ひさかたの
65話目の続きです
お父様のススメでやってきましたフルール王国、王都ロージア。
前世じゃないから飛行機でひとっ飛び! というわけにはいかず、地道に馬車の旅。まあ、これはこれで風情あっていいんじゃないでしょうか。
「来たのはいいけど、見所はどこなのかしら?」
「そうだね。義父上は『綺麗ないいところだよ』とは言ってたけど、具体的な場所までは言及してなかったからなぁ」
「観光の定番としては神社仏閣、お城とか、そんなもんでしょ」
「それどこのジャポネスク」
「お父様の滞在してたという王宮でも見に行く?」
「それはいいね。ベルサイユみたいなのかな? ノイツヴァンシュタインみたいなのかな」
「わぁ、どっちだろ? 楽しみ〜! で、あとは?」
「う〜ん……」
ロージアの町中の公園で、とりあえず観光計画を立てようと試みたけど資料がないから全然話が進みません。
「る◯ぶとかあればいいのにな」
「私は◯とりっぷ派」
「こうなってみるとスマホのありがたみをひしひし感じる」
「わかる〜」
ここまで歩いてきた街並みはすごく素敵でした。石造りの建物が立ち並ぶ、まるでヨーロッパの街並みのようです(前世の記憶)。
「とりあえず王宮見学に行こうか」
「見学っていっても外からだけどね〜」
「王宮で、門番とかにいい観光名所とか聞いてみようか」
「いいね、それ」
とりあえず持ってきたロージアの市街地図を取り出し、私たちは王宮へと向かいました。
公園を出ると、すぐ前を若いカップルが歩いていました。
私たちみたいに町をぶらぶらと散歩してる感じの軽装。私たちと同じ方向に歩いていくので自然と後ろをついていく形になっていましたが、時折聞こえる二人の会話。
「今日はどこ行こうか。ダンデライオンのパン屋? それともレモンマートルの菓子屋?」
「ん〜」
「静かにお茶を飲みたいなら、ロータス御用達の裏路地カフェかな」
「ん〜」
「ヴィー?」
「どれも魅力的で決めかねてます」
「全部行くのもアリだよ」
「絶対食べきれないから無理です」
「僕がいるから大丈夫。ヴィーは好きなものを食べたらいいよ。せっかく久しぶりのデートなんだし」
「わぁい!」
出るわ出るわ、いい感じの店の名前!
パン屋さん、お菓子屋さん、裏路地カフェ! ……ロータスって誰か知らんけど。
「ねえ、トロワ、聞こえた? さっきの、有名なお店っぽくない?」
「わざわざ名前が出るくらいだから、美味しい店なんだろう」
「行ってみたいけど、場所わかんないし。このままこの二人を尾行するにもその店にたどり着くかは保証ないし……」
「リヨン?」
う〜ん、と唸って考える私。
覗き込むトロワ。
旅の恥はかき捨て。当たって砕けろ、だ!
旅先って、ちょっと大胆になれるよね。旅行テンション?
「よし。声をかけよう」
「はぁ?」
「直接店を聞き出そう!」
「え? リヨン!? マジで!?」
いきなり声をかけると言い出した私にトロワは焦ってるけど、別に場所を聞くくらいいいでしょう。ナンパするわけじゃあるまいし(逆ナンか)。
私は小走りに二人に近付きました。
「あの〜」
「「はい?」」
私の声に応えて振り向いてくれた二人は……なんという美男美女!!
あまりの顔面偏差値に目がくらみそうです。
目が、目がぁ〜とか言ってる場合じゃない。
「こちらに旅行できている者なのですが、どこに行ったらいいかさっぱりわからなくて」
「はあ」
いきなり声をかけたから、かわいい女の人はキョトンとしています。
「いい場所を知らなくて困っていたら、前を行く貴方がたの会話が聞こえてきて……あっ、盗み聞きしてたとかじゃないんですよ? 聞こえてきただけで」
べ、別に聞こうと思って聞いてたんじゃないんです!
そこんところを慌ててフォローしたら、
「大丈夫ですよ〜」
と言って微笑んでくれました。笑った顔が可愛くて天使! なのに横の美形さんはなんか御機嫌斜めそうなんだけど?
「……それで、ぜひそのお店を教えていただけたらと思いまして、声をかけたんです。不躾ですみません」
いきなり声をかけて失礼しました! ですがぜひそのお店の情報だけは何卒〜!
私がぺこりと頭を下げると、
「私たちもそちらに行きますから、一緒に行きましょう! ねえ、サーシス様、いいでしょう?」
「……ああ」
ストロベリーブロンドがキュートなかわいい彼女さんは案内を快く引き受けてくれたけど、彼氏さんには……警戒されてるようです。超美形だけどその濃茶の目が笑ってない。
「ここの生菓子が美味しいんですよ〜」
「ほんとですね! 美味しい」
「でしょう? そちらの国にはないんですか?」
「ありますよ。似た感じかな。フランス菓子っぽいのがメインです」
「ふらんす?」
「おほほほ〜。ここにはない国ですね」
「そうなんですね!」
私たちがケーキと紅茶の話で盛り上がっている横では、
「ああ、では先日うちの義父が商談に上がらせていただいたのは貴方のところでしたか」
「まさかあの商人の娘夫婦とは……」
「いやぁ、あのサファイアは素晴らしかった」
「だろう!『ヴィオラ』という名に恥じない美しさなんだ」
男性陣は宝石の話をしています。そうか、お父様が会ったのはこの人だったのね。
最初は私たちを警戒してか、あまり愛想良くなかった美形さん。でもトロワがサファイアの話をしてからは態度急変。あっという間に打ち解けてしまいました。
美形さん、彼女さん好きすぎるでしょ。
「ぎゃ〜〜〜! サーシス様! またそんな寝言おっしゃる」
「え〜? 寝言じゃないし? 事実だよ」
私と話していた彼女さんが真っ赤になって彼氏さんに猛抗議をしているけど……かわいいだけですね。
「『ヴィオラ』というのは?」
「ああ、私の妻、この人の名前ですよ」
「ハジメマシテ、ヴィオラデス……」
「「ああ〜!」」
言われてまじまじとその瞳をみれば、確かにあのサファイアと同じ色です。
そしてこの美男美女は〝カレカノ〟ではなく〝夫婦〟、しかもこの国の『公爵様』だったんですね!!
……こんな軽装でウロウロしてて大丈夫なんですかね? まあ、うちの旦那さんも人のこと言えないけど。
書籍発売記念リクエストより。
リヨンちゃん、ロージアでとある公爵夫妻に出会う、でした。
ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ




