聖女、魔力感知講座を始める
「今日から魔力感知の実習を行う。指導していただけるのはこちら、治癒師のソアだ」
「よろしくお願いします」
ラドリー騎士団長に紹介されてから挨拶をした。
書庫での調べものの後、アドルフ王に魔力感知の訓練の許可を貰っている。
隣国も気になるけど、今のところ無害な炎の魔人討伐は後回しだ。
それよりもジェドの侵入を許してしまった事のほうが重大だし、防衛力を強化しなくちゃいけない。
今回、集まってもらったのは騎士達、トリニティハートを始めとした冒険者達と宮廷魔術師、治療院に勤める非番の治癒師など。
出られる人にはなるべく出てもらう方針だ。
今回はラドリー騎士団長にも参加してもらう。場所は訓練にも活用されている城の中庭だ。
大勢いて動き回るには少し狭いけど、その必要がないから十分だった。
「ソア殿、確かに先日のタリウス討伐では役に立ちました。しかし、全員となると無理があるのでは?」
「ラドリー騎士団長も皆さんも、魔術を扱わない方々の魔力は限りなく低いです。まずはそこを自覚して下さい」
「気配を読める程度にはなりますが……」
「思い出して下さい。タリウス戦では戦闘能力向上に一役買っています」
これを話すか迷ったけど、ここにいる人達は知るべきだと思った。
そう、王都へ侵入したジェドについて話すと動揺が広がる。
「で、伝承魔族って……」
「何故、王都が無事だった?」
「そこなのです」
騎士の一人の言葉が重要だった。
シンと静まり返った中、私はこの上なく真剣に口を開く。
「タウロス、タリウスと討伐に成功してきましたが脅威は何も去ってません。それどころか、伝承魔族の存在すら確認できました。どういう事かというと……。王都は依然、危険な状況です。ですので、皆さんには気を引き締めていただきたいのです」
「で、でも! そんな奴の侵入なんてどうやって止めればいいんだ?」
「皆さんに魔力感知を覚えてもらって、少しでも防衛力を上げてもらいます。一人の魔力感知が微力でも、ここにいる全員が行えば効果は飛躍的に高まると判断しました」
「確かに見張り全員が魔力感知を出来れば……」
反応は様々だった。
未知の修業への不安を抱く人、デュークさんみたいにドンと来いと構える人。
キキリちゃんを始めとした魔術を扱う人達は基本を抑えているから、質の向上に努めてもらおう。
それから余裕が出来たら、他の人に指導してもらおうと思っていた。とても私だけじゃ手が足りない。
「で、でもぉ! 感知できたところで倒せるんですかぁ?」
「キキリちゃん、対応が早くなればいいのです。1秒早ければ数人の命が救われるかもしれません」
「な、なるほどぉー……」
「とはいえ、伝承魔族の襲来となると討伐は難しいです。出来れば、二度と来ないでほしいですね」
「ですよねぇ……」
御託はこの辺にして、さっそく取り掛かる事にした。
まずは低すぎる魔力の向上と並行してやってもらう。
エルナちゃんにも教えた魔力への意識、魔力への理解、魔力の操作だ。
皆に瞑想をしてもらったところ、この時点で差が出る。
集中力がない人は瞼とか、かすかに体の一部が動く。
「今日から毎日、1分程度でいいので瞑想して下さい。私がいいというまで絶対にそれ以上やってはいけません」
「ぶわーっくしょん!」
「はい、そこ。やり直し」
「マ、マジかよ! くしゃみなんてしょうがないだろ!」
「戦闘中に敵に対してそう言い訳しますか?」
くしゃみ一つで命取りになるのが戦場だ。
今のは一番若手の騎士だった。タリウス戦で成長を見せたけど、やっぱりまだ未熟なところはあるね。
「……ハイ、そこまで。どうです?」
「何も感じない……」
「最初はそれでいいのです。伸びしろは人それぞれですが、感じようとする心が大切なんです」
「ホントにこれで伸びるのか……?」
そこが魔術修業のつらいところだ。
最初はまったく成果が出なくて、ここで諦める人も多い。
生まれつきの魔力の総量がいかに重要か、よくわかる。
「若手の方々はすでに私が教えたので問題ないですね。年配の方々も頑張って下さい」
「ぬぅ……確かに負けてられんな」
「次、魔力感知です。本当はもう少し段階を踏むのですが、魔力への意識を教えます。そうですね……キキリちゃん」
「ふぁい?!」
変な返事をしたキキリちゃんが立ち上がる。気合十分だね。
「ほんの少しだけ魔力を放出して下さい」
「はい……」
すぅっと漏れ出るようにキキリちゃんが魔力を放つ。
魔術師達はこの時点で、キキリちゃんの魔力に驚いていた。
サリアさんを含めて、これがほんの少しかよみたいな顔をしている。
きちんと私が言った通りの修業を毎日、やっている証拠だ。
そういえばエルナちゃん、元気かな。無事だといいんだけど。
「キキリちゃんの両隣にいる方々は目を閉じて下さい。何か感じませんか?」
「いや、特に……」
「諦めないで気配でも空気でも何でもいいです。ほんの少しでも何か拾って下さい」
「む、無茶な」
無茶をやってもらわないといけない状況です。
ジェド程度の魔族なら見つけ次第、私が倒せる。
でも、もし次に何か現れた時はそこに私がいるとは限らない。場合によってはこの人達に対処してもらわないといけない。
二十年前なら私一人で王都の全域を守れたけど、今は事情が違う。
伝承魔族どころか、十二魔星の存在すら仄めかされているんだから。
「なんだか、肩がチリチリとする、ような?」
「お、いいですね! 予想以上にいいです!」
「そ、そうか?」
「ちなみに魔術師の方々はそれを遠い距離から感じたりするんですよ」
「……そうなのか」
「上げて落としてどうするの……」
サリアさんのまともな突っ込みが刺さる。
ともあれ、まずは何かを感じ取る努力をしてもらう。
気のせいでもいい。ほんの少しのきっかけがあれば、爆発的に伸びる人も珍しくないから。
手探りどころか探検だけど、敵はこっちの甘えなんか許さない。
探検でも冒険でも、やるしかなかった。
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