聖女、射撃対策講座をする 3
「雷属性低位魔術ッ!」
「ギャッ!」
木の上から狙撃を狙った狩人の魔物にサリアさんが先制した。
雷の魔術は速度や威力ともに全属性の中でもトップクラスだ。
狙われてしまえば、ほとんど逃れられない。
名前 :ラビィフット
攻撃力:781
防御力:299
速さ :196
魔力 :106
タリウス率いる狩人達は遠距離攻撃手段を持っている。
今、サリアさんに倒されたラビィフットは矢での攻撃を得意としていた。
どこから調達しているのか不明だけど、人間のものを奪っているとみるのが妥当だと思う。
かわいいのはウサギ耳だけで、顔は中心に皺が寄って凶悪面そのもの。
小柄な割に筋骨隆々で、その剛腕から繰り出される矢は四級以下の冒険者ならほぼ仕留められる。
「そろそろね……。雷属性低位魔術!」
閃光が弾けるようにして、辺りを照らす。
この音と光は確実にタリウスを攪乱しているはず。
現に最初の攻撃以降、まったく飛んでこない。
攪乱中に二人ペアでばらけつつ、死角に潜む。
王国騎士団や冒険者が何年、アルカマイダ草原と付き合っていたか。
死角になる場所や穴場まで把握済みだ。
更に遠距離攻撃はあっちだけの専売特許じゃない。
「くらいやがれッ!」
「グェッ!」
若手の騎士達の中には弓のほうが得意な人もいる。
めげずに地道な訓練を続けたおかげだと思う。的確に狩人達の急所を射抜いていた。
更に止まらないのがデューク、ハリベルペアだ。
「氷属性中位魔術!」
ハリベルさんの氷魔術で更に射撃をやりにくくする。
その陰から強襲するのがデュークさんだ。
「燃え散りやがれぇ! ブレイズエッジ!」
「ギャアァァァッ!」
デュークさんの炎の剣はほぼ一撃必殺だ。
敵の装甲が硬くても、焼き斬るというコンセプトでゴリ押しする。
それを防ぎ切った蛙の魔族は本当に強かった。
まだあの時の無力感を引きずっているのか、たまに力が入りすぎているのが気になるけど。
「いかがですか、ソア殿! これでは敵もさぞかし、やりにくいでしょうな!」
「そうですね。手下の魔物も確実に数を減らしてます。ですが射撃の恐ろしさを忘れないでください」
と、忠告した直後にラドリー騎士団長が矢を大剣で叩き落とす。
猛騎士ラドリー、若い頃はほぼ力だけですべてをねじ伏せていたらしい。
私もこの人に武術の心得を学んだ事があるけど、本当に怖いよ。
開始数分でもうやめますと告げた瞬間が人生において、トップを争う恐怖の瞬間だったもの。
一度、自分で決めた事を簡単に投げ出すとはそれでも男かと怒られたよ。
女ですと答えた時がトップだった。
「どうです、ソア殿。あなたならば、武術を学べば更に強くなりますぞ」
「いえ、ご心配はいりません。このソア、武術は心得ています」
飛んできた本命の射撃を素手で掴む。
力を込めると、金属製の矢がぐにゃりと曲がった。
「こんな矢をどうやって飛ばしているんでしょうか。普通の弓ではなさそうですし、これこそスキルかもしれません」
「……確かに必要ありませんな」
今の射撃でわかった事がある。
さっきと違った角度からの射撃だし、当たり前だけど敵は移動していた。
しかも問題はその移動速度だ。
まさに矢継ぎにいろんな角度からの射撃が私に放たれる。
皆と違って私は隠れてない。そりゃ狙われる。
「なぜ私には攻撃してこないのでしょうな」
「油断しないからですよ。敵はラドリー騎士団長のような真っ当な騎士タイプではありません。どちらかというと性質は暗殺者に近いと思います」
「否定はしませんが、すっきりしない相手ですな」
「だからこそ、今日まで生き延びたのでしょう」
このタリウスを知ってから、私はずっと引っかかっていた事を思い出した。
同じ魔族であるタウロスは確かこんな事を言っていたっけ。
――あなたはどこから来たのですか? 誰かに仕えているのですか?
――そんなもんいねぇ! オレはずっと単独で強かった!
あの時は素直に受け取ったけど、今にして思えば違和感がある。
そもそもどこから来たのかな。なんで王都に執着していたのかな。
王都が危機的状況に追い込まれたのも、タウロスを始めとした魔族が襲撃を繰り返したからだ。
なんでいきなり王都に、と。この前までそう思っていた。
そこでデモンズ教との邂逅で、一つの仮説が浮かび上がった。
「タウロスとタリウスはまさか……」
ずっと単独で強かった。
それはあくまでタウロスがそう認識しているだけで、実は。なんて考えてしまう。
考え事をしているうちに、戦況はどんどん優勢になる。
少し背中を押しただけで、ここまでやれるようになる人達だ。
さすがのタリウスも、焦っているはず。
* * *
何故だ! 何故あの女を狩れない!
挙句の果てに我が命砕の矢が素手で防がれただと!
ふざけるな、そんな人間がいてたまるものか!
獲物は獲物らしく逃げ回っていればいいものを。
狩りは戦いではない。狩る者と狩られる者。
殺す者と殺される者だけが存在するのが狩りだ。
これほどシンプルかつ尊いものがあろうか?
それなのに、狩りとは言い難い状況になりつつある。
狩りをさせろ。自らの無力さを自覚すらせずに死んでいけ。
それが狩られる者の務めだ。
仕方ない。少し対象を変える。
次なる獲物は――
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