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ロイヤルウェディングはお断り……なんだけど

 王子様に思いの丈を述べさせていただきました。

 それはもう、はっきりと。

 はっきり言い過ぎたからか、部屋がしん……と静まりかえってしまいました。

 こういう空気も嫌だし、本音もお伝えしたことだし、もうこれ以上ここに用はありません。

「お父様、そろそろ失礼いたしましょう」

「あ、ああ……」

 お父様を促して家に帰ろうとベッドを降りた時でした。


「……そんなことで諦められるか……」


 ボソッと王子様がつぶやきました。ん? なんですか? 小さすぎてよく聞こえなかったんですけど?

「あの……何かおっしゃいましたか?」

「そんなことで諦められるかって言ったんだ」

「はぁ?!」

 さっきまでの丁寧かつ優しげな(胡散臭いけど)王子様の口調ではなく、砕けた、庶民的な言葉遣いになってますけど……どうしました!?


「身分違い? そんなものとやかく言うような者はもういないぞ。旧態依然とした貴族どもはとっくに排除したから」


 私が王子様の急なキャラ変に面食らっていると、王子様は勢いを取り戻し、反撃に出てきました。

「あっ……」

 先日大騒ぎした反王家一派の粛清! あれで私利私欲にまみれ、自分の娘をお妃に、そして王位を我が物に(いわゆる外戚政治ってやつね!)……と企んでいた人たちは一掃されてしまいました。

 今この国の政治に関わっているのは、柔軟な考えの、王家だけでなく国そのものの未来を考えられる人たちばかりだ……。

 冷や汗が一筋、背中を流れていきました。

「それに妃の実家の財産や地位など必要ない。国庫は潤っているし、後ろ盾が必要なほど僕も王家も危うくないからな」

「ぐぅ……」

 反対勢力がいなくなったことで、王家の威信は高まりましたからね!

 あれあれ。王子様と私、形勢が逆転しつつないか、これ?

「美しい女に言い寄られるって? リヨンの他にいい女などいるわけないだろう」

「それは異議ありです! 国内だけじゃありません。豊かな我が国を狙って、よその国が政略結婚を申し込んでくることもあります。そうなると断れないでしょう?」

 美女は国内だけじゃないんですよ! 外交絡んできたらさすがの王子様でも断りきれないでしょう。

「そんなもの断ればいい! 我が国は一夫一妻制だとかなんとか言えばいいし」

 なのに王子様、全然ブレません。

「嘘つきですね!」

「じゃあリヨンは側室をとってもいいと言うのか?」

「いやいや、そもそも正室になる気もさらさらありませんからどうぞご自由に!」

「……ったく、ああ言えばこう言う」

「おまいう!」

 私のお断りの口上に一つ一つ反撃してきたのは貴方でしょうがっ!

 

 てゆーか、なんでこんなに諦め悪いんでしょうかこの人は。


 そんなに私に執着する意味、わかんないんですけど。

「私は候補だったお嬢様たちとは違い、小さい頃からお妃教育を受けてきたわけではありませんから、いきなり王家に嫁に来いと言われても気持ちも頭もついていかないんです! せいぜい失敗ばかりして笑われるのが関の山です」

「そんなもの、今からゆっくりやれば……」

「やる気もありませんて!」

 何回言わせればいんだか。もういい加減うんざりしてきました。

 お妃教育も受ける気すらありませんとお伝えしましたし、もういいですよね?

「……ということで他をあたってください。王子様ほど素敵な方でしたら、いくらでもお妃様になりたい方はいらっしゃいますわ」

 そりゃあもう、掃いて捨てるほどにね!

 それに先日の舞踏会でお妃候補を庶民にまで門戸を広げましたし。この国は広いんです。きっとすんばらしいポテンシャルを秘めた王子様好みの娘さんの一人や二人、すぐに見つかりますって。

 なのに王子様は。


「やっと巡り合えたんだ、そんなことで諦められるわけがないだろ」


 なんて運命論者。てゆーかまだ諦めないんだ。

 まあ確かに王子様と私が出会うのは運命(物語)っちゃ運命ですけど。

 でも『巡り合えた』なんて、そんな言い回しをしなくても。

「はい? 巡り会うも何も、もう何年も前から私の存在を知ってましたよね?」

 私が七歳の時から、いちおうご存知でしたよね? 毎年欠かさず誕プレ差し上げてましたよ。

 じっと私を見る水色の瞳。あまりにまっすぐなのでこちらも目を逸らさず見返していると。


「そうじゃない。——梨世」

「梨世!?」


 王子様、今『梨世』って言いました!?




