聖女、勘ぐられる
「おーい?」
冒険者の目の前で手を振る。反応がないし、放心状態というやつだ。
こうなるのはしょうがないけど、ひとまず我に返ってほしい。
ひとまず耳元で――
「あのーっ!」
「おぉっ! す、すまない。それで、なんだ。君は?」
「あ、申し遅れました。私、冒険者のソアといいます。あなた達は?」
「オレ達は……」
1級冒険者パーティ、トリニティハート。
炎、雷、氷の3属性の使い手の集まりで剣士デューク、重戦士ハルベル、魔術師サリアと全員が10代だった。
しかも同じ村の出身で幼馴染らしい。何より驚きなのは全員が魔術を使える点だ。
名前 :デューク
攻撃力:3,015+350
防御力:2,770+100
速さ :2,203+100
魔力 : 670+400
スキル:炎剣
名前 :ハルベル
攻撃力:3,150+120
防御力:3,499+200
速さ :822+100
魔力 :201
スキル:巨壁
名前 :サリア
攻撃力:3+1,500
防御力:2+1,500
速さ :2+1,200
魔力 :2,544+750
スキル:魔術威力上昇
「これはなかなか……」
剣士のデュークさんの魔力が並みの魔術師以上だし、ハルベルさんのそれも前衛職とは思えない。
魔力はエルナちゃんに教えた通り、訓練次第で伸びる。
これは間違いなく天才パーティです。
魔王がいた頃なら間違いなく討伐隊に抜擢されていたと思う。
「オレ達が歯が立たなかった化け物を一瞬で……」
この人達が弱いなんてことは絶対にない。
魔族によってはいい勝負になったはずだ。
あのカエルはこんな野生に存在していい魔族じゃないからしょうがない。
魔王軍の幹部が精鋭として従えているレベルの魔族だ。
素質も大きいけど、ここまで強くなるのは楽じゃなかったはず。というわけで話題転換!
「あなた達は討伐の為にここに?」
「オレ達が活動してる街に王国騎士がやってきてさ。王都が大変だからって応援を頼まれたんだ。まぁ招集命令だな」
「でも、向かう途中で見たことない蛙の魔物がいてね……。たぶんこの卵が孵化したんだと思う」
なるほど、それでここを見つけたんだ。
それはともかく、この気持ち悪い卵をどうにかしよう。
「雷属性低位魔術」
雷が卵に連鎖するかのように焦がしていく。
「す、すげっ!」
「同じ低位魔術とはいえ、私とは比較にならない……」
「言葉も出ないな」
点滅する強い光と共に、大量の卵がようやく死滅してくれた。
孵化した生き残りに関してはこの3人が討伐してくれたと信じたい。
本当にここを発見できてよかったよ。
放置してたら魔王の幹部が率いる軍くらいの規模にはなってたかもしれない。
あれは数が多くて大変だった……。
「王都へ急ぎましょう。今みたいな魔物の巣があったら街一つなんて簡単に滅ぼされます」
「あぁ、君がいてくれるなら頼もしいよ。それで何者なんだ?」
「急ぎましょう」
「おい!」
早歩きで先を急ぐ。
私一人の時よりも時間がかかるけど、この3人を戦力として派遣できるなら時間を差し出しても安い。
とはいえ、ペースアップはしたい。
狭い範囲だけど、空間魔術で転移できないかな。
自信はないけどやってみよう。
「なぁ、君は一体」
「空間掌握……」
「なんだって?」
私を含めて4人、やってやれない事はないはず。
空間掌握により、森の出口を確認。王都までかなりの近道だ。
「空間転移!」
その瞬間、魔力が吸い上げられる感覚を味わった。
思ったより多くの魔力をもっていかれるみたい。もう少し研究すれば解消できるんだろうけど。
* * *
「今のはどういうことだい?」
「私ね。王都の魔術学院は憧れだったけど、お金がなくて入れなかったの。ソアさんは卒業したんだよね?」
「待て、お前達。ソアさんが困ってるだろう」
重戦士のハルベルさんが質問責めを止めてくれた。
あれから質問されるたびに、でっちあげて答えてたけどそろそろ限界がきてる。
今の私は魔術学院は卒業したものの、自由に魔術を扱いたいといって旅をしてる変人設定になってた。
更には魔術の神髄を極めるべく、自分探しもやってる。
まずもって根本的な解決になってない。
「オレとそう変わらない歳なのに、あの化け物蛙を瞬殺だもんな」
「それだけ扱えるなら十分じゃない?」
「いえいえ、まだ八賢王には及びませんよ」
八賢王。それぞれ立場が違うものの、魔術師の頂点ともいえる存在だ。
そんな八賢者に私が匹敵するとか上回るなんて言われてるけど、それは黙っておこう。
さすがにそんなわけないし。
「八賢王……。最強の魔術師クロノスは未来魔術といわれている時の魔術を使うというな」
「実はソアさんも」
「あー! それよりあそこで人が襲われてます!」
墓穴を掘るとはこの事だ。だけど襲われてる人がいてよかった。
馬車に乗ったまま、リザードバトラー数匹に囲まれている。
いや、よくない! えーい!
