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聖女と聖騎士団

「アルベールです」

「入れ」


 聖騎士団長の執務室全体に圧がある。

 呼吸、所作、一つでも間違えば首をはね飛ばされかねない。

 そんな緊張感さえ漂う。

 何せそこにいる聖騎士団長は元王国騎士団の副団長なのだから。

 魔術がはびこる世というのに、どちらかというと剣一つで聖騎士レーバインの名を国中に知らしめた強者だ。

 この方の前ではいくら気を引き締めても足りない。


「まずは先日の魔物の巣(デモンズネスト)駆逐の件、ご苦労だった」

「ありがたきお言葉です」

「主は一級に相当する魔物だというのに、見事としか言いようがない」

「この剣だけではありません。志を同じくする仲間あっての勝利です」


 このお方からお褒めの言葉をいただける身になった。

 それだけでも感激で打ち震えそうになるが、舞い上がる事なかれ。

 私を接待する為に呼びつけたわけではあるまい。


「この聖騎士団において、若手の中でお前に敵う者はいないだろう。聖女ソアリス様に見ていただきたい勇姿だ」

「そ、そんな! この私など、歴戦の方々に比べればまだ五十里も歩んでおりません! まだ邁進してまいります!」

「それでいい。そうでなくては、剣を振るう意味などないのだからな」

「えぇ、まだまだこの剣で守らねばならない命はあります」


 この聖騎士団本部(イージス)はかつて戦争で使われた砦跡を改修している。

 身寄りのない者達を保護して住まわせているが、未だ心の傷が癒えない者は少なくない。

 そう、王国が守ろうとしなかった命だ。

 聖女ソアリス様を陥れた腐敗の象徴ともいえる王家や貴族に尽くす義など、どこにもない。

 志を同じくした者達が聖騎士レーバインの名の元に集って結成したのが、この聖騎士団だ。


「忘れるな。我々が仕えるのは聖女ソアリス様だ。あのお方の意思こそが我々なのだ」

「はいっ……!」


 若い身ゆえ、ソアリス様に直接お会いした事はない。

 しかしこの執務室にも飾られているソアリス様の肖像画を見るだけで、そのお美しい姿を確認できるのだ。

 まるで天から舞い降りた天使のようで、すべてを見守る女神のようでもある。

 お会いした事があると思われる年配の方々を羨ましく思う。


「しかし志だけでは何もまかり通らん。私もいつまで剣を振るえるかわからぬ。同年代の同志達も同じだ」

「恐れながら、そう思わせぬ覇気をひしひしと感じます」

「本気でそう思うのならば、私に比べてまだまだ未熟という事……。そこで私は才ある若手を伸ばしていきたいと考えている。残る魔物の巣(デモンズネスト)をお前を含めた若手だけで駆逐してもらおう。対象は魔族タリウスが率いる狩人達だ」

「それはなんと……」

「臆したか?」


 ここで臆すような者に聖騎士団に在籍する資格などない。

 それどころか、剣など捨ててしまえばいい。


「高みへの好奇心が止まりません……!」

「そうでなくてはな」


 レーバイン様が仰る通り、私はまだ未熟だ。

 この剣ではまだ多くの命を守り抜けないだろう。

 今回の討伐を乗り越えれば、私は心身ともに大きく成長する。


「そこで、だ。共に討伐に向かうパートナーを決めるがいい」

「それならば、あの者をおいて適任はおりません!」

「ほう、それは頼もしい。期待しているぞ、我が息子よ」

「はい、お父上……!」


 聖騎士レーバインの名を汚すわけにはいかない。

 息子の私はいずれ聖騎士の称号を引き継ぐ。

 いや、引き継がなければいけないのだ。

 偉大なる父の称号こそが聖女ソアリス様への敬愛そのものなのだから。


                * * *


「沢山あるので落ち着いてくださいねー!」


 今日は騎士の人達と協力して、炊き出しを行っている。

 トリニティハートを含めた冒険者の方々は元より、キキリちゃんが加わった騎士団は本当に強いとか。

 怪我人をほとんど出さずに魔物の巣(デモンズネスト)駆逐なんて、以前じゃ考えられなかったらしい。

 思った以上の才能を見せつけてくれたか。私も負けてられない。

 そんな感じで戦力が充実してきたおかげで、王都と近隣の街との交易が少しずつ復活してくれた。

 おかげで食材が確保できたのは本当に大きい。

 それはいいんだけど、なぜか私に調理を手伝わせてくれなくなったのが不思議だ。


「ソア殿は味見係で!」

「えー? 私、こう見えても料理の腕はいいんですよ? 前に冒険者の方々も涙を流しながら食べていましたし……」

「ソア殿には治癒という大切な仕事があるのでは?」

「そうでした!」


 なるほど、私とした事が。

 この炊き出しと並行して、皆を癒やすのが狙いだ。

 治癒最高位魔術(エデンヒール)だけじゃ十分とはいえないし、依然として治療院の負担が存在する。

 こうして並ぶ人達を見れば、どこまで治癒が必要なのが一目瞭然だった。


「なるほど、この方は血圧が高いですね。それならば、このトマトを料理に……」

「余計な事はしなくていいので治癒魔術を!」

「食事も大切なんですよ? 仕方ないですね」


 などと騎士達とやり取りしながら、私はもう一つの問題について考えていた。

 それは交易ルートについてだ。

 復活してきたとはいえ、まだ万全じゃない。

 私が駆逐していくのは簡単だけど、どうせならトリニティハートの時みたいに前途ある若者の育成の糧にしたいわけで。

 先を見据えるなら、絶対にこれが一番だ。

 というわけで次の目標はタリウス、南との交易路の草原に陣取っている迷惑な魔物の巣(デモンズネスト)だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ・・・調理の腕は
[一言] 勝手に敬愛された騎士団潰しますか! 面倒な思考なので!
[一言] 尊敬は理解から最も遠い感情(至言)
感想一覧
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