リデア、苦戦する
「リデア様! 撤退しましょう!」
「お黙り!」
炎をまとう魔物の巣の主、まさかここまでだなんて!
討伐隊の半数が壊滅、それに引き換え主は元気ですこと!
このわたくしの手を焼かせるなんて!
「うわぁぁぁぁ! 体が、た、助けて……」
「今、助けるぞ!」
一度、炎に巻き込まれたら異常な速度で体が燃え上がりますわ。
装備ごと溶かす生意気な火力で、騎士団が手も足もでませんの。
「水属性高位魔術!」
水属性を昇華させた氷をもって冷気を作り出す!
主の周囲が冷気で満たされて、炎を鎮火させ――られないなんて?!
爆炎と共に冷気ごと吹き飛ばしましたわ!
「なんてこと! 炎なのだから冷気に弱いはずですわ!」
「あの主はレベルが違います! リデア様、ご決断を!」
レベルが違うだなんて、認めませんわ。見極めてやりますの!
名前 :???
攻撃力:10,000~?????
防御力:10,000~?????
速さ :1,000~?????
魔力 :10,000~?????
スキル:???
ま、まぁわたくしの魔術に耐えるんですもの。少なくともこのくらいはありますわ。
「リデア様ッ!」
「わたくしに指図しないで! あなた達も逃げたらどうなるかわかってますの!」
「そんな……! このままでは全滅ですぞ!」
このわたくしの才能があれば、全属性を極められましたわ。
並みの宮廷魔術師が扱える属性はせいぜい二つまで。
すべての属性の高位魔術を扱えるわたくしに敵う者など存在しないというのに。
「雷属性高位魔術ッ!」
一直線の雷にいくつもの電撃がまとわりついて、そのものが極限にまで高められてますわ!
さぁわたくしという神の雷よ! やっておしまい!
「ほ、炎の中に消えましたわ……」
「あの魔物の炎は何か違います! 戻って対策を練りましょう!」
「このわたくしに逃げろと?!」
「命あっての物種です! ご決断を!」
「くぅ~~~!」
口うるさい騎士団長の言う通りにするしかありませんわ。
撤退指示を出して、魔物の巣から全員が離れるけど何人かは後ろから焼き殺されて。
振り向くと、炎をまとった筋肉質な魔人はわたくし達を見下ろしてましたわ……。
* * *
「リデア様がまた討伐に失敗したみたいだぞ……」
「これで何回目だ……」
王都を歩く中、愚民どもがわたくし達に対して口々に囁き合ってますわ。
守られるだけの分際で、好き勝手な事を言ってますの。
「これじゃ『聖騎士団』や冒険者ギルドから独立した『ハンターズ』のほうがまだ活躍してるよ」
「あーあ、いっそ『デモンズ教』にでも入信しようかな?」
「やめとけって……あれはあれで怪しいし……」
「あなた達!」
わたくしが怒鳴ると、愚民どもが逃げていきますわ。
身なりもボロボロ、やせ細った体でわたくしに文句を言うなんて。
守られたら今度は食べるものがないと文句を言う。
食べるものがないなら、水を飲めばいいんじゃありませんこと?
「……リデア様。今回の討伐における損失や死傷者についてですが」
「うるさいですわ。そんなものより、わたくしの魔力と怪我の回復が優先ですのよ」
「動けない者もいるんですよ! もう二度と剣を握れない者もいます!」
「だったら宮廷魔術師でも駆り出せばいいですの。しょせん、剣なんかに頼ってるような騎士なんてお呼びじゃありませんわ」
「あなたという人は……!」
魔術も使えない騎士風情が、わたくしを憎々しく睨んでおりますの。
わたくしがその気になったら、こんな連中なんて一瞬で蒸発するというのに。
「魔術師達もほとんど残っておりません。国内の衛生状況悪化に伴い、病人が増えております。そちらの対応で手一杯ですし、辞めた者もいるでしょう?」
「まったく、これだから軟弱な愚民は……」
「……ソアリス様ならどうにかしたものを」
「なんですって?」
生意気に拳を握って怒りで震えてますわ。
その名前を口にするとは、死にたいのかしら。
「この際ですから、はっきりと申し上げます。私は未だにソアリス様の身の潔白を信じております」
「あなた、この期に及んで何を仰ってますの? わたくしの前でッ!」
「あなたがソアリス様の代わりを務めると聞いた時は、ご活躍を信じておりました! しかし、魔物の大量発生に伴って国内は衰退の一途をたどっています!」
「聖女と祭り上げて、おんぶに抱っこされてるのはどちらかしら?!」
「その立場を望んだのはあなたでしょうッ!」
引退が近い年寄り騎士団長、消し飛ばしてやりますのよ!
「やめておけ、リデア」
「はっ! デイビット様!」
王弟のデイビット様が爽やかに登場しましたわ。
このお方の前で醜態を晒すわけにはいきませんの。
「そんな死にぞこないの老いぼれを虐めて何になるというのだ」
「そ、その通りですわ」
「フフ……。あのソアリスと違って、その素直なところがいい」
「デイビット様……もったいないお言葉ですわ」
「ところで今夜、どうかな?」
「ぜひ!」
あぁ、デイビット様がわたくしの肩を……。
前国王と王妃は病に伏せてすでに虫の息。
第一王子だったアドルフ様が王位についておられますが、実質このお方がトップのようなものですわ。
何せ国内における有力貴族の半分以上はこちらのデイビット様を支持しておられるのだから。
「でもその前に陛下に報告をしないと……」
「アドルフ兄さんには僕から言っておくよ」
「そんな、恐れ多いですわ」
「大丈夫、僕の言う事なら何でも信じる。王様なんて疲れる役割をやってくれているんだ。もう少し働いてもらわないとね」
何があっても、このお方が慰めて下さりますの。
この喜びがあれば、討伐失敗なんて些末な問題ですわ。
「ソアリス様……。我々は一体どうすれば……」
後ろから何か聴こえましたがどうでもいいこと。
せいぜい死ぬまで頑張りなさいませ。





