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聖女、ハンターズ討伐会議を行う

「ソア、これが顧客リストだ」

「感謝します、ハリベルさん」


 ハンターズに潜入していたトリニティハートと落ち合う。今日はその他、冒険者達が集まって情報のやり取りをする日だ。

 待ち合わせには全員が集まれるような手頃な場所を選んでいる。今は冒険者がよく使う野営場所だ。ここの簡易小屋でテーブルを囲んでの会議をしている。


「これがハンターズの常連客ですか。地方の下級貴族が多いですね」

「一般の連中もちらほらいる。ただし、中にはハンターズの実態を知らずに利用している者がいるのも問題だな」


 あれからトリニティハートはうまくやっているみたいで、着実にハンターズの情報を得ている。

 ハンターズのメンバーと仲良くなり、彼らが依頼を引き受けたところで阻止。まだ踏みとどまれるなら投降を促して、そうじゃなかったら討伐対象だ。

 この繰り返しで何とか今日までバレずにすんでいるのは、ハンターズという組織の杜撰さを物語っていた。


「投降してくれた連中は多くはない……。中には殺人や強盗を常習しているのもいてな」

「やはりそのほとんどが冒険者ですか?」

「意外とそうでない奴も多かった。眠れる犯罪者の資質というか……。そんなものを抱えている奴もいたようだ。だが、問題はそこじゃない。ハンターズの規模だ」

「未だ全容が見えないのがすごいですね。さっぱり大元に辿り着けません」


 ハリベルさんが頷いて、他の人達もどこか疲れきった表情をしている。

 顧客リストに改めて目を通すと、ルイワードやグレースが氷山の一角だとよくわかった。王都以外にもこうやって悪さをしている人達がいる。それ自体は二十年前も変わらないけど、このご時世も相まって特に増えているのかな。

 世の無常さを嘆くわけじゃないけど、ため息くらいは出る。


「優先したいのが、顧客に買われた人達の解放ですね。それと捕らえられている場所の特定も急ぎたいです」

「この国じゃ奴隷は禁止されてるってのによ……」

「あ、デュークさんで思い出しました。皆さん、滅炎のザイーネって知ってますか?」

「いや、なんで俺で思い出すんだよ……ん、滅炎って」


 だってデュークさんなら真っ先に挑みそうだから。それはそうと、誰も答えてくれない。


「知らない人はいないよ、ソアさん……。なんであなた、知らないの?」

「サリアさんは魔術師だから、やっぱり知ってるんですか?」

「魔術師じゃなくても、この様子を見ればわかるでしょ。滅炎という名の通り、炎属性の魔術を完成させた魔術師よ」

「炎属性の魔術を完成させた……?」


 それから皆が口々に語ってくれた。

 ザイーネが操る炎の魔術は、一級に指定されている火竜にも通用して討伐した事。マグマの中で生まれたと言われている火竜を炎で。

 その完成度は、炎を得意としていた魔術の使い手を引退に追い込むほどだった。それは焼き殺すというより消滅に近い。

 ザイーネにかかれば、無限とも思える火力でどんな生物も死に至らしめられる。


「自信の表れなのかな。ザイーネはあえて炎に強い耐性を持つ魔物に挑む事が多いみたい。滅炎はザイーネ以外の炎属性を滅した事からついた呼び名とも言われてるの」

「そんな魔術師が……」

「ソアさんって旅をしていた割に知らない事が多いよね……。魔術はあんなにすごいのにね」

「そんなのがハンターズ入りしていたとしたら?」


 あの自信家のデュークさんですら何も言わない。腕を組んで難しい顔をしている。


「……しているらしいのですよ」


 また誰も喋らない。私以外にはよほど周知の存在で、恐れられているみたい。

 そんな中、一人の冒険者が席を立つ。


「笑えない冗談はよしてくれ。それが本当なら俺は抜ける」

「ちょっと待って下さい。私達はこれまで魔族とも戦ってきたじゃないですか」

「その魔族すら上回るような奴だろ?」

「魔族にもいろいろいますから。それに聖騎士団のレーバインさんだって、単独での魔族討伐実績があります。決して不可能というわけじゃないんですよ」

「そんなのが敵として現れたら、間違いなく逃げ切れないな」


 まずい。非常にまずい。いらない情報を与えてしまった。この人達に抜けられたら、ハンターズ撲滅は遥かに遠のく。

 確かにいろいろいて実態がわかりにくい魔族よりも、身近な人間が敵というほうが怖いかもしれない。私の発言が原因で解散の危機になっているなら、私が何とかするしかないか。


「では皆さん、滅炎のザイーネを上回る人間が味方にいればどうですか?」

「……君がそうだというのか?」

「はい。私なら勝てます」

「だから冗談はよせ。トリニティハートが認めるほどの実力があるのはわかるけどな」


 他の冒険者も次第に席を立ち始める。

 王都での私の噂といい、今まで自分自身の立ち位置や評判を軽視していた。いくら他の人達を育てても、私への信用一つでこんな事態になる。

 さすがにもう限界かな。聖女ソアリスの切り札を使うべきかな。


「おい、待てよ」

「なんだよ、デューク」

「ソアの実力を見てからでも遅くない」

「まさかお前までソアがザイーネより上だと言い出すのか?」

「そうだ」


 迷いない即答が冒険者の意表を突いた。言葉を返せない冒険者の前に今度はサリアさんが出る。


「私からもハッキリ言うわ。ソアさん以上の魔術師は見た事がない」

「で、でもザイーネを見た事ないだろう?」

「それはあなたも同じでしょ?」

「そうだが……」


 そうだ。私の事は私がやるしかない。聖女の切り札を使わなくても、認めて貰う事はできる。


「ではこうしましょう。皆さんが知っている炎の魔人、私が炎の魔術のみで討伐します」

「……正気か?」

「情報通りなら、炎の魔人の強さは火竜の比ではありません。皆さんの前でやって見せましょう」

「いやいや、悪かった。抜けるのはやめるよ。だからそんな無茶は」

「やります」


 トリニティハート以外の人達が顔を見合わせている。マジかよみたいな雰囲気だ。大マジです。

 予定が大きく変わっちゃったのは気になるけど仕方ない。

 作ってもらっている炎耐性の防具は観戦時にも必要だから、無駄にはならないはず。


「では予定を決めましょう」


 淡々と進める私に口を出せる人はいなかった。

 私にはアドルフ王やラドリー騎士団長、レーバインさんみたいなカリスマも実績もない。だったら作るしかないんだ。

この作品、四半期ランキングに入ってるみたいです!

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