聖女、聖騎士団を見極める
「おめぇさんよぉ、まずフードくらい取れや」
私に高圧的な態度で指摘してきたのは烈騎士グラさんだ。
黒いメガネをかけていて、ワカメみたいな髪が印象的だ。20年前とまったく変わってない。
あの時は悪そうなお兄さんだったけど、今は悪そうなおじさんだ。
こんなルックスと態度なのに、なぜか王都での人気は高かった。
特に女の子から支持されていたと思う。
「すみません。諸事情で取りたくないのです」
「人と話す時は顔くらいきちんと見せろや」
「あなたのメガネと同じファッションの拘りと言ったら?」
「チッ……。それを言われちゃきついな」
そこで引くのかよ、と周囲が突っ込みたそうな感じだ。
態度が悪いけど言ってる事は間違ってないし、悪い人じゃない。
やれやれとお手上げみたいなポーズを決めたのは遊騎士カイマーンさんだ。
「まぁこのちょい悪オヤジは置いといて。君はわざわざ僕達を値踏みする為に乗り込んできたのかい?」
「はい。私は自分の力に誇りを持ってますし、相手が誰であろうと安く売るつもりはありません」
「それで僕達が聖女ソアリス様を理解していない、と。君は何を理解しているのかな?」
「それなりに理解してますよ、カイマーンさん」
「……僕、名乗ったかな?」
「有名な方ですから」
さすがに苦しくなってきたかな。気をつける。
「もういい。カイマーン」
鷲騎士アルンスさんが険しい表情だ。
私の鼻先に剣先を突きつけて、最大限に威嚇してくる。
「下らん問答など必要ない。先日は若手の二人が後れを取ったそうだが、よもや調子づいたわけではあるまいな」
「そのようなつもりはありません。私としてはもうお話する事はないので、これで失礼します」
踵を返した時、アルンスさんが回り込んでくる。
さすがは騎士団一のスピード。狙われたが最後、タリウスじゃないけどこの人の前では獲物同然だ。
「聖女ソアリス様はこの国に尽くした。封印されるその時まで……。あのお方の境遇とお気持ちを考えなかった日などない。さぞかし絶望しているだろうよ。愚かな連中になッ!」
「絶望して、聖女ソアリスはどうなさるのです?」
「聖女ソアリス様はすべてを慈しむ神ではない! 愚者など切り捨てる!」
「……間違ってはいませんね」
アルンスさんはレーバインさんの次に聖女愛が強い。
毎回、顔を合わせるたびに大声で長い挨拶をしてくるのは本当にやめてほしかった。
「即ち、我らが聖女ソアリス様の意思を継ぐのだ! 愚者は滅べ! 救われるべき命を救う! 何も理解していない旅の治癒師風情がほざくでないッ!」
「王都には罪なき人々がいます。彼らも愚者ですか?」
「あの日の光景は忘れない! 聖女様を支持する者達は反対派に蹂躙された! まるで冥府の亡者が生者を取り込むかのように……! あそこに罪なき者などいるものか!」
「そうではない方々もいます。小さな灯を見てあげられなかったのでしょうか?」
これに関しては私が強く言えた立場じゃない。
その日には封印されていたからだ。
この人達がどんなものを見てきて、どれだけ嘆いたか。
その感情を今一、共有できないのは私の弱さが招いた結果だった。
「腐海と化した王都に何が残されている……!」
「相変わらず思い込みが強いのですね、アルンスさん」
「何を知った風な事を!」
「すみません」
「だから僕ら、名乗ったっけ?」
ごもっともです、カイマーンさん。この口が悪い。
そしてつかつかと近づいてきたグラさん。
あの目とオラついた歩き方は完全にやる気だ。
「さっきから調子こいてっけどよぉ。ここまでナメられたまま、オレらが引き下がると思ったか?」
「……やめておけ」
「けど、レーバインさん!」
「先程から微塵も挙動や動悸が乱れない。あのアルベールの報告に虚偽はなかったようだ」
立ちはだかる三人をどけて、レーバインさんが私の目を凝視する。
「治癒師ソアよ、我々を振ったのはいいがこれからも王国に与するのか?」
「私は必要と思った事をやるまでです。それと気になったので一ついいでしょうか?」
「何だ?」
「こちらには騎士ではないたくさんの人々が住まわれてますね。中にはご病気の方もいらっしゃるので、お世話させていただけませんか?」
「……ほう」
冷静なレーバインさんだけど、他の四人は何かしら狼狽している。
その場所はここから離れていて、初めて訪れた私にわかるはずがないからだ。
さっきまでオラついていたグラさんが顰め面をして、アルンスさんが息を飲む。
「な、なんでそんなもんわかんだよ?」
「グラさん、キセルを嗜むのは結構ですが肺にやや異常が見られますよ」
「はぁッ?!」
「……グラ、任務に支障をきたさないのであれば問題はないのだがな」
レーバインさんにまで睨まれて、一瞬で私の力を認めてもらった。
この世の終わりみたいな顔をしたグラさんは棒立ちしたままだ。
「では行ってきます。監視を続けるならどうぞ」
「ま、待て! どういうつもりだぁ!」
「私は治癒師です。必要としている方々がいるなら駆けつけます」
というのもあるけど、ここで貸しを作っておくのも目的だ。
目的が一致しているとはいえ、こっちといつどんなトラブルが起こるかわからない。
そんな時の為に、こちらが優位に保てる交渉材料を示しておく。
「聖女様がいたなら、こうしたでしょう」
私の含みを持たせた発言に神妙な表情を浮かべているレーバインさん。
薄々と、いや。もしかしたらすでに気づいているかもしれない。
その証拠に、私の後ろをついてくる。
この目で見極めてやろうというわけかな。
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