名前 :リザードバトラー
攻撃力 :850
防御力 :529
速さ :617
魔力 :133
「空間切断!」
指をちょちょいと動かすと、数匹の魔物がバラバラになる。
固まっていた人のところへ駆け寄って怪我がないか確認した。
よく見ると女の子で、身なりからして治癒師かな。
白いローブに……あの首飾りに刻まれているのは聖女のシンボル、つまり私だ。
見ていると女の子は慌てて首飾りをローブの中に仕舞った。
「それは?」
「いえいえいえ! なーんでもありませんよ! ホンットに!」
「聖女の」
「ぜーんぜん違いますぅ! ところであなた達は?! 今のは!」
なんでこんなに必死に隠すんだろう。あ、そうか。
聖女ソアリスは今や犯罪者、そんな人間を信仰していれば周囲から変な目で見れれちゃうのかな。
悲しいけど、それならしょうがない。
今はその気持ちだけこっそり受け取っておきましょうか。
「とにかく無事みたいですね。でも護衛もつけずに無謀ですよ」
「そんなこと言ってもねぇ! 冒険者もいないし! ハンターズとかいうのは高いし! 私含めて、みーんな王都へ招集命令が出ちゃってまぁー大変なんですよ!」
「招集命令?」
「あれ、知らないんですか? というか、あなた達もそうでは?」
「あぁ、オレ達もそうだ」
トリニティハートのデュークさんが答える。
という事はやっぱり他の人達にも召集がかかっているのかな。
「冒険者どころか、武器も握った事がない一般の人間まで招集してやがる。王都以外も大変だってのによ」
「そーうそうそう! 私だって街の治癒師さんとかいって親しまれていたのに、皆が泣きながら送り出してくれたんですよ!」
「君も大変だな……。だけどオレ達が結果を出せばすぐに戦いは終わる。頑張ろうぜ」
「あ、あなたは眩しいくらい前向きですなぁ!」
デュークさんと治癒師の子との妙なやり取りを見ながら私は考えた。
王都がそれだけの事態に陥っている理由がどうしてもわからない。
少なくともカドイナの街は私が着いた時点では無事だった。自称自警団はいたけど。
なんで王都だけがそこまで集中的に?
あんなところにいた巨大蛙の魔族といい、何かが動いている気がしてならなかった。
「それよりも、こいつ……リザードの上位種だぞ」
「いきなり切れたよね? しかも空間切断とかいってた」
「お前達、気持ちはわかるが先を急ぐぞ」
ハルベルさんの言う通りだ。
今は空間魔術なんて気にしてる場合じゃない。うっかり叫んで後悔した。
この後、治癒師の女の子含めて質問責めがパワーアップして別の意味で疲れた。
いっそ聖女ソアリスだと名乗れたら楽なんだけどな。
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