リデア、楽になりたがる
わたくしは一体、何をしているの?
今日は何をしたのかしら?
治療院で朝から晩まで治療して、疲れ果てて眠る。
面倒でも食事を取らないという事はできませんわ。
食事を取らないで寝ようとしても、寝れませんの。
気がつけばわたくしは食事を取っている。
まるで自分の意思から切り離されたかのように、行動していますわ。
「明日も、治療……」
今日もベッドに入って眠りにつきますわ。
決まった時間に眠くなってから眠る。
朝になればまた治療院へ行きますの。
最初は力強く拒絶しましたが、意識が遠のいて気がつけば治療院にいる。
拒絶するたびにこうなりますの。
「このまま死ねたら楽ですわね……」
でもそれは許されない事。
お姉様の闇属性高位魔術は絶対ですわ。
この手の魔術を解除する手段はないわけではありませんが、使い手がかなり限られますの。
ましてやお姉様の魔術に介入できる使い手となると、八賢王くらいしか。
それかもしくは術者の殺害しかありませんわ。
「お姉様……許してぇ……」
眠る際にはこう呟くようになりましたの。
そう口にすれば、朝になったらお姉様がベッドの脇に立っている。
リデア、頑張ったねと笑って術を解除してくれる。
そんな希望を持って眠りにつくのが唯一の生き甲斐になりましたの。
もうすぐ眠りにつく時間、わたくしの意識が落ちますわ。
「……なんたる様よ」
一匹の蛇がいますわ。
どこから入ってきたのかと考えれば、なるほどですの。
蛇がみるみると人型になって、そのまま蛇人間と形容できる姿になりましたわ。
こいつは確か――確か?
「あなたは?」
「そうか、万が一の時の為に記憶を消したのだったな。毒はまだ効いているようだ」
「まさか、わたくしと面識がありますの?」
「勘がいいな。俺は以前、お前と接触した。あの冥球の発動条件と使い方を教えたのだがすっかり忘れているようだな」
明らかに魔族ですが、わたくしは覚えてませんの。
わたくしはこの魔族から冥球をもらったらしいのですけど。
「様子を見に来れば、その様か。闇魔術に絡めとられているようでは所詮その程度よ」
「わ、わかりますの?」
「俺を誰だと思っている。このジェド、十二魔星の一角であるあのお方に仕える身だぞ」
「ではこの魔術を解除してくださいませ……きゃあぁッ!」
ジェドの伸びた腕がわたくしを締め付けますわ。
息が……。骨が、折れそう、です、の。
「どこの誰様気取りだ? 誰様に物申している?」
「ジェド、様……ですわ……」
「この様子では、あの聖女ソアリスも復活を果たしているな。大方、闇魔術の術者も奴だろう」
「は、い……」
このままでは死にますわ。
いえ、これでいいのかもしれませんの。
死ねば、ここで終わり。
もう何もしなくてもいい。
「聖女のくせに闇魔術などと節操がないな。まぁ、さすがはあのお方が目をつけただけはある」
わたくしがどうやってこの魔族に近付きましたの?
どうして記憶がありませんの?
「こんな役立たずを利用したせいで予定が狂った。死ぬ前に答えろ。聖女ソアリスはどうやって冥球の封印を破った?」
「わ、かりませんわ……本当ですの……」
「あれはいかなる魔術の干渉も受けつけないはずだ。考えられるとすれば、外部から何者かが破った可能性もある」
「あれは、一体どこに……」
「む? そうか、何も知らないのだな」
ジェドが長い舌をちろつかせて、わたくしを天井近くまで掲げますわ。
あぁ、もう殺してほしい。早く、殺して。
「回収間際、あれを持ち去った奴がいてな。そいつは処分したが、すでに隠された後だった」
「そ、そんな……」
「あのお方が放ったダークサーペントが嗅ぎつけた場所には何もなく……。ダークサーペントも殺されていた。おそらく封印を破った聖女か、第三者の仕業だろう」
「そう……」
どうでもいいですわ。
早く殺して、楽に。いえ、このジェドを焚きつければ或いは。
闇魔術解除の条件の一つ、術者の殺害を可能としてくれるなら。
ここで殺されるくらいなら、賭けてみてもいいかもしれませんわ。
「ジェド様……。冥球はお姉様……ソアリスが持ってますわ……」
「なに? つまり、やはり奴が封印を破ったのか」
「ほ、方法はわかりませんわ。でも、わたくしは確かにソアリスが持っているのを見ましたの……」
「……そうか。それだけか?」
「いいぎぎぎぎあぁぁ!」
血を吐いて、いよいよわたくしも終わりですわ。
苦しいですけど、ここで死んで。楽になるなら。
「この俺を焚きつける気だったな。残念だが、何の役にも立たなかった人間など生かしておく理由がない」
「ああぁ……げふっ……」
「人間ごときが俺を利用しようとしやがって……。昔から貴様らは頭だけはよく回る。長く小賢しく繁栄してきたが、もうすぐ終わりを告げるだろう」
「終わり……?」
「貴様が知る必要はない」
激痛で意識が遠のきますの。
これで死ねる――
「こんばんはー」
え?
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