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聖女、人々に活力を与える

 上空に多数浮かぶウネウネだかヨレヨレ。そして大量の蝋燭。

 あの規模の魔術を長時間、維持し続けるほどの魔力だ。超魔水(エリクサー)を加味しても、異常な規模です。

 デュークさん達の情報によるとあれは魔術師団の団長ギュリオン。隣国の魔術師団の存在は知っていたけど、この名前は聞いた事がない。


名前 :ギュリオン

攻撃力:5

防御力:5

速さ :5

魔力 :24,572+10,000

スキル:『血の制約』 魔力身体強化を行わない場合、魔力が増加する。


「魔力三万超えかー」

「ソアよ、あれはどういう魔術だ?」


 さすがの元魔王も、見ただけで魔術の正体は掴めない。

 確かにあれだけ見ると不気味だし、蝋燭なのは本人の趣味の可能性が高かった。

 せっかく中指を立てて挑発したのに一向に攻めてこない。いや、攻めてこれだった。


「そんなにウネウネを増やしても無駄ですよ。視線を導線にした魔力干渉の応用ですけど、そのタイプは魔物にもいます」

「なるほど、生物を石化させるバジリスクのようなものか」


 よく視線を感じるだなんていうけど、あれは無意識のうちに魔力を感じ取っているからだ。

 魔力はエルナちゃんのお母さんみたいに、時には悪影響を及ぼす。あのギュリオンはその性質を利用して、見た側の魔力をかき乱していた。

 気づかないうちに悪性になった魔力にやられて最悪、死に至る。ある程度の実力ある魔術師なら気づけばなんて事はない。

 現に一早くサリアさんが気づいて、皆に注意喚起したらしい。

 だけど逆に言えば一定以下の魔術師や非魔術師を一網打尽に出来る恐ろしい魔術でもあった。


「あの蝋燭は防衛部隊や街の人達、動物の精神状態を具現化したものです」

「動物もか?」

「一定範囲にいる生物の精神を見境なく具現化してます。正確には細かく選択できませんし、そこに割く労力も無駄なんでしょう」

「なるほど。異様に小さな蝋燭があるのはそのせいか」


 見れば見るほど陰湿な魔術だ。初めて拝めた魔術真解としては歓迎したくない。

 私の闇属性高位魔術(マジックハック)闇属性高位魔術(マリオネイト)なんてかわいいものだった。

 ああいう底意地の悪さが私に足りてないのかも。


「具現化された蝋燭は対象の精神状態とリンクしているので、心が弱れば蝋燭の火が消えたり短くなります。そして意識が途絶えて最悪、死に至るんです」

「見たところ、吹き消したり出来ないようだな。出来ればとっくにやっているだろう」

「そうですね。私ならそんな風に改良しますけど」

「ん?」


 変な事でも言ったかな?

