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聖女、デモンズ教の実態を知る

魔人化(ネクスト)ッ!」


 謎の単語と共に変身を終えた男は、人間の面影を残してない。

 牙を見せつけた獰猛な狼が二足歩行で、私達の前に立っている。

 伸びた爪はそのままで、尻尾を揺らして私を見下ろしてきた。


名前 :狼男(暫定)

攻撃力:1,003

防御力:622

速さ :1,290

魔力 :4

スキル:なし


「ば、化け物だぁぁ!」

「魔物! 魔物が!」


「皆さんッ! まったく問題ありません!」


 腹の底から声を出して一喝すると、全員が静止する。

 狼男すらのけぞって、口の端から垂れる涎をまき散らす。汚いよ。


「皆さん、見てください。あの姿……まずあの爪、不便じゃありませんか?」

「ふ、不便?」

「ナイフとフォークも持てませんし、物を掴みにくいです。それにうっかり爪を引っかけて剥がれたら最悪ですよ」

「うわっ……」


 皆が指を押さえたり、確認する。

 身の安全の為、爪はきちんと切りましょう。

 ほら、思わず狼男もちょっと心配して爪をさすってる。


「それにあの毛、抜け毛がすごいですよ。料理なんかにも入りますし、ダニなどの虫が住みつきます」

「それにケアも大変そうよね……」

「そうです、おねーさん! ブラッシングを欠かすと毛玉になります!」

「あんな姿になったら大変よねぇ」


 一般人女性が頬に手を当てて心配する。

 いいね、乗ってきた。


「それになんといってもあの大きさ! 家もリフォームしなければいけません」

「そもそもあんな姿になったら、街にいられなくないか?」

「それもありますが、食べ物も要注意ですよ。玉ねぎを食べたら死ぬかもしれません」

「狼でも死ぬのか?」

「死ぬ可能性はあります」


 皆が囁き合って、本気で考えてくれている。

 玉ねぎはわからないけど食の変化は重要だ。

 身体の構造が変わるんだから当然、人と同じものを食べても平気な保証はない。


「食べ物は深刻だよなぁ」

「魔物になった途端に無性に人が食べたくなって……近しい人をガブリとやってしまうかもしれません。あなたの仲間を殺した魔物と同じ事をしてしまうんですよ」

「……そうなるのか?」

「わかりません。ですが復讐心に駆られる前に考え直すべき事はたくさんありますよ」


 デモンズ教の勧誘に惹かれていた男性が、バツが悪そうに目を細める。

 思い直してくれたのかな。

 狼男をちらりと見た男性が、握り拳を作った。


「どうかしていたな。あんな風になっちまったら、あいつらを殺した化け物の仲間入りだ」

「もっとも問題なのは目先の強さに釣られてしまう心の弱さです。なので、まずは落ち着きましょう」


 皆が冷静になって改めて狼男を見る。

 当の狼男は怒り心頭で震えていた。

 うん。心の強さよりも、こういう時は実力のほうが大切だ。

 綺麗ごとばかりじゃ生きられない。

 でも、なくしたら終わりなのが心だ。


「さっきから散々コケにしよって……! 何が心の弱さだ! 爪も気をつければ問題ない! 毛なんぞ気にするかぁ!」

「ほら、気をつけないと危ないじゃないですか」

「簡単に剥がれるかどうか試してやろうかぁッ!」


 爪が私を切り裂かんばかりに襲う。

 片手で爪を迎え撃つと、悲惨な瞬間が訪れた。

 メリッと爪が妙な方向へ曲がる。


「あ、あぁッ!」


 素っ頓狂な声を上げたのは聴衆の誰かだ。

 今度は別の理由で悲鳴が上がる。

 爪が折れて剥がれた時、狼男が絶叫した。


「ぎゃああぁぁぁぁぁ! ああぁ! うういいああぁぁぁぁ!」


 謎の奇声を上げて血をまき散らしながら横倒しになった。

 絶叫しながら転げまわる狼男の姿は滑稽というより、同情に値したんだと思う。

 皆、絶望に暮れたような表情でその姿を見守っていた。


「いだい痛いいいぃぃ!」

「痛いですよね。私も魔力強化を解いた時にうっかり壁の角に小指をぶつけて泣きました」

「そんなものじゃなくてなぁぁ!」

「そんなものとは何ですか。壁の角を憎悪するほどの痛みですよ」


 しゃがみ込んで狼男に真剣に語る。

 まじめに言うと爪が剥がれたくらいで、こんなに痛がってる時点で戦いなんて無理だ。

 という事はこの男、デモンズ教といってもあの賊と大差ないかもしれない。

 重要な情報を得られるかなと思ったけど期待外れかな。


「あなたをそんな姿にしたのは誰ですか?」

「い、言えるか……」

「爪剥がし」

「わかった! 言う!」


 互いの利害が一致して交渉がスムーズに進行した。

 後は嘘をついてない事を祈るだけだ。


「し、司祭様だ……。顔や名前はわからない……」

「爪剥がし」

「本当だ! 常に正体を隠すようにフードを深々と被っているのだ!」

「他に特徴は?」

「特徴と言われてもな」

「いなくなる時、どっちに向かって歩いていきます?」


 フードかぶりなんて私だけで十分だ。

 こうなったら細かい質問を重ねていくしかない。

 狼男が嘘をついていなければ、小さい情報の集積が真実への近道になるかもしれない。

 仕草、癖、男か女か、年齢。

 未知の人物なら厳しいけど、誰かが知ってる人物なら儲けもの。

 デモンズ教、これは絶対に放置できない。

 人を魔物に変える力をもっていて、そんなのが王都の中にいるなら早急に対処しないと手遅れになる。


――彼は元軍事大臣、現役の頃から王国軍の軍事力と権威に執着していてな


 もしルイワード侯爵が関わっているなら、この力に目をつけてもおかしくない。

 人の道を踏み外すような人間だとは思いたくないけど、リデアやデイビットという前例がいる。

 自分の為なら他者を何とも思わないような外道なんて珍しくないと学んだ以上は、徹底するしかない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 尋問の際の二度目の「爪剥がし」で不謹慎ながら笑ってしまいました。
[一言]  犬科の爪だったなら、爪にも血管が通る部分もあったりして、剥がされたら本気でヤベーでしょうな。
[一言] 人間の爪みたいに表面に張り付いてるわけじゃないしね、剥がれたというかへし折られたら痛いわな そもそもが走る時のスパイクでもあるわけだし
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