聖女、射撃対策講座をする 2
「この魔族は確実に私を見ていますな」
ラドリー騎士団長が早くも結論を出した。
堂々と射程圏内に入って構える。軽いフットワークを交えて挑発する。これでも撃ってこない。
つまり敵はハッキリとラドリー騎士団長を見て、迷っていると考えるのが妥当だ。
加えて、私の頭に直撃させたのに無傷だもの。
こいつらは何者だ、と警戒して当然だった。
裏を返せば、それだけ慎重になっている。この魔族、タウロスみたいな脳筋とは違うかも。
そんな中、デュークさんが痺れを切らして剣を振る。
「ソア、敵の位置は特定できただろう?」
「はい。しかし敵も移動します。しかもまだ手下の魔物が姿を現していません。という事はー?」
「どこかに隠れている」
「はい。ボスが長距離射撃をこなすなら、手下にも同じような攻撃が出来ても不思議ではありません」
とかいいつつ、私にはどこに潜んでいるのかわかる。
実は木陰や岩陰、隆起した丘に至るまで死角になっている場所のほぼすべてに潜んでいた。
このまま進めばまさに蜂の巣だ。
「デューク、気持ちはわかるが慎重になれ」
「わかってる、ハリベル。けど、こういうのは性に合わねえなぁ。チマチマせこい真似しやがって……」
「そうよ。こういう場合、正解かわからないけどこんなのはどう?」
サリアさんの提案は単純だけど効果的かもしれなかった。
だけど、それだけじゃ足りない。
「ではこういう場合、どうしたらいいか。簡単です」
皆、よく考えてくれている。
若手の騎士達も腐らずにトリニティハートの会話に聞き入って、精悍な顔つきを崩さない。
こんな時代に騎士になって今日まで生き残った人達だ。
将来有望じゃないわけがない。魔族、あなた達はとんでもない人達を敵に回したかもしれないよ。
* * *
何人たりとも逃がさない。
私は狩りが好きだ。いつからそうなったのかはわからない。
狩りの醍醐味はあくまで狩りという点のみだ。
一対一で対峙して剣を抜き、力を見せ合う。
そんな崇高なものではない。
敵を獲物として、一方的に殺す。
私よりも力が強かろうが、技が冴えていようが関係ない。
どんな者だろうと無抵抗のまま、射殺されるのだ。
この草原はいい。
多くの生物が獲物として存在しており、人間も姿を見せる。
互いが命を守るべく、戦う。
私はそこを仕留める。もちろん無抵抗だ。
狩りに矜持はない。
狩りは戦いではない。
狩りは気持ちいい。しかし――
「……何だと?」
女の頭に直撃させたはずだ。
しかし、死亡した様子はない。
そうかと思えば、老いぼれが私の射撃を誘っている。
一撃で仕留められなかったり、挑発されたのは初めてだ。
なるほど、今までの連中とは違う。
しかし、それが何だというのか。
私に近付くほど射撃はより精密になり、周辺には更に多くの手下の狩人が潜んでいる。
無駄だ。お前達が何かすれば、すぐに一斉射撃が始まるのだから。
「馬鹿め」
連中が一斉にばらけた。
狩人達がそこを見逃すはずがない。
一斉射撃――
「光……?」
今のは雷か?
「どこへ行った?」
連中の姿がない。
あの光で目くらましをした後、死角へと逃げたか。
なるほど、あくまでこちらと渡り合うつもりだな。
しかし、そんなものは狩りの基本だ。
ましてや、私にはこの目がある。
あの岩陰、草むら、居場所などすぐに割り出せた。
ではさっそく殺らせてもらおう。まずはあのザコからだ。
「命砕の矢ッ!」
間抜けにも、頭を出した男を――いや! 違う!
「人間ではない……!」
人間だと思っていたそれは、手下の狩人だった。
命砕の矢により頭を粉砕されて、身体がぐらりと前のめりになる。
何故、あんなところに。
そうか、知らぬ間に私の手下を殺して狙わせたのか。
チッ、こうも数が多くては一匹に集中できん。
邪道な真似をしやがって。しかし、無駄だとなぜわからん。
「また光か」
目くらましの際に、奴らはまた移動している。
それだけではない。
雷があらぬ場所を狙い撃ち、その度に狩人達が場所を変えていた。
獲物の中にいる魔術師の仕業か。
脅して狩人達が逃げるようにして場所を変えた際に、位置を特定している。
このままではまずい。私の居場所が特定される事はないだろうが、この狩場で好き勝手にされるのは気に入らない。
そもそも何故、奴らはこうも縦横無尽に動ける?
まるで自分達の庭であるかのようだ。
自分の庭、そうか。
「下調べは十分という事か」
地の利は奴らにもあるわけか。生意気な。
この私の狩りを妨げるな。
お前達は黙って狩られていればいい。
このタリウス、生まれた時から――
「生まれた、時?」
私は何を考えていた?
いや、そんなものはどうでもいい。
今は奴らを狩る。特にあの女、どこを射抜けば殺せるか。
おそらく奴も例外なく強者を気取っているだろう。
私の位置を特定して殺すと考えているはずだ。
残念ながら、この私に近づくのは不可能だと断言する。
そして近づいたところで、どうにもならない。
また私が距離を離すだけなのだから。
「目を封じたつもりだろうが、私にはこの四本脚がある。人が馬に追いつけるものか」
私は弓を引きつつ、駆けた。
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