 種明かしをしたところで、大量のウネウネが消えていく。諦めてくれたらいいんだけど、そうじゃない。

 ウネウネの一つが一人の魔術師へと姿を変えていく。現れたのはウネウネした前髪で目を覆っている陰湿そうな男だった。そいつが相変わらず空中で停止している。


「ワ、ワタシの魔術真解を、よ、よくも愚弄したな……!」

「闇や呪いといった魔術を専門として研究しているのは第四魔術師団……。前任の団長はどうされましたか?」

「前任……。あ、あいつは魔術改革とかほざいて! これからは人を傷つける魔術じゃダメだとか抜かして……ヒヒヒヒッ!」

「ちょっと何ですか」

「の、呪ってやった……。ワタシを、あ、甘く見るからだ……。気づきもしないで、わ、ワタシにすべてを託すとか何とか……」


 面識はないけど闇というイメージに反して、前任の団長の名前はいい意味で知っていた。

 私が封印されなければ、会う日が来たかもしれない。それをこのギュリオンは。


「最後に口から血を垂れ流して死んだ……! 大笑いだ! 全員で……笑って……ヒヒッ! ヒヒヒィヒヒィヒヒッ!」

「そうですか……」

「ワタシの、ち、力が、あのジジイを上回った! ワタシの魔術こそが、や、闇の魔術……! 自分も救えないのに、ワタシにケチをつけて! ヒヒヒッ!」


 拳を握って、建物の下にいる人達を見た。見上げるカドイナの街の人々の顔に笑顔なんてない。


「王だって! ワタシを、み、認めた! 他の人間と違って、み、見込みがあるって!」

「安いプライドを優先して、あるべきだった人を殺す。魔族の口車に乗せられる。魔術は好きですが、誰も彼も平等に与えられるのはよくありませんね」

「何だとっ! 大した魔術も使えないくせに、しゃ、しゃしゃり出てきやがって! 空中に浮く事もできないのは、わ、わかってる!」

「では私があなたをわかりやすく上回りましょう」

「つ、強がるなよ! これでどうだ! ヒヒヒィヒッ!」


 ギュリオンがまた大量のウネウネを出現させて本人も雲隠れした。

 私の予想だけど、前任が殺されたのは後任のギュリオンを最後まで信じていたからだ。

 上回ったなんて、勘違いも甚だしい。私の空間隔離にすら気づかず、ウネウネの練度も甘い。


「魔力は相手によって違います。視線を導線にするまではいいですが、見境なく注ぐのは感心しません。だから効果に個人差が出るんですよ。そしてそのウネウネも同じです」


 しゃがんでからの大ジャンプ。他の魔術なんて使わない。わかりやすくないと、皆が理解できないからだ。


「そこです! ソアッパーッ!」

「うごッ!」


 顎に当てたところで脳震盪を起こしたみたいで、ギュリオンは気絶した。

 頭隠して尻隠さず。やるなら魔力も隠さないと。でもこれで終わるわけない。


「下で見ている皆さんにもわかりやすく! そしてあなたを使って希望を与えます!」


 空中でまた腕に力を入れてからの――


「ソアリアットォ!」


 腕を振ってギュリオンを地上に叩き落した。

 ギリギリ死なないように魔力強化で保護してあげたから大丈夫。まったく世話が焼ける。

 おかげで落ちても、ギュリオンはまだ生きていて痙攣していた。


「こんな時の為に魔力強化をしておくべきですし、そうでなければ対策すべきなんですよ」


 そしてギュリオンを囲んで驚く皆のところに着地した。

 呪い殺したとかいうポリシーがあるだけあって、直接戦闘の手段はほとんどなかったみたい。

 会った事がないけど前任の団長ならこうはならなかったんじゃないかな。

 ギュリオンの意識が途絶えた事により、上空の蝋燭が消えていく。


「た、倒した……?」

「ソアさんが勝った!」

「皆さん。そこの魔術師が蝋燭の主です。気絶してますし私が見てますから、好きにしていいですよ」


 唖然とする皆だったけど、ギュリオンが敵だとわかると次第に怒りを再発させた。


「こいつが敵か……!」

「そうです。怒りを忘れないで下さい。そしてぶつけて下さい」

「こいつめぇ!」

「ぐほっ! や、やめ……うげぇッ!」


 始まった集団リンチ。ボロ雑巾みたいになっていくギュリオン。

 手を伸ばして何か私に懇願していたみたいだけど、何も聞こえなかった。

 人の話を聞く大切さだって前任の団長が教えたはずだ。聞いてもらえない苦しみを知ったところでもう遅い。


「ゆ、ゆ、るし……」

「よくもオレ達の街を!」

「ひぃ……! ぐあぁっ!」


 伸ばした手すらも踏まれて、何一つ主張は許されなかった。その手で掴めるものなんて何もない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ソアも技のネーミングセンスはマオとどっこいどっこいよなあ
[一言] たまには本業の魔法つかって倒さないと、 聖女と区別されてソアは聖拳と呼ばれそうw
[良い点] > 「ソアリアットォ!」 このときソアさんの左腕に巻いてるサポーターをずりあげてるんですよね。 できれば「いなづまっ」って叫んでから相手の喉元を飛び上段蹴りでふっとばす稲妻レッグソアリアッ…
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