「ちょ、ちょと王子様! 今なんて……」


 王子様の口から飛び出た『梨世』って言葉。……きっと聞き間違い、空耳ですよね?

 なのに。


「梨世って言った。やっと巡り合えたんだ、そんなしょーもないことでお前を諦められるわけないだろ。梨世がなんと言おうと、僕は梨世を妃にしたい。今の僕はお前を守るための力も持ってる。お前を脅かすだろう存在も綺麗に排除したし」


 聞き違いじゃなかったようです。

 王子様はしっかりはっきりと『梨世』って言いました。


 私が『梨世』の生まれ変わり(?)だと知ってる人って……他にも前世から転生してきた人いたんだ……じゃなくて。

 貴方、誰ですか?


「私はリヨンですよ? 『梨世』って誰ですか?」

「とぼけるな。姿形は変わっても僕にはわかる」

「え〜と、王子様はスピリチュアル的な何かがお好きなのでしょうか?」

「ちっがうわ! ……お前ねぇ、仮にも前世の彼氏だった僕のこと、そんなあっさり忘れるのかよ」

 なんか呆れのため息つかれてますけど……って、彼氏? 前世の?


 それ、私の地雷ですけど?


 ますます眉間に皺が寄りますよ。

「……ハイスペックイケメンがトラウマ級に嫌いになった原因なんて忘れました」

 じとんと王子様を睨むと、

「覚えてるんだろが!」

 即ツッコミが返ってきました。

「なんなんですか! そんなトラウマ植えつけたやつのことなんてさっさと忘れたいでしょう? ましてや前世の私の死因ですし」

 だから今生は分相応な人と分相応な幸せをと願ったんです、何が悪い。

「そう——僕のせいで梨世は死んだ。僕がどれだけ落ち込んだかわからないだろう」

「はい、わかりません」

 寂しそうな顔になる王子様ですが、わかるわけないでしょう。だって私、死んじゃってたんですから。


 てゆーか『僕が原因』って……貴方、まさか、千夜ですか?


「……まさか、王子様……千夜、ですか?」

「ああ、そうだ」

「マジか!」


 なんということでしょう。


 王子様が、千夜、ですって〜〜〜!?




 驚きすぎて口をパクパクさせていると、

「ようやくわかったか。梨世、お前鈍すぎるぞ」

 恨めしそうに王子様が睨んできました。

「鈍いも何も、思い出したくもないって言ってるでしょ」

「まあそれは僕が原因だけど」

「そうよ」

 そもそも王子様はショーレでもありトロワでもあった人だけど、お城だし、正体が王子様とわかってからは極力丁寧な口調で話してました。でも、千夜だとわかった途端に何もかもがぶっ飛んで完全にタメ口になってしまったけど仕方ないですよね。千夜に丁寧語はもったいないもん。

「梨世にもう一度会いたくて必死に願ったんだ。もう一度同じ時に生まれ変われますようにって」

「時空を超えたストーカー発言! って、私は会いたくなかったんだけど」

「ひどい言われようだけど……仕方ないか。あの時も聞いてくれなかったけど、ほんとにあれは誤解なんだってば」

「はいはい」

 時代(次元?)を超えてまた言い訳の続きですか。

 うんざりしておざなりに返事してたら、グイッと顎を掴まれて正対させられました。ちょ、口がタコチューになってるからやめてよっ!

「梨世! ちゃんと聞いて!」

「抱きつかれてたでしょう! あれは現行犯でしょーが」

「だから、断ったんだって。抱きつかれたのは不意で、不可抗力だって」

「はいはい」


 前世と今生、時代を超えた喧嘩とか、壮大すぎてびっくりしちゃうわ。




「信じてもらえないならもうそれでいい。大事なのはこれから先、未来のことだしな」

「まあ、確かに」

 前世のこと思い出しては凹むのも精神衛生上よろしくないし、何より今生が楽しくないもんね。そこは千夜の言うことに賛成です。

「とにかく僕は、これからも梨世と一緒にいたい。ということは、僕が今しないといけないことは、梨世の信頼を取り戻すこと」

「はあ……まあ……。あのさ、千夜。私、『お妃様にはならない』って何回も言ってるんだけど、聞こえてないのかな?」

「いや、聞こえてるよ」

「それはよかった。じゃあ、この話はなかったことに……」

 よかった。ちゃんと話が通じたと思って安心したのに。

 

「梨世が好きなのはトロワだよね? トロワみたいな普通の……むしろ目立たない男がいいって言うなら、僕はこの先ずっとトロワとして生きていこう。そしたら梨世は一緒にいてくれる?」


 王子様、トロワに転生!? ——違くて。

 なんてこと言い出すんですか! 

