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聖女、侵入者を撃退する

 温泉の本格的な建設はアドルフ王と改めて相談して、人員を手配してくれる事になった。

 完成まではもう少しかかるけどもう一つ、私が追加しておいたから今はそれで我慢してほしい。

 こっちはこっちで魔力酔いがまだ完全に収まってなかった。

 治癒最上位魔術(エデンヒール)はまだまだ研究の余地があるし、そう乱発できるものじゃないな。

 でもこれと温泉のおかげで、治療院の負担は格段に減る。


 トリニティハートや来てくれたその他の冒険者達のおかげで、問題の魔物の巣(デモンズネスト)が次々と壊滅していた。あの人達ほんとすごい。

 これによって騎士団の負担が減って、王都内への治安維持に人員を回せる。

 更には各街との交流も少しずつ復活するだろうし、物流が安定すれば物資の不足問題も少しは解消されるはず。

 そんな風に思いを馳せながら寝室で眠りについたけど、物音で目を覚ます。


「……泥棒かな?」


 空間掌握で確認すると、泥棒らしき人物は窓を割って侵入したみたい。

 そうか、治安が乱れているならこういう事もあるか。

 この屋敷には使用人のマルサさんと両親の二人しかいない。

 と、侵入者はそう踏んでいる。残念だけどここには帰ってきた娘がいるのだ。

 空間掌握で手に取るように侵入者の動きを把握しながら、忍び足で進む侵入者の背後に立った。


名前 :???

攻撃力:4

防御力:4

速さ :3

魔力 :2


「ナイフ一本はさすがに無謀でしょう」


 私の声で振り向くと、遅すぎる攻撃が始まった。

 一気に首を掴んで壁に背中ごと叩きつける。


「ぐえぇっ……」

「何の戦闘経験もない、ただの成人男性ですね」

「グ、ギ、ギ……」

「無駄ですよ。こちらの質問に答え……」


 男の腕が突然、膨張する。

 緑色に変色した後は腕だけが、まるで魔物のトロールのように変化した。

 ひどくアンバランスな見た目になったところで、私への反撃が始まる。


「ちょっと、何ですかそれ」

「と、止められた……!」


 膨張した腕で殴りかかってきたけど、手の平でパシンと受け止めてあげた。

 この魔力じゃまともな魔術なんて使えないし、魔導具も確認できない。何が何やら。


「あなたは誰? 答えないと死ぬよ」

「チクショウ! 何だよコイツ! 話が違う!」

「誰からの話ですか」

「いぎゃあぁッ!」


 緑腕を軽く握ると、悶えて一気に抵抗しなくなった。

 背を壁に滑らせて、ずるずると座り込む。


「答えて?」

「し、司祭……」

「司祭? もう少し要領よく話して」

「デモンズ教の、司祭に……。この屋敷にあるものを、とってこいと言われて……成功したら、更に力を解放させてやるって……」

「デモンズ教?」

「知らない、のか……。貧弱な人間は仮の姿で、力の解放をすれば……魔族以上になるのが、俺達人間だって……。あの人はそう言ってた……」


 ここにきてイレギュラーが発生しちゃった。

 王都内にそんな怪しげなものが誕生していたとなれば、手を打たないわけにはいかない。


「20年前から出来たものですか?」

「知らない……。今、王都では密かに……人気なんだ……いでで! は、離してくれ!」

「ふーん……。それはそれとして、ここに何を取りにきたの?」

「それは言えなあああぁぁ痛い痛い痛いわかっだ話すからぁぁ!」


 この様子だと、この男はただの一般人でデモンズ教とかいうのから力を貰ったらしい。

 次から次へと、わけのわからない問題が出てくる。腹が立ってしょうがないけど、こんなのに当たり散らしてもしょうがない。


「せ、聖女ソアリスが残した……研究資料を……」

「司祭の居場所と名前は?」

「名前は知らない……居場所は王都の六番地区だ」


 六番地区、あまり裕福じゃない人達が集まるところだ。

 そんな場所で何らかの思想を説いて、弱みに付け込んでいるのかもしれない。


「その腕の変化はどうやったの?」

「それは……」


 男の口から何かが覗いていた。

 次の瞬間、それが出てきて男に巻き付く。


「ひ、ひぃぃ! や、やめ……」


 巻き付いたのは蛇だ。

 男の体をジグザグの形にへし折って、おびただしい血が廊下を汚す。

 どしゃりと聴こえてきそうなほど、男は無惨な倒れ方をした。

 蛇の姿はすでになくて、死体だけが残される。


「……えー? そりゃないよー」


 魔術式完全理解(マジックマスター)で見破れなかった。

 今の男に何らかの魔術が施されていたとは思えない。

 いや、そう考えるのは早いかも。

 魔族の中には魔術に属さない固有の能力を持つ個体がいる。

 フィジカル型とは違って、また面倒なタイプだった。

 だとすれば黒幕は――


「お父様とお母様に見つかる前にこれを何とかしなきゃ……」


 それにしても蛇、か。

 ふと、ダークサーペントを思い出した。

 もしかしたらあれは何者かが意図的にあそこに放ったのかもしれない。

 今の蛇との関連性があるなら、敵は蛇好き。じゃない。

 少なくとも、あのレベルの魔物を従えられるほどの魔族か。


「死体は……埋葬してあげるか。一応、犠牲者だから」


 とはいえ、今後もこんな風に襲ってくる人間がいたら容赦しない。

 今の私に取捨選択をしている余裕なんかないもの。

 私もアドルフ王と同じだ。救える命を選別して、自分の選択を信じる。

 そうでもしないと、この危機的状況を乗り切れない。

 本当は綺麗な聖女でいたかったけどね。

本日、総合日間ランキング5位!

ついに転落が始まりました!

恋愛なしの聖女ものですがまだ健闘したいです!

まだ大丈夫だよ、面白いよ、蛇を操る魔族! やばそう! でもどうせ瞬殺でしょ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大分究極超人過ぎる主人公に最初は大丈夫かこれ?主人公強過ぎて話面白く出来るのか?と思っていたが、対応する問題が個人で解決するにはあまりにも酷く膨大な為、これくらいのスペックは話を面白くする…
[良い点] 新たな戦闘の予感 おもしろかったです [一言] 行方不明の主人公の杖 王都にあるとか書いてあったのでそろそろ回収するのかな 個人的には可憐で美少女な主人公が 悪漢をぶん殴ったり蹴ったり真…
[気になる点]  ソアリスとリデアの歳の差が書かれてないような。 [一言]  逼迫しているな。アドルフ王は愚王になるのかそれとも、国家を元に戻した賢王になるのか・・・。
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