聖女、ハンターズを撃退する
実はバエン自体はどうでもよくて、その他のメンバーを観察していた。
水属性上位魔術に対して、バエン以外の人達の動きだ。仲間がバエンに足蹴りされて水属性上位魔術に叩き込まれた時。憎悪や軽蔑の表情を見せた人達だ。
ハンターズ入りしているけど、この人達はまだ引き返せるかもしれない。仲間を殺されて怒るだけの感情が残されているから。
「クソッ……クソクソッ! 魔力がすべてじゃねえんだよ! 火属性低位魔術!」
バエンの両手から火球が高速で放たれる。水属性上位魔術に着弾して、激しい蒸発音が響いた。
「火属性低位魔術! こんな水なんざぶち抜いちまえ!」
悲しいけどうるさいだけで何の進展もない。バエンが汗だくになって魔力を消費しようと、そもそものクオリティが違う。
「無駄ですよ。魔術には確かに優劣がありますが、魔力の練度によっていくらでも左右されます。あなたのそれは魔術の三大原則である魔力の操作は突出して上手です」
「うるせぇぇぇ!」
「魔力の理解、意識がやや欠けているので一発の威力が疎かになってます」
「うおぉぉぉぉぉッ!」
呼吸を荒げながら、ひたすら火属性低位魔術を撃ち込んでいる。独学でここまで魔術を完成させたものなら大したものだと思う。
さて、水の障壁を当然のように通り抜けた私は唖然としている他のハンターズに接近する。
「先程、殺された方はあなたの大切な方ですか?」
「は? 今、通り抜けて……」
「気にせずに。どうなんですか?」
「別に……。ただ一緒に行動していれば、それなりに情も沸く」
叫び狂いながら無駄に魔力を消費するバエンの後ろで、他のメンバーはすでに諦めムードだ。
少なくとも一度は襲ってきた相手だ。いろいろ悪さをしているかもしれない。それでも今は純粋に人手がいる。
わずかにでも良心が残っていて引き返せるなら、こっちに来てほしい。
「彼は確かに私の魔術に放り込まれて死にました。ですが直接、蹴り飛ばしたのはバエンです。次はあなたの番かもしれませんよ」
「そ、そうなる……のか?」
「彼が意図的に誰かを選んだ素振りを見せましたか? 自分以外の命なんて、どうとも思ってない人物です。かつてあなた達が討伐していた盗賊と性根は変わりません」
「始末屋バエン……噂には聞いていたが、あんな奴だったなんて……」
これ以上は何も言わない。
ようやくこちら側にいる私に気づいたバエンが目の色を変えて火属性低位魔術を放ってきた。
当たったところでどうにもならない。あの魔王ですら私に魔術でダメージを与えられなかった。
「こいつ、こいつぅぅ!」
「うるさいですね。あなたはもういいです」
空間ごと首を切断して終わらせた。実力は申し分ないけど、いらない。
バエンの体が前のめりに倒れたところで、ハンターズは顔面蒼白だった。
「な、なんだ、何が、どうなった?」
「あの女、やばいぞ!」
「逃げるんですか? 次に悪さをしたら、あなた達もこうなりますよ」
よっぽど怖かったのか、全員が逃走をやめた。膝が震えて完全に怖気づいている。
鉱山村の襲撃が初犯の三級パーティと違って、この人達にはいわゆる実績がある可能性があった。
だから本音をいえば簡単に引き込みたくない。
「ハンターズは大した規模ですね。ですが警告します。近い将来、ハンターズの仕事はなくなります」
ハンターズどころか、商隊の人達すらさっきから沈黙している。ただの治癒師のはずが、こんな有様だから無理もない。
散々見せた私の実力、そしてこの言葉だけで説得力は十分だった。ついに全員が武器を捨てて、両手を上げる。
「……投降したい」
「ご決断ありがとうございます。悪いようにはしません」
悪いようにはしない。悪い事をした人が無償労働させられるように、この人達にもせいぜい働いてもらう。
「商隊の方々も、ご納得いただけたら嬉しいのですが……」
「……俺達に選択権があるのか?」
「ないですね」
「じゃあ、聞くなよ……」
騎士を目指していた隊長の覇気がない。私が近づくと怯えて後ずさりした。今回は私がいたから事なきを得たけど、本来なら全滅している。少しくらい強引に仕切ってもいいよね。うん。
投降したハンターズに目を向けると、見事に大人しくしていた。今回はバエンを含めて十六人規模、これが多いのか少ないのかはまだわからない。
正直に言うとバエンはそこそこいい線をいってた。トリニティハートが戦っても苦戦する要素はまずないけど、バエンの実力は一級に迫る。
「あなた達にいくつか質問があります」
「あぁ、答えられる範囲で頼む」
聞いたところによると、バエン率いる十六人の実績は商隊をいくつか襲っている。いずれも成功したみたいだけど、ハンターズ内の実績でいえばまだまだみたい。
という事はもっと強い集団が、もっと大きな悪事をやらかしているわけで。そこでこの人達が知ってる実力者を聞いてみた。
「滅炎のザイーネ? 聞いたことないですね」
「あんたほどの魔術師がか? 魔術師の中じゃ知らない奴はいないらしいんだが……」
「若いんですか?」
「そこまでは……。噂によると単独で魔族を討伐するほどの実力者らしい。と、酒が入ったバエンの奴がしょっちゅう愚痴っていたのを思い出した」
そこまでの魔術師がハンターズにいるのは凶報でしかない。そしてそのザイーネが氷山の一角だとしたら、ハンターズは私が思っている以上の集団だ。
トリニティハートを始めとしたスパイチームがいい情報を持ってきてくれたらいいんだけど。遭遇したら絶対に戦わないでほしい。
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