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聖女、王都の掃除をする 2

 声色からして、小柄なその女はどうやら少女のようだ。

 白いローブをまとって、フードで顔を隠している。

 まず扉の開閉音は一切していない。

 すでに紛れ込んでいた?

 いや、それはない。この地下室に招き入れた者達は完璧に把握している。

 逃亡中の犯罪者や借金を踏み倒して逃げた者、家族から煙たがられていた者。

 おおよそクズばかりを集めて尚且つ、ここから一歩も出していない。

 あのババアから買った薬を投薬して、何とか制御に至ったのがこいつらだ。


「こんな広い地下室をお作りになられていたんですね」

「何者だ!」


 小娘は私の問いに答えず、地下室内を興味深く見渡している。

 外部からの侵入とすれば、どうやって入った?

 屋敷周辺には対侵入者迎撃用の魔導具が仕掛けてある。

 入口は冒険者等級換算で3級の者達が警備しているはずだ。

 何なのだ、こいつは!


「ルイワード侯爵、お久しぶりです。私を覚えてますか?」

「……ッ!」


 フードを取ったそいつの顔を見て絶句する。

 呼吸がままならくなり、血の巡りの速さを感じた。

 ウソだ、こんな事があるわけがない。

 亡霊だ、そうに決まってる。


「なん、で……ありえない……。お前は、違う。そうだ、偽者だ! フハハハッ! まったく、手の込んだ悪戯だよ! ハハハハハハッ!」

「デイビットとリデアはすでに粛清しました。あなたも黒だろうと踏みましたが、どうやら正解ですね」

「おい、お前ら! この小娘が誰だかわかるか!」


 こいつがあの聖女ソアリスならば、気づく奴がいるはずだ。

 何せ聖女とまで崇め称えられていたのだからな。

 しかし結果はどうだ。


「……誰だ?」

「ルイワード侯爵も人が悪いですぜ。そいつを俺達に褒美として用意してくれたんですよねぇ?」

「最高じゃねえか!」


 それ見たことか。

 若い連中は仕方ない。20年前に子どもや青年だった奴らはどうだ。

 あれだけ国中が熱狂していたにも関わらず、こいつらは誰も知らない。

 聖女の威厳があったとしても、その程度なのだ。

 そもそも、決定的におかしい点が一つ。


「少女の姿を模したのは間違いだったな。奴が封印されてから20年も経っている。フン……とんだ茶番だよ。さぁ、とっとと正体を表せ」

「それは説明が難しいですね。まぁいいんですけど」

「何者か知らんが、どんな余裕をもってここにいる? 言っておくが、こいつらはただのゴロツキと違うぞ」

「そうでなければ困りますね」


 これだけの数に取り囲まれても、顔色すら変えないとは。

 こんなところまで聖女を模したか。

 思えば記憶の中のソアリスは涼しい顔をして、時にはヘラヘラ笑っていた。

 すぐに化けの皮を剥いでやる。


「お前達、やれ」

「えー! まさか殺せってことですかい? そいつはもったいないですぜ……」

「女など後でいくらでも手に入る!」


 一人ずつ、姿を変えていく。

 それぞれ見た目はまったく違うが、いずれも3級以上の魔物と同等の力を有する。

 中には薬とより適合したのか、2級以上の魔物に変化を遂げた奴までいた。

 しかもあれは1級のブラストデーモン!

 超火力の魔術を操り、対峙した者は骨すら残らんほど生きた証を消される。

 確かバニッシュデーモンとも呼ばれていたな。


「クククッ! こいつはすげぇぜ!」

「マジモンの薬だぁ!」


 魔物化した連中が騒がしく、己の身体を確認している。

 こういう実社会に適応できないような連中なら平然と人を捨てられると確信していた。

 何せ手軽に邪道に落ちるような連中だ。

 何の矜持も持ち合わせておらず、ただ今日を生きるだけ。

 餌を与えればホイホイ食いつく。畜生のようなクズどもだが、ワシはこいつらを従えて力とする。

 いずれはあのババアを殺して薬をすべていただこう。

 ワシの覇道は確実に開かれている。


「なんて惨い……」

「何が惨いものか。この力こそが今後の世に必要なのだ」

「聖女もまた力でしょう。それなのにあなたは排除した。自分の意のままに動かないから、そうしたのでしょう?」

「黙れ! これ以上、憎らしい顔でほざくな! お前達! やれッ!」


 途端、連中がグンッと動く。

 奴に向かうどころか、攻撃するどころか。

 逃げているのだ。


「な、何をしている!」

「お、押され……るぅぅ……!」


「ルイワード侯爵、動かないほうが身のためです」


 ワシの行動を先読みしたのか、偽の聖女が牽制する。

 これは逃げているのではない。

 全員が一か所に引きずられているのだ。

 互いがぶつかろうとも、骨が折れようとも中心への強制移動は変わらない。


「空間圧縮」


 悲鳴をまき散らしながら、連中が一体化するように一か所にまとめられた。

 血の一滴すら落とす事も許さない。

 まるで見えない壁に押されるかのように、やがて悲鳴すら聴こえなくなる。

 収縮しきった者達が豆粒ほどになり、それすら消えると偽の、偽、の聖女、は。


「こちらの空間魔術のおかげで冥球(メトロ)から脱出できました。納得していただけたようなら、お話をしましょう」


 偽、なのか?

 違う、本物とも違う。

 本物の聖女がこんなえぐい行いをするわけがない。

 いつもヘラヘラして。


「お話をしましょう。内容次第では無事でいられますよ」


 そうだ、こんな風に、笑いかけて。

 ハハハ、やはり偽物だ。

 こいつ、誰だ。

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