ルキヤー、頭いいじゃん。それ採用ね」
怒りはある。喉元まで出かかっている。私どころか、栄えある聖騎士団をここまで侮辱されているというのに。
ザイーネが片手を私達に向けた時、屋敷の外から怒声が聴こえてきた。
「表に出ろ! この屋敷は包囲されている!」
あの声は父上、レーバイン様だ。今回の任務は我々に任せたはずだが、一体どういう事なのか?
「ゲッ! お前、嘘ついた?」
「知らない……」
「じゃあ今、叫んだのは誰?」
「レーバイン様……聖騎士団のトップだ」
ザイーネが大きく舌打ちした。他のメンバーがそんな少年の顔色を伺って次の言葉を待っている。
「真騎士ならまだしも、レーバインは面倒だな。仕方ない……君達、ここは逃げるぞ」
「えー! 人質とって脅そうよ!」
「ルキヤー、あのレーバインが本気を出せば人質込みでも君達の命はないよ。それになるべく余計な魔力を消費したくないんだ。次の相手はあの炎の魔人だからね」
「わ、わかったよぉ」
「じゃあ、行くよ。まったく……寒いなぁ」
ザイーネが屋敷の奥へと駆け出して、他の者達も続く。同時に屋敷の扉が大きく開け放たれた。
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