聖女、鉱石を求める 2
「クッ! 意外に硬い!」
「アルベール様! 援護します!」
二人がミスリルゴーレムと激戦を繰り広げている中、私は鉱脈を捜していた。
空間掌握の精度も上げないといけない。
皆を鍛えるなんて言ってるけど、あの蛇化したジェドを素通りさせてしまったのは悔しい。
より集中して、塵すらも拾うつもりで空間掌握!
「ぐぁっ!」
「いたぁ!」
いいところだったのにアルベールさんが背中ごとぶつかってきた。
壁とアルベールに挟まれている。
「あのー!」
「す、すまない……」
「あのですね、あれだけ言い切ったなら私を一般の人だと思って戦って下さい!」
「な、何?!」
「あなたは弱き民を守る騎士でしょう? ここにいたのが私じゃなかったら、一大事ですよ」
言葉に詰まったアルベールさんの前にミスリルゴーレムが立ちはだかる。
何の技もない魔物なんだけど、これほどまでに硬さと強さを融合させた魔物もなかなかいない。
名前 :ミスリルゴーレム
攻撃力:1,305
防御力:4,633
速さ :72
魔力 :0
スキル:なし
「ノロマの分際で……」
急所が存在しないゴーレムに、アルベールさんの必中眼は役に立たない。
この場合は残像の回避スキルもノロマ相手じゃ過剰効果だし、割と相性が悪いと思う。
それでも手はないわけでもないんだけど。
「はぁぁぁっ!」
アルベールさんが斬り込む。
ミスリルゴーレムの周囲を高速で駆け回りながら、斬撃を浴びせ続けた。
だけど表面が削り取られるものの、停止には程遠い。
そんなミスリルゴーレムがのろいパンチを放つけど、かわされる。
いつまで経っても決着がつかなかった。
「アルベール様!」
「待て、プリ……」
ここで最悪の事態が起こった。
アルベールさんを援護しようとしたプリウちゃんが、ゴーレムの拳の軌道上に入ってしまう。
鈍いからといって侮っていると、こういう事態を引き起こす。
受ければ無事じゃ済まない。
プリウちゃんに拳が激突――
「はぁ……世話が焼けます。手を出さないつもりでしたが、見ていられません」
しない。
私が片手でミスリルゴーレムの拳を止めながら、無防備なプリウちゃんを守った。
アルベールが口はわずかに動かすけど、言葉が出てこないみたい。
「あ、あなた……私を」
「二度はありませんよ、プリウちゃん。それとアルベールさん、これはあなたが招いた事態です」
「わ、私なら間に合った! 助けなど」
「いい加減にして下さい」
力を入れると、ミスリルゴーレムの拳に亀裂が入る。
そんな様子に二人は言葉を失ったみたい。
「己の実力を過信して闇雲に攻める。挙句の果てにパートナーであるプリウちゃんに余計な事をさせた。私がいなければ危なかった」
「そ、それは、いや、しかし! 私は騎士だ! 守られてたまるか……!」
「人に助けられるのがそんなに恥ですかッ!」
亀裂が深まってミスリルゴーレムの片腕が崩れ落ちた。
「あなた達に助けられた人々は恥ずべき存在ですか! 騎士がそんなに偉いんですか! 騎士が守られてはいけないのですか!」
「そ、それは……」
片腕を失ったゴーレムが、今度はもう片方の腕を動かし始める。
「あなたは騎士かもしれませんが、一人の人間でもあるのです。私もそうなんですからね」
「治癒師ソア……」
「冷静になればあなたは強いんですから。まずはプリウちゃんと連携をとって下さい」
「お前も人間……なのか?」
余計な一言です。
再び放ってきたゴーレムのパンチを止めつつ、ゴーレムを見上げた。
「やり方は簡単です。要するに攻撃や移動方法を奪えばいいんです。なので、腕や足の付け根を狙って下さい。焦らずに一撃に集中するんです。それもピンポイントで一か所を狙い続けるんです」
「なるほど……。痛みや生命がなくても、活動に限界はあるわけだな」
「はい。あなた達のコンビネーションは素晴らしいですが、同時にあまり格上の相手と戦ってこなかったような印象があります。だから、今は決着がつかなくて焦っているんでしょう」
タリウスはダメージが蓄積して動きが鈍っていたからノーカウントだ。
まともに戦ったら五分五分、いや。もっと勝率は下がると思う。
だけど今のアルベールさんに慢心は見られない。
言葉を交わさず、プリウちゃんとの連携攻撃を開始した。
「はぁぁぁッ!」
「つぇいッ!」
「え……?」
アルベールとプリウちゃんが重なったように見えた。
二人同時に寸分の狂いもなく斬り上げる。
「遅いッ!」
「そこッ!」
二撃目までが早すぎる。
腕の関節部分に当たるミスリル鉱石の欠片が盛大に散った。
次にゴーレムが腕を動かした時、音を立てて腕が落ちる。
「たった二撃で……」
「次は足だな!」
交差した二人が足の関節を斬り抜く。
さすがに一撃では、と思ったけど。すでに斬っていた。
クロスした直後、ゴーレムがガクリと崩れ落ちる。
「……腕を落とす際に足も狙っていたのですね」
「さすがだな、治癒師ソア。見えていたか」
腕や足を失ったゴーレムが活動を停止した。
傍らに立って剣を抜いたままの二人が様になっている。
うん、予想以上だ。
特にプリウちゃんのフィーリングハートのおかげで異性と組めば、実力以上の結果を出せた。
「お疲れ様です。コツさえ掴めば、お二人の敵ではありませんね」
「……連携にわずかなズレがあった。要修正だな」
「そうなんですか?」
「そうだろう、プリウ?」
「えっ……」
アルベールに振られたプリウちゃんが我に返ったようにあたふたし始めた。
顔も赤いし、熱でもあるのかな。
でも見たところ、身体に異常はないどころか健康体そのものだ。
「そう、ですね。今のは完璧ではありませんでしたか……」
「この程度ではゴーレムは倒せても、魔族は難しいだろう。今ので実感した。あのタリウスが満身創痍でなければ危なかった」
ははぁ、完璧に決まったと思ったけどダメ出しされて恥ずかしいんだ。
なんだかんだいって若い。
アルベールさんは慢心が消えたみたいでよかった。
なんて、私も感心してる場合じゃない。私だってまだまだ強くなれるんだから。
今回の二人みたいに、きちんと立ち止まって反省点を洗い出そう。
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