聖女、王都全域を捜索する
ついに完成した公共温泉施設。
資材関係で一時は工事が中断されていたけど、アルカマイダ草原の魔物の巣が駆逐されたおかげで一気に進んだ。
王都から騎士団を派遣できるようになれば、各街や村に援軍として駆けつけられる。
最近では鉱山街を解放したらしく、鉱石の巡りがよくなった。武器や防具だけじゃなくて、生活用品や建築材料の需要を満たせる。
こんな感じで、少しきっかけがあれば復興は進む。この国は弱くない。だって諦めてないんだもの。
「ごめんね、中央広場……」
中央広場を陣取る形になっちゃったけど、行列が出来て大盛況だ。
大盛況すぎて大浴場がイモ洗いみたいになってると聞いたけど、それは仕方ない。
「大衆浴場ですかぁ……。なんだか緊張しますねぇ」
「キキリちゃんはこういうの初めてですか?」
「当たり前ですよぉ! 家には専用の浴室がありましたし……」
「男女別に分かれているので、いるのは女の人だけですよ。恥ずかしい事はありません」
「男の人がいたら大問題ですよぉ!」
キキリちゃんが休暇をもらったというから、ついでに誘ってみた。
当初、あまりに予算がなくて混浴にする案が浮上したらしいけど私がアドルフ王を通じて阻止に成功する。
よからぬ場になって治安に関わるという真っ当な指摘が功を成したようで何より。
私が目を光らせているうちは健全を貫いてもらいますからね。
「あ、そういえばソアさんのお顔は初めて見ますね。いつもフードかぶってるじゃないですかぁ」
「そういえば、そうですね……」
脱衣所にて、キキリちゃんの指摘で気づく。
見られて恥ずかしいものじゃないはずだけど、私に気づく人なんかいるかな。
二十年前に封印された聖女が当時のまま風呂に入ってるとか、誰も思わないはず。
他人の空似くらいで済ませてほしい。
いよいよフードを取ると、キキリちゃんがすごい顔を近づけてくる。
「か、かわいいじゃないですかぁ!」
「かわいいですか……?」
「こんなお顔を隠すなんて、もったいないすよぉ!」
「し、静かに!」
自分の顔なんて意識した事なかったから恥ずかしい。
それにしてもかわいい、か。どんなところがかわいいんだろ。
手で触ってみてもよくわからない。この顔のどこが?
「そのポニーテールも似合ってますよぉ!」
「は、早く入りましょう」
念のため、髪を縛ってポニーテールにしてみたけどますます騒がれる。
周りの人達も見てるし、早くお湯に浸かろう。
「わぁぁぁ! 広いお風呂ですねぇ!」
「床が滑るから気をつけて下さいね」
本当に思ったよりよく出来てる。
石造りの壁や床、広々とした浴槽。でも人は多い。本当にイモ洗いだ。
それでも湯に浸からせてもらうと、全身を叱咤するかのような熱さを感じた。
「あああつうういぃぃ!」
「最初だけですよ。段々と気持ちよくなりますから」
「なんかそれ嫌ですねぇぇ!」
足先から少しずつ入れては引っ込めて、キキリちゃんが苦戦してる。
私は私で知らない人と隣同士になりながら、目を閉じて考え事を始めた。
ここに来たのは温泉だけが目的じゃない。
王都中央に位置するここから、密かに王都全域に空間掌握を展開する為だ。
タリウスが元人間とわかった以上、黒幕を見つけ出さなきゃいけない。
グレースとも接触している可能性があるから、敵は王都内に潜んでいるかもしれなかった。
「空間掌握……」
何か少しでも違ったものが発見できればいいんだけど。
人間に化けている可能性もある。もしくは操っているか、取りついているか。
あらゆる可能性を考慮して探っているけど、まったく引っかからない。
そしてさすがに王都全域を維持するのはきつい。
「んー……それらしき反応はないなぁ」
「難しい顔をされていますね。ソアさんもやっぱり熱いんですねぇ……」
「ようやく入れたんですね」
「はい、そりゃもう! これで一歩、聖女様に近づきましたっ!」
聖女様は温泉に浸かりながら王都全域に向けて魔力感知をしています。
何か間違ってる気がする。
それにしても、それらしきものが全然見つからない。
となると、王都の外に? 私の感知をかいくぐってる可能性もあるか。
そんなレベルの敵が王都に?
「まずいなぁ。だとしたら、そいつはどうして王都に手を出さないのかな」
「ソアさん、熱いんですか? 私は癖になってますよぉ! 温泉、最高です!」
屈託のない笑顔がたまらなく尊い。
温泉一つで人によってはここまで感動を与える。
これだって生きていればこそだ。
こういう子の笑顔を守る為にも、頑張らないと。
ここにきてグレースから何も聞きださなかった事が悔やまれる。
グレースは誰から薬とやらを受け取っていたの?
「そーいえば、この国にもう一人の聖女様がいたんですってねぇ!」
「もう一人の聖女様?」
「確かソアリス様の妹だとか……。でもここだけの話、ひっどい人だったみたいですよ……」
「リデア……」
リデアにいろいろ聞き出したかったけどあの子、肝心なところは何も覚えてなかった。
どこから超魔水と冥球を入手したのかな。
ギリギリまで脅してみたけど結局、口を割らなかった。
あれだけ怯えておきながら、しらばっくれているとは考えにくい。
「……それでですね! 偽聖女、討伐失敗したのに部下に当たり散らしていたらしいんですよぉ!」
「え? あぁ、まだ続いてたんですね」
「そんなひどい事ばっかりしてたらぜーったい恨まれますよねぇ! いつか後ろからガツン! と……」
「あり得る……」
「ですよねー!」
リデアには肝心な部分の記憶がないみたいだった。明らかに不自然だ。
ああいう神話級魔導具は実在するかも疑わしいレベルのものが多くて、私も封印されるまでは実物なんて見た事がなかった。
そんなものをリデア一人で手に入れられるわけがない。
何者かがリデアに渡したとしたら? 何の目的で?
私を封印する利害の一致があったとしても、私はこうしてピンピンしている。
もしそれが何者かにバレたら?
「張ってみる価値はありそう」
「それでですね、リデアってそーとーの男好きだったみたいなんですよぉ! 上はおじさんから下は」
「キキリちゃん。先に上がるね」
「あ! ここからが面白くなるんですけどぉ?!」
実の妹の醜態が面白いわけない。
後ろからガツンとやられても、私の闇属性高位魔術がそうさせないよ。
死ぬ事は私が許可していないから。
「闇属性高位魔術」
リデアの状態がよりこちらに伝わるようにした。
怪我をしたり、何らかの異常があったら私に伝わるようになってる。
後は何者かが尻尾を出してくれるといいんだけどな。
「面白そう」「続きが気になる」と思っていただけたなら
ブックマーク登録及び下にある☆☆☆☆☆のクリック、もしくはタップをお願いします!
モチベーションになります!





