聖女、王都の掃除をする 3
ルイワード侯爵。元軍事大臣にして未だ国の重鎮として居座る。
リデアとデイビットの協力者の一人なのは間違いない。
裁判における人員の末端に至るまで、弱みを握ったり偽の情報を吹き込んで操作していた。
特に前王の側近をやっていた家臣はルイワードに買収されていたけど、罪の意識に耐え切れずに自殺。
根を構成していた貴族達も、聖女派と反聖女派の抗争に巻き込まれて死亡かもしくは逃亡している。
国内にいない人達に関してはひとまず置いておいて問題ないと思う。
問題は国がこんな有様なのに、未だ血の一滴まで啜ろうとしている悪魔が寄生している件だ。
「お、お前があの、聖女なわけがない! 聖女がこんな非道な真似をするか!」
「何もご存知ないのですね。私が泣き叫ぶ夜盗に何度、止めを刺したかご存知ないようです。それよりまず一つ目の質問、私の杖はどこにありますか?」
「杖だと? 何の事だ……」
「私の部屋に保管してあったはずなのですが、どこにも見当たりません。リデアも手をつけてないと言ってましたし、そうなると何者かが持ち去った可能性があります」
「そ、それがワシと何の関係がある!」
「先日、私の屋敷に侵入してきた賊を見て思ったのです。すでに何度か侵入されているのならば、すでに持ち去られても不思議ではありません」
この人達が地下でろくでもない事をしている時、予め屋敷内を調べさせてもらった。
そしたら出てくるわ、悲惨な証拠の数々。
特に裏帳簿には決定的な証拠が満載だった。
その中には謎の薬を仕入れた項目がある。
相手までは書かれていなかったけどマザー・グレースの可能性が高い。
「杖など知らんな。そんなものをワシが手に入れてどうする」
「賊はデモンズ教と名乗りました。彼らはどうやら私の研究資料を欲しているようです。そんな彼らと繋がりがあるあなたならば、何か知っているのでは?」
「知らんと言っている!」
「そうですか。まぁこれについては置いておきましょう。デモンズ教とは関わりない賊の可能性もありますからね。次、こちらの裏帳簿についてです」
ルイワードが顔を露骨に歪める。
どう言い訳しようかといった感じにも見えた。
「薬と記述されていますが、これの取引相手はマザー・グレースですか?」
「ち、違うに決まっているだろう!」
「魔物化した方々もその薬によるものですか?」
「そんなわけ……うあぁ! なんだ、なんだぁ!」
空間圧縮でルイワードを追い込む。
このままだと空間に押しつぶされて死ぬ。
「正直に話さないと、先程の方々と同じ目にあいますね」
「マザー・グレースだ! あいつは聖人面してとんでもないババアなのだ!」
「よく言えました。次、この薬の詳細は?」
「知らん! 成分などわからん! ただし適応できるかどうかは個人差がある! 飲んだ瞬間、死ぬ奴もいれば身体の一部分だけ成功する奴もいる!」
「つまりこれまで多くの人間を犠牲にしてきたわけですか」
「あ、あいつらはクズだ! 社会に見放された犯罪者、もしくは予備軍! 誰からも相手にされない!」
社会不適合者、いわゆる心に闇を抱えた人間なら成功率が高いのかな。
薬とはいうけど、本当に?
「薬の現物はありますか?」
「な、ない! 本当だ! 次にあのババアと接触しなければ手に入らん!」
「予定と場所を教えてください」
「に、二番地区の廃墟……。三角家だ」
「あぁ、あの有名な……」
建物の至る所が三角で構成された家だ。
私が生まれる前に建てられて、住人もいなくなっているから詳細はわからない。
その歪な建物はあまりに不気味すぎて、特に夜は誰も近づかないらしい。
「そこでマザー・グレースと落ち合うんですか?」
「そうだ。正直に話したのだから、もういいだろう?」
「もう一つだけ質問があります。あなたは兄である前王の容体を知っていますか?」
「もちろんだ! 支援もした!」
「顔を見せて言葉を交わした事は?」
「ある! 私の手を握って『これからの国の未来を頼む』と言ってくれた!」
すごいな、この人。
どうしてこんな状況でウソがつけるんだろう。
私が何も知らないとでも思ってるのかな。
あの人は私の手を握ってこう言った。
「国に害するものであれば、そなたにすべてを委ねる。それが私にできるせめてもの償いだ」
「……は?」
「前王の口からあなたの名前は出ませんでした」
「ま、まさか、会ったのか……」
愕然としたルイワードが閉鎖空間で足掻く。
左に手を伸ばしたところで、見えない壁に阻まれる。
空間という概念には抗えない。
「お、お前、やっぱり、本物……!」
「そう言ってるでしょう」
「聖女よ! ワシも今までの行動を改める! これからは世の為、人の為に尽くす! 正直に質問にも答えた! 頼む! 協力させてくれ!」
「いいですよ」
「ほ、本当か!」
「えぇ……」
空間圧縮。
ルイワードの体がへし折れて、血を吐き出した。
「ごふっ……な、なん、で、やめでぐでぇえぇ!」
「あなたに出来る事は消えてなくなる事です。それが一番、世の為や人の為になります」
「いや、だぁぁ……。ワシは死にたくないぃ……答えたのにぃぃ……」
「欺かれた感想はどうですか?」
ぶちゅりと体が潰れて、臓器や骨がぐしゃぐしゃになる。
断末魔の叫びさえ上げることなく、ルイワードは潰れきった。
「正しく生きていれば報われたり信頼されるとは限らない。だけど正反対に生きた人間は誰からも誠意を示されなくなる……。そんな世の中であってほしいものです」
圧縮が完了した後は何も残らなかった。
広い地下室にひんやりとした空気が漂うだけ。
これでルイワードは屋敷内で謎の失踪を遂げた事になる。
恨みを持った人間に拉致されたか、それとも。
そんな憶測が飛び交うだろうけど、いずれにしても誰も安否なんて心配しない。
だって、そんな人生を送って来たんだから。
でも大丈夫、あなたが搾り取った養分はきちんと還元するよ。
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