魔法使いのおばあさん?
本編41話目前後の裏話。魔女さんはかく語りき。
この国の王子が『お妃選びの舞踏会』を開くらしい。
最有力候補だったヴィルールバンヌとメリニャックの両侯爵令嬢が、身内の不祥事で表舞台から消えたせいだけど。
別に舞踏会開かなくてもよくない? 時間もお金も無駄な気がする。
「って、私には関係ない話だけどね〜」
……と部外者を決め込んでいたのに、なぜか私は王子から呼び出された。ったく、今日は非番だっていうのに。この舞踏会にはノータッチのはずなのに。
せっかく家でゴロゴロしようと思ってたのがパァじゃない。王子のお妃が誰に決まろうと、私には関係ないっての。
今日の舞踏会だって、他の魔法使いや魔女たちの仕事のはず。なんで私が呼び出されるのよ。これはがっつり代休申請してやるからね。
「参上しました」
「入れ」
静かに王子の執務室に入ると、そこには王子、ショーレ様、アミアン王女が並んでいた。この取り合わせはなんなんでしょうか?
「今日はどういうご用件かしら? 私、今日は非番なんですけど」
「あ〜悪い悪い」
「その棒読み、全然悪いとか思ってませんよね」
「そうだな。今日はお前に折り入って仕事を頼みたくて呼んだ」
「……なんでしょう?」
「今夜の舞踏会に来れない姫君が一人いてね」
「じゃあ欠席ということで」
「それじゃダメなんだよ!! ……こほん、取り乱した。むしろその姫君が今日の本命なんだ」
「じゃあお妃選びの舞踏会なんてカネも時間もかかったまどろっこしいことしないで、その子一人呼び出したらいいじゃないですか」
多分正論。その証拠に王子がぐっと押し黙った。
「マダム。それができたら苦労しません」
「なんでよ!?」
ショーレ様が可哀想な子を見る目で王子を見ている。当の王子は……なんか苦々しい顔してる。
よほどその姫君がお気に召してるのね。
でもこの顔よし、地位あり、金ありの王子に口説かれて落ちない女の子なんているのかしら。あ、性格に難あるか。
「こほん——」
また一つ咳払いした王子が口を開いた。
「——とにかく、その姫君は家で魔法使いの登場を待ってる」
「はあ? なぜ姫君は自力で舞踏会にこないんですか? なぜ魔法使いの登場を待ってるんですか?」
「諸般の事情により、だ」
「まとめないでくださいよ!」
「とにかく、そこでお前は彼女を着飾らせ、城まで連れてきてほしいんだ」
「人の話は無視か〜い! もういいわ……で、その、ドレスや飾りはどうするんですか。私、魔法でそんなもの出せませんよ」
私の使える魔法は『変質』。“ある”ものを変質させるのだ。
例えば、虚空から宝石は出せないけど、赤色の宝石を青色に変えるのはできる。
だから私の普段の仕事は、大雑把にいうと汚れた水を浄水するのがメイン。複雑な仕組みがあるけど、今は割愛。浄水の、大事な部分を担ってるとだけ言っておくわ。
だから、ドレス出せって言われても困るのよね。
どうするのかと見ていると、アミアン王女が箱を持ってきた。
「この中にドレスが入っています。首飾りなんかも一式入ってます。きっとリヨン様もお気に召すと思いますわ!」
そう言って蓋をあけると、中には見事なシルクタフタのドレスが入っていた。
「それを姫君に着せて城に連れてくるだけの簡単な仕事だ」
「じゃあ王子……いや、ショーレ様がやればいいんじゃないですか?」
王子がやれば……と言いかけたけど、王子は舞踏会の主役だから、遅刻もばっくれも許されないのを思い出した。
「ショーレは忙しいからな! それにこういう仕事は女性の方が怪しまれなくて済むだろ」
じゃあ王宮女官の誰かを……以下略。
「怪しまれるような仕事したくないで〜す」
面倒な感じがしたのでお断りを入れ、部屋を出て行こうとしたら、
「——成功報酬は何がいいんだ」
王子の目がキランと光った。
あらやだ、今日はやけに必死なのね。代休申請と思ってたけど、もうちょっと欲張らせてもらいましょうか。
「有給休暇を一週間」
「よし、わかった」
「え? 即答? まあいいか。商談成立!」
休みももぎ取ったし、仕方ない。仕事してきますか。
………って諦めつけてやってきたのに、肝心の姫君ときたら、爆睡してるわ行くの嫌だと駄々こねるわ、聞いてた話と随分違うんですけど?!
「あなたと一緒にお城に行くだけの簡単な仕事(意訳)って聞いてきたんだけど」
「誰がそんなこと言ったんですか」
なかなかに強情な姫君! って、王子は姫君って言ってたけどこの娘、継ぎ接ぎだらけのボロワンピに、よれよれの靴。
どう見てもこのなり、姫じゃなくて召使じゃない?
まあ強いて言えば、召使じゃないなと思わしめるのは、その怜悧な瞳の光。この子、結構賢いと思う。
話してみるとただの召使いっぽくないし……何か訳ありなのかしら。
あの王子がお気に召してる子だから、普通じゃないのは確かだわね。
しかしなんでこんなに舞踏会に行くのを嫌がるのかしら。これくらいの年頃の娘なら、喜んで参加してるっていうのに。
じっと顔を見ても、こちらを睨み返すばかりで何もわからない。
嫌がってるのを無理に連れていくのは気が進まないけど、珍しくあの王子がご執心だしなぁ。
でもこの頑なな子をどうやって連れて行こう。こんなに抵抗してくるなんて聞いてないわよ(二度目)。あのクソ王子、話をずいぶん端折ったわね。
でも、命令は命令。
仕方ない。
「あなたを連れて行かないと王子に干されちゃう(意訳)」
泣き落とし作戦は、どうやら成功したみたい。あんなに頑なだった『姫君』の態度が揺らいできた。
これは攻め時ね。
一筋縄では行かないと思っていた姫君の、意外に優しい面を攻略して、なんとかお城に連れていくことに成功した。
会場にも潜りこませ……じゃないな、送り届けてミッション完了!
さあて。私は予定よりずいぶん遅くなったけど、ゴロゴロさせてもらいましょうか。




