聖女、聖騎士団に遭遇する
速度が落ちたタリウスが勝てるほど、トリニティハートや騎士団は甘くない。
最後に動きを止めたのはデュークさんだった。
着地した瞬間を狙って足を斬りつけると、そのまま動けなくなって戦闘終了だ。
今は全員に囲まれたタリウスが呪詛のような言葉を吐き続けている。
「獲物どもが群れて賢く強くなった気でいやがって……」
「よいしょっと」
「何をしている! またがるなぁ!」
「乗り心地はあまりよくないですね」
「おのれぇ!」
背後を取って監視する為だ。別に私だってこんなものの上に乗りたくない。
乗り心地は本当に悪いけど。
さて、聞きたい事があるけどタウロスの時みたいに何の自覚もない可能性が高い。
どんな魔術をもってしても、本人が知らない事は引き出しようがなかった。
「あなたはいつから、この草原にいるんですか?」
「そんな事を聞いてどうする。答えてやる必要はぁぁ髪を引っ張るなぁぁぁ!」
「抜けますよ」
「振り落としてくれるッ!」
私を乗せたまま走り出した。まだこんな元気があったか。
乗り心地が悪すぎだし、降りたほうがいいかな。
皆からどんどん離れちゃうし、そろそろいい加減にしてほしい。
「大人しくしてください。くびり殺しますよ」
「フンッ!」
跳び上がって空中バク転をして、私を落とそうとした。
だからダメだって。
「ああがががが髪をひひっぱるなぁぁ!」
「だから言ったじゃないですか。抜けますよ」
着地した後も諦めないみたいで、また走る。
これ以上は時間の無駄かな。仕方ない――
「む?! なんだ、あいつらは!」
前方に二人の人影が見えた。
若い男女の組み合わせで、白い隊服に白銀の鎧を着込んでいる。
逃げる様子を見せないどころか、剣を抜いていた。
と思ったら――
「ぐ、ふっ……!」
タリウスが正面から斬られた。
男のほうが私達の後ろで剣をすでに鞘を納めている。
すでに決着がついたと見通している様子だった。
一方、私はタリウスが倒れる前に背中から飛び降りて難を逃れる。
「……弱っていたとはいえ、一撃ですか」
男のほうは青年という年齢だ。
20代そこそこかな。キリッとした表情で、艶やかで整った金髪が育ちの良さを感じさせた。
そして青年はまた剣を抜く。
「君は魔族の仲間か?」
「違います。諸事情で魔族の背中に乗ってお話をしていたのです。あなたは騎士のようですが?」
「魔族と話だと?」
「アルベール様、この女も魔族かもしれません」
もう一人、連れの女の子もアルベールと同じ白銀鎧に隊服という身なりだ。
オレンジ髪のツインテールに、きつめな目つきで私を睨みつける。
「私からの問いに答えろ。わずかにでもおかしな真似をすれば即斬る。すべてこちらの独断なので、微動だにしない事をお勧めする」
「わかりました。何でも聞いてください」
「君は何者だ?」
「私は旅の治癒師ソア、あちらに王国騎士団の方々がいらっしゃいますし、まずはお話をしましょう」
「王国騎士団……!」
ちょっと、なんで目の色が変わるの。
歯ぎしりまでして、相当な憎しみだ。
「つまり君は王国騎士団と共に行動しながら、魔族と話をしていた……。王国が魔族と繋がっていたのか」
「違います。魔族タリウスを取り押さえて、質問をしていたら暴れられたんです」
「旅の治癒師にそんな真似ができるのか? タリウスがこれまで、どれだけの猛者を殺してきたと思っている」
「もうすぐあちらの方々が到着するのでお待ちくださ……」
私の横を何かがかすめる。
女の子が突きを繰り出したんだ。
これは威嚇行為かな?
「アルベール様、この女の発言を信じるのは危険です」
「待て、プリウ。勝手な行動は慎め。冷静さが君の強さでもあるだろう」
「そ、そのような事を!」
顔を赤くして勝手に盛り上がってる。突然、どうしたの。
アルベールはそんなプリウに構わず、私から目を離さない。
「プリウの疑心はもっともだ。出身地、経歴、両親の名、親しい友人や恋人、信念……すべて答えろ」
「一方的ですね。さすがにそこまで付き合う義理はありませんよ。そちらの子にかすめられたとはいえ、攻撃されていますからね」
「残念だ」
アルベールの剣が私に届くよりも。
プリウの突きが私に届くよりも。
二発の拳が二人の頬をかすめた。
「クッ?!」
「……なっ!」
ワンテンポ遅れて反応する二人。
更に私は二人の後ろだ。
「そちらの子のお返しです。当てられたらどうなるか、おわかりですね」
「速い……この私が反応できなかっただと……」
冷や汗を流すアルベールとプリウ。
かなりの使い手だけど、反応からしてこの二人も若すぎる。
この私が、なんて言えるんだもの。
こうならないようにトリニティハートの人達にはきちんと段階を踏んで強くなってほしい。
「ソア殿ー!」
「ラドリー騎士団長に皆さん……」
皆がようやく駆けつけてくれた。
王国騎士団にトリニティハート、息を切らしているキキリちゃん。
改めて見ると人数も相まって圧巻だ。
「ご無事ですか……と、心配するまでもありませんな。そちらの二人は……」
「私が聞きたいくらいで……どうしましたか?」
ラドリー騎士団長があの二人を前にして固まっている。
まさか知り合いだったりして。
「お前、まさかアルベールか?」
「……お久しぶりです、ラドリーおじい様」
知り合いどころか近親者だった。なんて世界の狭さ。
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