男三人はかく語りき
とある酒場で、スダンとジヴェ、ヴージエが酒を飲んでいる。
話題は一つ。リヨンのこと。
その新しい使用人が初めて姿を現した時、市場は騒然とした。
「初めて見た時、めっちゃびっくりした」
「顔だけならどこぞのお嬢様と言われても納得したよな」
「ああ。あんな可愛い子、初めて見た」
「くたびれたワンピースにエプロン姿だったから〝使用人〟だってかろうじてわかったけど」
「それにしてもオーラのある使用人だけど」
「確かに」
突如現れた美少女は『フォルカルキエ子爵家の新しい使用人・リヨン』と名乗り、あっという間に若い男たちの注目の的になった。
「フォルカルキエ家……いや、リヨンの御用達になろうと、みんな必死になったなぁ」
「空前絶後のダンピング大会になったね」
市場にはいろんな店がある。肉屋だって一軒だけではない。
数ある店のうちから自分の店を選んでもらおう……リヨンとお近付きになろうと、みんなあの手この手で勧誘した。値引きしかり、おまけしかり、味見しかり……。
そのうちに体力のない店がどんどん脱落していき、最終的に肉はスダン・果物はジヴェ・野菜はヴージエの店がリヨン御用達の店になった。——が、リヨンは何も知らない。
御用達争奪戦が落ち着いた頃には、しれっとまた以前と同じくらいの物価に戻っていたが。
「おれ……リヨンと上手くいってると思ってたのにな」
「それはこっちのセリフだよ。甘くて美味しい果物を食べてる時のリヨンの顔は僕のもの——」
「うっとり夢見顔になるな変態。リヨンの血色のいい頬は俺んちの肉のおかげだ」
「いやいや。いつもリヨンが健康でいられるのはウチの野菜のおかげだ」
「「「なんだと〜」」」
ギリギリとにらみ合う三人。
とにかく、この三人は『抜け駆けはなし』という紳士協定の下に、せっせとアピールしまくったのだ。
そして団子状態のまま、どうやってリヨンの中の好感度を上げようか、頭一つ抜け出そうかと考えていた矢先——あの男が現れた。
「いきなり現れて。なんなんだ、あいつは」
「掻っ攫われたって感じ半端ない」
「リヨンもまんざらじゃなさそうだったし」
「手ぇつないで歩いてるよな。羨ましい」
「こんなことになるなら紳士協定なんて真面目に守らなかったのに〜」
「「おいジヴェ、てめぇ」」
いつの間にか現れた、酒屋の息子トロワ。彼が〝みんなの〟リヨンを独り占めし始めたのだ。
「リヨンには優しそうな顔向けてよ」
「そうそう! ちょっとヘタレっぽい感じのね」
「でもって、リヨンが見てない隙に俺たちのこと睨んで牽制」
「ある時は笑顔で牽制」
「「「あいつ、牽制しかしてねーな」」」
「俺たちだってリヨンの護衛したかったよ」
「荷物だって、リヨンが遠慮するから、気持ちの負担にならないようにって、時間ずらして持って行ってたのに」
「なのにあいつは、堂々とリヨンをお屋敷まで送って行ってさ」
「なんなの? あいつヒョロイじゃん」
「俺の方がいい体してるぞ」
「あいつにリヨンは守れないだろ」
「てか、あいつ、ほんとに酒運べるのか?」
「持ち上げられないとか言わないよね?」
「まさか! ははは!」
すらりとした体型のトロワは、力仕事の多い市場においては珍しい。ジヴェも細くて華奢な方だが、スダンとヴージエは背もあるしがっしりしている。
「でもさ、トロワって、あんなモサイ見た目だけど、俺たちを見てくる時ってなんか……こう……すごみ、ない?」
「あ〜わかる。リヨンに向かってはニコニコしてるくせに、リヨン越しにこっち見てくる目とか、めっちゃ冷たい」
「あの鬱陶しい前髪の奥からこっち見るの、一見穏やかそうだけど目が笑ってないんだよなぁ」
「氷みたいだよね」
「『リヨンに近寄るな』って、すげー伝わってくるし」
「隠そうともしない」
「店の前通り過ぎる時、絶対僕らの方見てくるよね。あの不敵な笑いが怖いよ」
リヨンと仲良く話しつつ、店先にいるスダンたちに視線を向けては一瞬微笑んでいくトロワ。しかしその冷たい視線に背筋を凍らせる男たち。
三人はトロワの氷の視線を思い出して身震いした。
「あいつほんとなんなの」
「得体が知れないっていうか、俺たちとも全然交流しねーし」
「誰ともつるんでるところ見たことないね。あ〜あ、僕も、リヨンがいるならボッチでもいいな〜」
「「ジヴェ、てめぇ」」
だいたいトロワを見かけるのはリヨンが市場にいる時。それ以外ではほとんど姿を見かけないのだ。
スダンたちは、暇な時間などは適当に友達(知り合い)としゃべったりしているものだが、トロワに関してはそんな姿も見られない。
「つるんでるっていうと、トロワって、よく騎士連中と一緒にいない?」
「あ〜それな。俺も思った」
「居酒屋の常連だろ?」
「ん〜、でも、知り合いには違いないよね」
「「確かに」」
「あいつに何かあったら騎士が出てくるのかな」
「バックに騎士がついてるとか……」
「やな感じだな」
いきなり現れてリヨンを独り占めし(おまけに牽制までして)、バックには騎士がついている。市場でもあまり見かけなくて、友達もいないボッチ。
「考えれば考えるほどトロワってよくわからない奴だね」
「ああ」
「まったくだ」
「「「とにかく『なんか嫌な奴』ということだけはわかった」」」
三人の中でそうまとまってからしばらく後。リヨンとトロワが結婚したとの情報が市場を駆け巡り、男たちは——やけ酒を飲むのだった。




