聖女、騎士団を救う
ラドリー騎士団長を回復すると、目に涙を浮かべている。
それからすぐに鼻水をすすり、頬を濡らした。
「よくご無事で……。あれから腎臓に石は出来ていませんか?」
「な、なぜそれを?!」
「あ、すみません! おじいちゃんによく似ていたものでつい!」
まずい、これは正体に繋がるエピソードだ。
あの時は本当に大変だったな。
あの実直かつ厳格なラドリーさんが死ぬだの喚いて、挙句の果てには遺書を書きだしたっけ。
王国騎士団長を追いつめたこの逸話は、騎士団内で語り継がれていく事になった。
「我々は聖女ソアリスに謝罪しなければいけません……」
「何を言ってるんですか。謝らなければ行けない事をしたのですか?」
「まだ少女である彼女を聖女と崇め称えて、甘えた結果がこれです……。王国騎士の先頭に立つものがこの事態を招いたのです!」
「……自分を責めるのはやめましょう。私はやめました」
自分の油断があって封印された。そんな反省や後悔は一回で十分だ。
ダメなところなんていくらでも掘り起こせちゃうんだから、際限がない。
「さてと、怪我をしている方が大勢いらっしゃいますね。私はそちらへ向かいます。ラドリー騎士団長は王都内へ退避してください」
「なぜ名前を?」
「あ、あなたは有名でしょう」
「……そのようでしたな」
部下の騎士達の視線が私に集中していた。
20年も経っているなら騎士団も人が入れ替わっているはず。私を直接、知る人もいないのかもしれない。
「ソア……?」
「何者だ?」
「ラドリー騎士団長を一瞬で完治したぞ」
「おいおい、このタウロス様を無視するくらいにはてめぇは強いと思い込んでんだなぁ? おぉ?」
牛型の大きな二足歩行の魔物が大股で私に近づく。
また魔族か。ミノタウロスに似ているけど、あっちと違って素手だ。
名前 :タウロス
攻撃力:6,722
防御力:5,003
速さ :3,450
魔力 :5
「ミノタウロス以上だ、これ……」
またフィジカル特化の魔族だ。
ただそれを差し引いても、騎士団で対応できない相手じゃない。
特にラドリー騎士団長は魔術が使えないながらも、宮廷魔術師に匹敵する国内有数の実力者だ。
"猛騎士"ラドリーは、国内外の1級冒険者すらも手合わせを申し込みにくるほどなのに。
ここまで追い込まれた原因としては、いろいろあると思うけど――
「トリニティハートの皆さん、キキリさん。今のあなた達なら、あの魔族に勝てるはずです。私は皆さんの怪我の治療に専念しますね」
「はぁ?! あいつ、この前のカエルと同じくらい強いだろ?!」
「デュークの言う通りよ! いくらなんでも無茶でしょ!」
「今のあなた達なら勝てます。ここで経験を積んでおけば、今後の戦いが楽になりますよ」
今にも暴れ出しそうなタウロスを舐めているわけじゃない。
これから先、トリニティハートみたいな正しい心を持った強い人達は嫌でも必要になる。
だから強くなれる機会があるなら、どんな時でも利用するべきだ。
さっそく治療を始めると、タウロスがついに角を向けて突進してくる。
「させるわけねぇだろ! タウロスホーンッ!」
「聖女パンチ!」
といいつつアッパーだ。頭が跳ね上げられて、大きな体が宙を舞う。
手下の魔物が散って逃げたところでドシンと落下した。
「ぐ、ぐあぁ……う、あぐっ……」
「少しやりすぎたかな……手加減はしたんだけど。というわけでデュークさん、ハルベルさん、サリアさん。それにキキリちゃんもよろしくですよ!」
激痛で起き上がれない今がチャンス!
なんだけど、律儀に起き上がるのを待っていた。真面目な子達。
口から血をボタボタと落としながら起き上がったタウロスだけど、まだふらついている。
「炎属性低位魔術」
次は手下の魔物達の処理だ。
片手から出した鞭状の炎がうねって分裂。
無数になった鞭が魔物達にからみついて秒で焼け焦がした。
熱さで悶えるのは一瞬だ。蛇みたいにからみついた炎が消えた時には骨すら残ってない。
その後は他の騎士達の治療だ。駆け寄ると身体を震わせた。
「なっ……!」
「何が、何が起こった!」
「はい、動かないでくださいねー」
「ひっ!」
驚きのリアクションが出来る人は後回しだ。
その近くで倒れている瀕死の騎士達から順に治療を始めている。
時間はかけられないからペースを上げていこう。
「いでぇ……いてぇよ……。なんだ、何だよぉ……やばい、やばい……。ここはとりあえず……」
「あ、逃げるのはダメです」
タウロスがよろけながらも王都から離れようとしたけど、すぐに元の位置に戻る。
何度か逃げ出したところでようやく気づいたみたいだ。
「な、なんでだ?! なんで戻ってきちまうんだよ! おぉ?!」
「空間隔離を行ったので、遠くに逃げようとしても無駄です。無限ループというやつですね」
「てめぇは何なんだよぉ!」
「私からは逃げられません。でもかわいそうなのでトリニティハートの皆さんに勝てば見逃してあげますよ」
うろたえるタウロスの背後で、トリニティハートの人達が覚悟を決めたみたいだ。
キキリちゃんも杖を握りしめて、腰が引けてる。初めての実戦だし、あの子に関してはハードル高すぎたな。
でも最終的にやる気を出してくれた。
王都に到着する最後の夜、こんなやり取りをしたのを思い出す。
――聖女ソアリスは絶大な魔力をもって敵を打ち滅ぼしたと聞いてます。
――私にそんなのはないですけど、もし少しでも近づけたら……パパとママも喜びますかね?
――聖女ソアリスである必要はありません。聖女キキリはあなたにしかなれないのです。
この世でたった二人しかいない両親を喜ばせられるのはキキリちゃんしかいない。
そんな子の頑張りなら私は全力で応援する。
倒れている騎士達を次々と復活させながら、タウロスに立ち向かうトリニティハートとキキリちゃんを眺めた。
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