聖女、聖騎士団本部を訪れる
聖騎士団本部は王都からだいぶ離れた位置にある。
昔、隣国との戦争に使っていた防衛拠点の砦を改修しているというから逞しい。
普通に移動すれば数日はかかる距離だけど、空間魔術なら大幅に短縮できる。
そして近づくにつれて彼らの存在感を感じた。
城壁が本体かと思うほどの外観が、姿を現す。
城壁の上に立つ見張りにも隙がない。とぼとぼと歩いてくる私を目ざとく発見して、弓を構えた。
「止まれッ! 何者だ!」
「すみません。私、旅の治癒師のソアといいます。こちらが聖騎士団の本部で間違いないでしょうか?」
「目的を言え!」
「聖騎士団の活動に感銘を受けて、ぜひお手伝いしたいのです」
間違いじゃない。実際にそうする選択肢もあるからだ。
離反者とはいえ、やっている事に間違いがないなら目的は私達と同じだもの。
訝しがる見張りの騎士が構えを崩さず、もう一人に目線で指示を出す。
「今、騎士団長に確認を取る! そこから動くな!」
「はい」
あの人、かなりの使い手だ。
ここからでも私を射殺できる確信を持っている。
あの重弓は引くだけでも相当な力が必要な上に、引いたまま腕を固定するなんて並みの腕力と精神力じゃ無理だ。
やっぱり若手ですでにこのレベルか。
なんて感心していると、戻ってきた人が重弓の騎士に耳打ちをした。
「……門を開ける! 迎えの者が来るまで動くな!」
やっぱり弓を下ろさない。見上げた警戒心で何よりです。
迎えらしき騎士の二人が私をじっくりと観察すると、前後を塞ぐように立つ。
どれどれ?
名前 :騎士A
攻撃力:2,311
防御力:1,786
速さ :1,405
魔力 :85
スキル:『騎士道』
名前 :騎士B
攻撃力:1,884
防御力:1,423
速さ :1,617
魔力 :6
スキル:『騎士道』
「一級冒険者クラスですか……」
「む?!」
「あ、いえ。お構いなく」
歩きながら騎士Bの人が後ろから剣を突きつけてくる。
そしてこのスキルの騎士道を全員が持っているなら、とんでもない事です。
一対一の状況さえ作り出せば、単純に戦闘力が底上げされるわけで。
残念ながら、我が国の騎士団にはこのスキルを持つ人があまりいない。
これから芽生える可能性もあるけど、現時点では聖騎士団に大きく引き離されている。
「ここだ」
「こちらに騎士団長が?」
何も答えない騎士が案内した先の扉を開ける。
この大広間は訓練用かな?
剣を突き立てて両手を添える騎士が数名、私を待ち構えていた。
全員、若手とは比べものにならない圧を放っている。
そして一際、桁外れの化け物が一人。
「ようこそ、治癒師ソア。私が聖騎士団長レーバインだ」
口を開くと、圧がより重くのしかかる。
歓迎している雰囲気じゃない。
ここにいるのが私じゃなくて、腕利きの剣士なら無意識のうちに剣を抜いている。
いや、抜けない。きっとその剣士は瞬時に理解するはずだ。死んだ、と。
「我らを前にしても動じないか。これは傑物だな」
騎士の一人が私への評価を口にする。
全員、知っている人だ。
鷲騎士アルンス、剛騎士ヘカト、遊騎士カイマーン、烈騎士グラ。
王国騎士団の主力中の主力だった人達で、全員が国民に知れ渡る派手な戦果を上げている。
この人達さえ抜けなければ、違った王都の姿が見られたかもしれないのに。
偉そうに構える騎士達から私も目を離さない。
「アルベールの報告通りだ。並みの治癒師ではないな。まさかそちらから会いに来てくれるとは思わなかったぞ」
「お会い出来て光栄です。私も協力させていただけないでしょうか?」
「王国騎士団に肩入れする者が協力とはな」
「私は王家に仕えているわけではありませんので……」
私がソアリスだと気づかないのかな。
それはそれでいいんだけど、さっきから気になっているものがある。
女性が杖を掲げている絵だ。まさかあれ、私じゃないよね。違うか。違うね。
「知っての通り、我らはあの聖女ソアリス様に仕えているといってもいい。仮にも王国側の者を招き入れるのはいささか抵抗がある」
「聖女ソアリス……。素晴らしい方とは聞きます」
自分で言ってて顔が熱くなるほど恥ずかしい。
そして、せっかくここまで言ったのにまさかのスルーだ。
「あの肖像画を見ろ。在りし日の聖女ソアリス様だ」
「えっ」
「あの清楚で神々しいお姿を見よ。すらりとして、まさに美の顕現といえよう」
待って。私、あんなに足が長くないよ?
「杖を高々と掲げて、天すら味方につけんとするお姿……」
私、あんなポーズした事ないよ?
「憂いを含んだ瞳は何を見つめるのか……」
知りません。
「わかるだろう? 我らがどれほどの人物を崇拝しているか。つまりお前は我ら……聖女ソアリス様と寸分違わぬ志を持たねばならん」
「聖女ソアリスと同じ志ですか。果たしてそうでしょうか?」
「何?」
「私にはあなた達が彼女の志を理解しているとは思えません。何故なら、彼女なら王都を見放したりしないからです」
途端、レーバインさん以外が剣を持つ。
明らかな殺気を放って、感情を示してくる。
「貴様……。今、口にした言葉はそう飲み込めんぞ」
「剣を収めてください、アルンスさん」
「何故、俺の名を……」
「あなたは有名ですから」
勢いで名前を呼んでしまった。
射竦めるような鋭い目は健在だ。
「剣を下ろせ」
レーバインさんの一言で、全員が剣を下ろす。
不服なのは見てわかる。
レーバインさんがフードの奥にある私の瞳を覗き込んできた。
「その声色、所作……。そっくりだ」
本人ですから。と、明かすのは簡単だ。
私を崇拝しているなら、この人達は従ってくれるはず。
だけど今のやり取りで確信した。
この人達の中に私はいない。いるのは聖騎士団にとっての聖女ソアリスという偶像だ。
聖騎士団の聖女なら、どこにもいない。
やっぱり離反者でしかない、と見切りをつけた時。私にまた剣を向ける人がいた。
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