「いやいや待って千夜。今の貴方は一国の王子様よ? 次期王様よ? そんなVIPがイチ庶民になるなんてできっこないでしょう? 貴方の他に誰が王位を継ぐのよ」

 私を選ぶために王位を捨てるなんてことしちゃダメです!

 私が本気で諭してるというのに、

「大丈夫だ。梨世は心配しなくても。梨世の気持ち一つで大丈夫だから」

「何が大丈夫か全然わからんわ!」

 私のせいで後継ぎいなくなったとか言われたらこの国にいられないでしょ! 何言い出すんだこのバカ王子は。

 私が王子様の言い分にキレそうになった時でした。


「わたくしが後を継ぎますから、リヨン様はご安心くださいませ」


 かわいらしい鈴を転がしたような声が響きました。

 それは——王女様。

「はい?」

「お義姉ねえ様、ご心配なさらないでくださいませ。次期王位はわたくしが継ぎますわ」

「『お義姉様』言うな〜〜〜っ! ——じゃなくて。王女様が? ええっ!?」

「はい。わたくしはそのつもりで、これまでお兄様のサポートをしてまいりましたの。お兄様が街に出て留守の間、わたくしが代わりに仕事をしてましたのよ?」

「午前中に終わらせてたっていうのは……」

「もちろん大半は終わらせていかれてましたわ。それでも後から出てくる案件などもございましたから、それをわたくしが代行していたということです」

「残業してたって……」


「そんなわたくし仕事のできない女じゃございませんわ! ——前世と違って」


「はい?」

 また聞き捨てならならないワードが出てきましたよっ!

 王女様まで前世?

 私がぽかんとしていると、


「わたくし、前世では梨世さんの後輩だったじゃないですか。そして梨世さんの彼氏の浮気相手——」

「ああああ〜〜〜!!」


 お ま え も 転 生 し て た の か ー っ!!


 ますますここから逃げ出したい!

 今までキラキラかわいらしいだけだった王女様が、一気に人間くさく感じました。まさかあの子も転生してたなんて!

 私の顔色が変わったのを見た王女様は慌てて言いました。

「——ではないんですよ! あの時私は千夜さんにきっぱりとフラれましたし! それに、梨世さんが亡くなられた後、千夜さんは本当に落ち込みがひどくて……一生独身だったことに、梨世さんへの想いが現れていると思います!」

「そんなの知らないし!」

 千夜、独身のままだったんだ……。

 時を超えて知った事実に呆然としながら王子様を見ると、照れくさそうに頬をかいてるし。まあ『生涯独身』暴露されちゃったもんね……。

「梨世さんの死因はわたくしです。わたくしのせいで梨世さんも千夜さんも不幸にしてしまって……。わたくしはそれがどうしても気がかりで、死んでも死にきれなかったんです。ですから次に生まれ変われたら梨世さんの幸せのために全力を尽くそうと決心したんです。今生のわたくしは、梨世さんの幸せのために存在してるのです」

 次元を超えたストーカー二人目……。なんということでしょう。

「幸せにするベクトル間違ってるからね?!」

「いいえ、間違っていませんわ。梨世さんはトロワのことが気になってるんでしょう?」

「おっ……うぇ?!」

「お兄様がトロワとして生きていけば、お兄様も幸せ、梨世さんも幸せ、わたくしも幸せ、で万々歳じゃございません?」

「おっ……おぅ?! ……まあ、そう、ですけど」


 確かに、私はハイスペックイケメンの王子様とは結婚する気はありません。地位あり財産あり顔良し、だけど性格に難あり(作り込まれたキャラらしいけど)。

 そしてトロワは対照的。もっさり、平凡、だけど、優しい。

 そんなトロワだから恋をした。

 そして一緒に過ごしてきたトロワは、王子様の素の一面であって、偽ったものじゃないって言ってた。


 王子様が真っ直ぐ私を見ています。

 王女様の必死感も、嘘を言ってる感じはしませんし。

 すっかり存在が消えてしまっていた、この部屋にいる人たちも、私を騙してる気はしません。


 信じていいの、かな?


 トロワとしてなら……王子様も受け入れられる……かな?


「ね、梨世の気持ちひとつだって言っただろう?」

「まさかこんなカラクリあったとは……って、でもでも、全面的に千夜を許したわけじゃないんだからね」

「そりゃそうでしょ。信頼回復は焦らずゆっくりしていくつもりだよ。これからは目一杯お姫様のご機嫌をとっていかなきゃ」

「……楽しそうね」

「もちろん!」


 ロイヤルウェディングはお断りだったんだけど。


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