聖女、鉱石を求める 3
ここには鉄やミスリルのゴーレムが多数いる他、鉱脈としても優秀だった。
地属性上位魔術で掘ってみれば、レアなバベル銀やヘリアル鉄が採掘できる。
バベル銀は加工次第だけど、いろいろな属性にわずかながら耐性を持つ。
ヘリアル鉄は軽くて頑丈を地でいく優秀な鉱石だ。武器や防具にすれば、二級の魔物相手に安定した性能を見せつける。
炎の魔人討伐前には人数分だけでも装備を整えておきたい。
特にバベル銀と赤い魔石を組み合わせれば、かなりの炎耐性を得られるはず。
「連携の精度が上がってきたな。プリウ、この調子だ」
「は、はいっ! この調子でやりまくります!」
「ん? 高ぶる気持ちはわかるが抑えろ」
プリウちゃん、あれからますます動きに磨きがかかった。
数値以上の強さを発揮できるフィーリングハートは予想より遥かに強い。
好きな異性と組むだけで、ねぇ。ぜひ我が王都の子にも欲しいスキルです。
「プリウちゃんはアルベールさんがかなり好きなんですね」
「え……? ああぁッ!」
プリウちゃんがいきなり転んだ。
さっきまでの軽快かつ無駄のない動きは何だったんだろう。
「ど、どうしたんですか?!」
「どうもしませんよッ!」
「どうして怒ってるんですか?」
「どうも! しませんからっ!」
起き上がって、ぷりぷりと怒りながら早歩きで先行した。
私、何か言ったかな。怒らせちゃったなら後で謝らないと。
「プリウ、油断するなよ」
「しませんったら!」
「なぜ怒っている? 先程の連携で私に至らないところでもあったか?」
「それより、ここの主はいるんですかね!」
ここは魔物の巣化しているけど、タリウスみたいな主はいない。
ただし――
「強力なゴーレムが三体ほどいます。全部、ミスリルゴーレムより遥かに手強いですが主ではなさそうです」
「何故だ?」
「統率を取れるような知能や影響力がないからです。主とは魔物の巣の維持に欠かせない存在ですから、三体を倒したところで何も影響はありません」
「そうか。しかし、ここで逃げ帰るわけにはいかん」
「レーバインさんに認めてもらう為ですか?」
「それもあるが……」
アルベールさんはより表情を曇らせる。
プリウちゃんが真剣に覗き込みすぎて、距離が近い事に気づいてない。
「自室で一人になり、剣を手放した時に思うのだ。剣がなければ私は何なのだ、と」
「剣術以外の事に興味は持てないのですか?」
「物心がついた時には王都から離れていた。荒れ狂う暴徒達の中、父上が私を抱えて走り抜けたのは今でもよく覚えている」
「それは……」
つまりこの人はまともな幼少時代を過ごしていない。
まともな王都の姿すら知らない。
父親のレーバインさんと王都を離れて、そこからの人生は何となく想像できる。
「父上は厳しかった。幼い私に剣を握らせて、泣こうが喚こうが決して優しさなど見せなかった。
しかし上達を見せると、父上は褒めてくれた。その時、気づいたのだ。私が生きる道は剣だと……」
当時のレーバインさんの心境はわからないでもない。
私なんかが口出しできるわけもない。
「父上と違い、聖女ソアリス様を見た事すらない私の敬愛など程度が知れる。この剣がなければ、敬愛すら上滑りするのだ」
「なるほど……」
あなたの目の前にいますよ。
きちんと見てます。
「この剣で切り開けない道があれば、私はそこで終わりだと思っている」
「でも、終わりたくないですよね」
「そうだ。だからゴーレムだろうが、負けるわけにはいかん。いずれ聖騎士の称号を獲得して、真の意味での騎士となる。そこで初めて私は聖女ソアリス様への敬愛を示せると思っている」
「敬愛、ですか」
そういう風に育てられたんだろうな。
それがいい事か悪いことか、わからないけど。
迫るミスリルゴーレムを粉砕してから、アルベールさん達に向き直る。
なんだこいつみたいな視線がちょっと痛い。
「確かに強い覚悟があればもっと強くなれるはずです」
「急にどうした? 何を考えている?」
「あなたは守られるのが嫌というより、守られない強さを剣で得たいのですね」
「その境地に至るのが理想だと思っている」
「ですが守られて見えてくる事もあったでしょう?」
アルベールさんが自分の剣を見つめている。
あくまで剣を通して見つめたい。そんな感じにも思えた。
「だったら守られてもいい。次はこうしようかな。そんな感じで、ぜーんぶ糧にすればいいんですよ。私なんか失敗の連続ですからね」
「お前が? 嘘だろう?」
「と思うでしょう? 化け物治癒師の失敗談、聞きたいですか?」
「……興味ない事もない」
アルベールさんが少しだけ笑う。
だけど隣のプリウちゃんが口を半開きにして、私と交互に見比べていた。
さっきから何をしてるんだろう?
「アルベールさん。レーバインさん達と同じ風景を見たくないですか?」
「父上と? どういう意味だ?」
「かつてレーバインさんが見ていた王都の姿です。今は昔とは程遠いですが、いつか見せてあげましょう」
「何をデタラメな事を……。いやしかし、お前と話していると調子が狂う」
また迫るゴーレム達にアルベールさんが剣を突きつける。
「期待しない事もない」
「アルベール様ッ! 敵が来てますよ! 何を呑気にお喋りしてるんですか! もう!」
「そうだな。すまなかった」
何故か燃え上がるプリウちゃんと共に、二人がゴーレムに挑む。
複数相手でも今の二人なら引けを取らない。
その戦いぶりを見ながら、私はかつての王都を思い浮かべた。
いつかあの姿を蘇らせたい。見せたい相手がいるというのは、しっかりとした原動力になる。
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