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聖女、訓練の仕上がりに満足する

「皆さん、なかなかの仕上がりです」


 魔力感知の訓練を始めてから約二ヶ月が経った。

 仕事も疎かに出来ないから、皆には合間を縫って訓練を受けてもらっている。

 結論としては魔力の意識くらいはほぼ全員、マスターしてくれた。

 欲を言えば魔力の理解まで行き届いてほしかったけど、この境地になると才能の域だ。

 つまり魔力というものを何となく認識できる程度にまで仕上がっている。

 中でも目覚ましい成績を収めているのは――


「ソア殿! どうです! このラドリー、以前よりも増して強くなりましたぞ!」

「さすがはラドリー騎士団長、年長者の意地を見せましたね」


名前 :ラドリー

攻撃力:5,801

防御力:6,004

速さ :1,566

魔力 :86

スキル:『騎士道』 一対一の時、数値が上がる。

    『猛騎士』 敵を倒すたびに攻撃力が上がる。

    『見切り』 集中力を高めて、あらゆる攻撃を防ぐ。


 ラドリー騎士団長の前の魔力はたったの4だ。

 この一ヶ月で100近くまで上げたのは年の功、と言ったら失礼かな。

 魔力感知が備わったおかげで、数値以上に実力が発揮できるはず。


「あ! オレも結構やると思うんですよね!」

「ビリーさんは若手の中でも群を抜いてますね。魔力7から48ですからね」


 くしゃみをしていた若手の騎士が目覚ましい成長を遂げた。

 他の騎士達も平均+20程度と、及第点に達している。

 キキリちゃんやサリアさんみたいな優秀な魔術の使い手に至っては魔力の上昇も目覚ましい。


名前 :キキリ

攻撃力:10

防御力:13+3400

速さ :8 +200

魔力 :2831+450

スキル:『超防御』 すべてのダメージを激減する。


「ソアさんに鍛えられましたねぇ!」

「すごい防御力……」


 素の数値まで上がっているという事は、身体もそれなりに酷使した証拠だ。

 私なんか魔術に頼りっきりだから、いつまでもここが上がらない。

 運動は嫌いだから仕方ないね。


名前 :サリア

攻撃力:8+3,000

防御力:7+3,000

速さ :4+1,800

魔力 :4,782+1000

スキル:『魔術威力上昇』 魔術攻撃の威力が上がる。


「サリアさんは魔術師による真価を発揮していますね。魔力による身体強化があるから、基本的に魔術師のほうが強いんですよね」

「こう見えても負けず嫌いだからね。ね、デューク?」


 なんでデュークさんに振ったのかわからないけど、なんか狼狽してる。

 歯ぎしりまでして悔しそうだ。なんかこの二人の関係が見えてきたような?


「ちょっと魔力が上がったくらいではしゃぐなよ。俺のほうがもっと強くなってるんだが?」

「どうかなー? 今の私なら、あのタリウスくらいの相手にも致命傷を与えられるかも?」

「当たればな」


「よさないか、お前ら……」


 火花を散らすのは結構だけど、ハリベルさんは苦労してそうだ。

 確かに当たればね。当たらなければどうという事はないという格言もあるけど。


「宮廷魔術師、治癒師の方々も魔力共に成長していますね。皆さん、訓練前より確実に強くなってますので自信をもって下さい」

「あの……」

「なんでしょう?」

「いえ、何でもないです」


 治癒師の女の子が言い淀んだ。

 この子は伸びしろも大きいし、悩む必要はないんだけど。


「何かわからない点でも?」

「いえ、本当に何でもないです」

「えー、気になるんですけど」

「……じゃあ、怒らないで聞いてくださいね」


 え、内容によっては怒るけど今更やめてとは言えない。

 いえいえ、ここは元聖女として大きく懐を開いておきましょう。


「実は……その。ソアさんが……何者だとか。そんな噂がありまして」

「あぁ、そんな事」

「ソアさんは隣国から来たんですか?」

「え? いえ、まぁ旅をしていたのでどこからと言われると難しいのですが……」


 治癒師の子が黙って俯く。

 これ以上は言いにくいのかな。

 確かに私の正体については隠し続けるのも無理があるかなとは思ったけど。


「この前、治療した騎士さんが……。ソアさんが炎の魔人がいる方角から来たって、言ってました……」

「確かに方角的にはまぁ合ってますけど。あの、もしかして私に関する変な噂でもあります?」

「いえ、ないです。変な事を言ってすみませんでした。お世話になったのに失礼ですよね……」


「下らない……」


 ハリベルさんが大きなため息をつく。

 自分の目で見たものしか信じないと言っていたし、こういう噂話で盛り上がるのは好きじゃないんだろうな。


「本当に失礼だな。ソアには感謝しても足りんほどだというのに」

「すみません、すみません……」

「根も葉もない話だ」

「いえ、ハリベルさん。私が聞いたので、その子を責めないでほしいです」


 ハリベルさんがハッとなって引き下がった。この人は本当に真面目だ。

 だからこそデュークさんやサリアさんを中和してくれているんだろうけど。

 それはともかく、私の噂に関しては何とかしないといけない。

 正確には私の事はどうでもいんだけど、こうやって皆の士気に関わるなら問題だ。


「ソア殿、気になさらないで下さい。皆、不安なのでよからぬ噂話にでも興じてしまうのでしょう」

「大丈夫ですよ、ラドリー騎士団長。身から出た錆でもあるので、きちんと結果を示すしかありません」


 とはいっても、黙々と活動してるだけじゃダメだ。

 治癒師の子は遠回しに、私が炎の魔人と何らかの関わりがあるという噂が蔓延していると言っている。

 炎の魔人か。いずれ討伐しないといけない相手ではあるけど――

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