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聖女、伝承魔族から情報を得る

 勝ってみたけどこのジェド、私の魔力感知をすり抜けたほどの魔族だ。

 こんな魔族が王都に出入りしていたのかと思うとゾッとする。

 やろうと思えば、私が知らない間に壊滅させる事だって出来たはず。

 となると目的があるはずなんだけど――


名前 :ジェド

攻撃力:45,422

防御力:27,649

速さ :74,997

魔力 :16,590

スキル:『蛇化』 蛇に変化する。数値も操作可能。

    『忘毒』 記憶を失わせる。個別で指定可能。

    『分裂』 大小の蛇に分裂する。

    『再生(強)』 致命傷を受けても再生する。


「蛇化で小さな蛇になる事によって、王都を這いまわっていたのですね」

「だから何だ……? もしや、この俺に滅ぼされないか、心配だったか?」


 これはリデアじゃ勝てない。

 いや、リデアで勝てないなら今の王国側で勝てる人はいない。

 さすがは伝承魔族、このくらいになると討伐よりもどうやり過ごすかで議論が熱くなる。

 とはいっても――


「あなたは魔王を小物呼ばわりしましたが、魔王はあなたよりずっと強かったです」

「この俺を揺さぶる気か?」

「いえ、事実ですが別に信じなくてもいいです。まぁ所詮、眷属ですから落ち込む必要はないですよ」

「貴様ッ!」


 伝承にある英雄を貶めているようで申し訳ないけど、怒らせて冷静さを失くさせるのが目的だ。

 判断力が鈍れば、口も緩くなるはずだから。


「あのお方は十二魔星(マスタートゥーエル)の中でも最強の座に君臨する! 俺はその眷属なのだぞ!」

「別に主が強くてもあなたは別でしょう。え? なんて?」

「驚いたようだな。あのお方はもはや魔族の枠から逸脱しつつある」

「いや、そこじゃなくて。あなたの主は十二魔星(マスタートゥーエル)なんですか?」

「そうだ。クククッ、俺を揺さぶったところで出てきたのは絶望でしかない事実だったな」


 あのお方自慢のせいで会話が噛み合わない。

 十二魔星(マスタートゥーエル)はそれぞれ一つの時代において、最強と呼ばれていた魔族の事だ。

 伝承魔族の中でも最高峰だけど、今は存在しない。

 その名の通り全部で十二体いるんだけど、その中に蛇の魔族を眷属としている存在なんか思い当たらない。

 作戦変更だ。優位に立たせて、口を軽くさせてやる。


「ウ、ウソですよね? あの十二魔星(マスタートゥーエル)がまさかこの時代に蘇ったなんてことは……」

「クククククッ! そのまさかだとしたら?」

「……終わりですね」

「……所詮は人間の小娘、先程の態度とは打って変わって萎縮したな」


 なんでそんなに偉そうなのか知らないけどあなた、私に殺されかかってるんだけど?

 それとは別に、もし十二魔星(マスタートゥーエル)が何らかの理由でこの時代に現れたとしたら。

 シンプルに一つの時代の終わりが来る。 


「あなたの主は今、まさに王国……いえ。世界の滅亡に向けて進んでいるんですか?」

「滅亡? まぁ結果的にはそうなるかもしれんな」

「例の薬……毒で人間を魔族に変えて、眷属化しようと目論んでいる……?」

「フフフ……ククククッ! 貴様が抱くのはやはり恐怖と絶望! あぁ心地いい!」


 なんか調子に乗ってきたし、そろそろ殺そうかな。

 でも、あのお方について喋らせたい。

 どの十二魔星(マスタートゥーエル)が、どんな風に蘇ったのか。

 ん? ちょっと待って。

 忘却の英雄に確かこんな一文があったはず。

 邪悪なる蛇の王の眷属ジェド。これが事実だとすれば、邪悪なる蛇の王があのお方だ。

 だけど十二魔星(マスタートゥーエル)に蛇の魔族はいない。

 もしくは蛇をメインとして従えていた魔族がいない。

 

「邪悪なる蛇の王……」

「そう! アスクス様こそが我らの王! いや、全生命を舌の上で転がす絶対たる神!」


 なんかすごい簡単に喋った。アスクス、聞いた事ない。

 そして十二魔星(マスタートゥーエル)にそんな魔族はいない。

 アスクスは十二魔星(マスタートゥーエル)と思い込んでいる。

 私達が持っている十二魔星(マスタートゥーエル)の情報が間違っている。

 どーれだ?


「アスクス様?! そんな恐ろしい魔族が一体何をしようとしているのですか!」

「知りたいか? だが、貴様らはその時まで生きろ! そして真の絶望を味わえ!」

「魔族による支配など私が許しません!」

「支配? 少し違うねぇ……クククッ!」


 よし、その調子。どんどん喋って。


「では根絶やし?!」

「そうとも言うねぇ!」

「支配と根絶やし……毒による魔族化……。もうダメです……」

「ようやく悟ったか」

「あの、アスクス様と交渉がしたいですがダメですか?」

「はぁ?」


 この蛇、すごい大口を開けて「はぁ?」とか言ってきた。

 こんなに腹立つ顔を見た事がない。居場所を吐かせたら殺そう。


「頭が回るのが貴様らの唯一の取り柄だというのに……馬鹿なのか? 交渉も降伏も一切の余地はない。あのお方はそれを望んでいる」

「そこを何とか!」

「無駄だ。貴様ら下等生物があのお方と同じテーブルにつくなど、おこがましい。身の程を弁えろ」

「アスクス様に認めていただいたソアリスでもダメなんですか?」

「……フッ」


 今度は口の端を吊り上げて笑っている。

 こんなに憎たらしい顔を見た事がない。


「だからこそだろう。貴様にあるのは絶望のみだ。縁者含めてな」

「圧縮」

「ギャッ……」


 これ以上は時間の無駄だ。

 敵の正体がわかっただけでも十分な収穫だった。

 邪悪なる蛇の王アスクスか。不思議なのはジェドの伝承はあるのに、親玉のものは一つも聞いた事がない。

 邪悪なる蛇の王という呼称はどこから?


「私も魔族通じゃないしなぁ。どこかに詳しい人がいないかな? リデア、どう?」


 なんと、この状況で寝ていた。

 いや、私がそう指定したからか。

 睡眠時間を十分に確保して明日に備える。人として当たり前の姿だ。

 私も見習って、今日のところは帰って寝よう。

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