聖女、射撃対策講座をする 4
「デュークッ!」
サリアさんが叫んだ時、デュークさんにタリウスの射撃が命中する寸前だった。
私が手掴みで止めてなければ、直撃して命を落としていたかもしれない。
こっちを狙ってくる気はしていた。理由は簡単だ。
「オ、オレ、狙われたのか?」
「縦横無尽に動いているあなたが一番、目立ってます。加えて雑念に囚われているのを何となく読んだのでしょう」
「雑念って……」
「デュークさんは強いです。これからも、もっと強くなります。ですが今は慎重に歩んでください」
煽てているわけじゃなくて本音だ。
才能があっても、ちょっとしたことで命を落とす人が多い。
そのほとんどが心の隙が原因だったりする。
仲間割れした、慢心が過ぎた。負けて心が折れかけていた。
私達は人間である以上、心とは決別するのは難しい。
だからこそ、真剣に向き合わないといけない。
「……わかった。そして、ありがとな」
「と、落ち着いたところで状況を分析しましょう。手下の数は減ってますが、依然としてタリウスに接触できていません。何故でしょう?」
「逃げ回って……いや。距離を保っているから?」
「そうですね。残念な言い方をすれば逃げ撃ちですが、立派な戦術の一つです。卑怯、臆病だと憤慨するのは危険です」
「これ以上、逃げられるのは危ないな」
一度、冷静になってくれたらデュークさんは強い。
単純で熱くなりやすい性格だけど、頭が悪いわけじゃないから。
だからこそ、ハリベルさんはデュークさんに付きっきりで守りについていたんだと思う。
私よりも、よく仲間を見ている。
「私達が知らない罠を構えているかもしれませんし、戦力の底も未知数です。地の利も、草原全体にあるわけではありません。つまり、なんとしてでも距離を詰める必要があります」
「目が良い敵を欺いて接近する……難しいな」
「目が良いからこそ、欺けるものもあります」
「どういう事だ?」
私が作戦を伝えると、全員がより気を引き締めた。
闇雲に突っ込んでも逃げ撃ちを続けられて、こっちがジリ貧になる。
ここは目の良さを利用するしかない。
「では皆さん、ここからが正念場です。手筈通りにやれば、必ず勝てます」
二人一組のペアから、更にばらけた。
リスクが高いけど、ここからは新展開だ。
* * *
また隠れたか。
どこにいようと、この私の目からは逃れられん。
例えばそこの草むら。頭隠して尻を隠さずとは言うが、この場合は兜が丸見えなのだ!
「ザコが……死ね! 命砕の矢!」
私の射撃が草木を砕き、空を切る。そして獲物をぶち抜く。
時間はかかったが、最初からこうすればよかったのだ。
老騎士やあの女などは後回しでいい。まずはザコから確実に――
「……何ッ!」
なんと、命砕の矢がぶち抜いたのは兜のみだ!
兜を脱ぎ捨てて、囮に使ったか!
となれば、中身のザコはどこに行った?
「左方向に光を確認! あの魔術師か! 命砕の矢!」
あの魔術師の女を仕留めてしまえば、下らん攪乱は収まる。
が、またも空を切る。
「何だ? どうなっている? なぜ、こうも手際よく移動される?」
更に視界の様々な位置から光が発せられた。
これはどういう事だ。奴ら全員が魔術を使うとでもいうのか。
それでも不思議ではないが、一つずつ狙っていては時間がかかる。
この草原には草むらや木陰のような死角が案外、多い。
それは奴らも把握済みというわけか。
数が多いと、こうも厄介とはな。確かにすべての動きを把握するのは難しい。
少しずつ距離を詰めてくるか。仕方ない。もう少し高い位置に移動しよう。
あの丘まで走れば、ある程度は俯瞰できる。
私は全力で駆けて飛んだ。丘に飛び乗り、急いで周囲を見渡す。
「フ……思った通り、丸見えだ! 一匹ずつ仕留めて」
火花が散り、刃が私をかすめる。
寸前のところでかわしたものの、ここに私に攻撃できる者がいただと?!
バカな。こいつは!
「よう、やっと会えたな。馬野郎」
「お前、いつの間に……!」
あの炎の剣使いか。
まさか待ち伏せされていた?
「お前は一撃に集中して時間をかけすぎている。連発できないのはわかっていた」
「そ、そうか……。その間にコソコソと移動したのだな。フン、獲物にしてはやるようだ」
「数に攪乱されたなら、確実にここに来て仕切り直すのもお見通しだ。仲間も到着するし、ここで終わりだな」
「終わりだと……?」
丘の下を見れば、残りの仲間も到着したようだ。
なるほど、私は完全に取り囲まれているわけか。
なぜだ、なぜ気持ちよく狩りが出来ん!
こんな連中、取るに足らんはずだ!
「この獲物どもが……!」
私はタリウス。人の上半身を持ちながら、馬の下半身を持つ人馬一体の魔族よ。
接近されたとて、負ける気はしない。
たまには蹴り殺すのも悪くはないか。
あの化け物女の姿が見えないな。奴ならまだしも、周囲にいるザコどもなら何ら脅威ではない。
狩ってやる。殺してやるぞ。
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