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驚きがいっぱい

 侍従がうやうやしく大広間の扉を開けました。

 いよいよ王子様とご対面ですか!


 大丈夫、私は別人。舞踏会の日は家で爆睡してました。


 固く自分に言い聞かせます。実際、魔女が来るまでマジ寝してたし。それに御者という、アリバイを証明してくれる人もいるし。

 決意を込めてギュッと手を握ったら、

「緊張しなくても大丈夫だよ」

 といってショーレがギュッと手を握り返してきました。そうだ、私は今ショーレにエスコートされてるんだった。忘れてた。


 扉が開くとそこには大広間へと降りる階段が見えています。

 舞踏会の日、私は大遅刻なのと目立ちたくない一心で直接大広間に続く三階の扉から滑り込んだのですが、本来はここ、五階が正式な入り口であって、大きな階段を下りていくのが正式な入場の方法です。某有名歌劇団か! とつっこみたくなります。

 階段を降りると正対する大広間の奥に玉座があるのですが、今日はそこには誰もおらず、みなさま階段の下で待ち構えていました。

 国王様、王妃様……もちろん王子様も!

「ほら、行こうか」

「……ええ」

 ショーレに促されて、階段に足を踏み出しました。


 カツン、カツン。ドクン、ドクン。


 一歩一歩ゆっくりと下りていくのですが……心臓の音とリンクしてる。めっちゃ緊張してきました。




 階段を下りきると目の前には高貴な方々がずらり。

 いつの間にか妹姫様も王子様たちと一緒にいました。ワープしたのか?

 そして大臣方や王子様の近侍の方たちまで後ろには控えています。いや、そんな歓迎いらないんですけど?

 王族オーラに負けそうになるけど、ここはひとつ気を引き締めていきましょう! 

「お呼びということで参りました、フォルカルキエ子爵家のリヨンでございます」

 ドレスをつまんで深々と頭を下げると、

「堅苦しい挨拶はいいから顔を上げて」

「失礼いたします」

 王子様のお許しが出たので顔を上げました。


 真正面には美形王子様が、王族の印である水色の瞳でじっと私を見ています。いつもより表情が柔らかいのが……気持ち悪い。


 王子様だけじゃありません。

 王族の面々。重臣方。すごく注目浴びてるのをひしひしと感じます。

 もうほんと、さっさと用事を済ませて帰りたい!

「あの……?」

 あまりにまっすぐ私を見てるからいたたまれなくなってきたところで、王子様がようやく口を開きました。

「忙しいところを急に呼び出して申し訳なかったね」

 そう思ってるならそっとしとけや! ……という叫びは心の中だけですよ〜。

 こちらに一歩近付いた王子様に、私はニコッと微笑み返しました。……もちろん一歩下がって。

「いいえ、とんでもございません。……それで、私への用件はどのようなことでございましょうか?」


「いろいろとあるんだけど、まずは君に会わせたい人がいるんだ」


「会わせたい人、ですか?」

 え? ちょっと肩透かしです。

 何はさておき舞踏会のことを問い詰められると思ってきたんですけど、あらやだ私の勘違い? 

 物語ストーリー通りに話は進んでいて、『王子様の探し人=想い人』って思いこんじゃってました。


 な〜んだ違うのか。


 うふふ。ちょっと肩の力が抜けました。

 じゃあ『会わせたい人』って誰のことなんでしょう。

 わざわざ呼び出して(探し回って?)まで会わせたい人なんて……?

 すぐには思い当たらなくて、隣のショーレを見上げたら「楽しみだね」って言ってそっと微笑むだけだし。

 何が楽しみなの?

「ああ。——お連れして」

「はい」

 私が小首を傾げている間に、王子様は近侍に『その人物』を呼びに行かせました。


 誰が来るのかしら。私は近侍が向かった扉に注目しました。


 その人はすでに扉の向こうに待機していたようで、近侍が扉を開けて「どうぞ」と声をかけるとすぐに入ってきました。

 すらりとした長身のその人は、私を見て微笑んでいました。


 え……? うそ!?


「あ! リヨン!」

 驚きすぎて腰抜かしそうになったらショーレが慌てて支えてくれました。

 

 だって、案内されてきたのは私のお父様だったから!!


 遭難してもうどれくらい経ったのか……忘れちゃったくらい、それくらい長い間会ってなかったお父様。てゆーか、そもそも生死すらわからなかったんだけど。

 ショーレは「探してるから」って言ってくれてたけど、半分(いや大半)諦めてたというのに。

「お……父様?」

「リヨン……! 会いたかったよ!」

「……本物のお父様?」

「もちろんだとも!」

 そう言い張るお父様(仮)を、失礼とは思いつつも上から下までじっくり見ました。


 行方不明になる前、最後に見た姿よりは少し歳をとり、痩せた気はしますが、少し癖のある金の髪、優しい光をたたえたアメジストの瞳は、私の知っているお父様のもの。


 ……しかし、他人の空似っていうこともなきにしもあらず。


 なんてったってここはお城、王子様のテリトリー。

 偽物のお父様を餌にして、恩に着せようとか考えてるかもしれないですからね。

 完全に『お父様』とわかるまで、そして完全に王子様の魂胆がはっきりするまで全てを疑ってかかるべし。

 私はお父様に飛びつきたいのをぐっとこらえました。

「本当のお父様なら家族全員の誕生日を言えるはずよね? お父様のお誕生日は? 亡くなったお母様、そして私」

「もちろんだとも。私の誕生日は——」

 まずはパーソナルデータから。

 お父様はすらすらと自分の誕生日、お母様の、そして私のを、間違えることなく答えました。おまけに自分の出生地のことまでも。

 まあでも、これくらいはちょっと調べたらわかることですからね。事前に入れ知恵も可能です。

「正解! じゃあ、お母様の死因は?」

流行病はやりやまい!」

「正解! では、後妻の連れ子は何人? 名前は何?」

「後妻ヴァンヌの連れ子は、リールとニームという娘二人!」

「正解!! ああ、本物のお父様ね!」


 クイズ・フォルカルキエ家のプライベート情報を当てろ! を全問正解したあなたは、本物のお父様ですね!


 ようやく自分の中で納得ができ、うれしさのあまりお父様に飛びつきました。


「ああ、リヨン。大きくなったね。お母様に似て美人さんだ」

「もう会えないと思ってました」

「うんうん、心配かけてごめんね」

 

 優しく抱きしめ頭を撫でてくれるお父様。

 意地悪な義母と義姉との生活でやっぱり疲れてたんでしょう、久しぶりの温もりに、自然と涙が溢れてきました。




 感動の再会を果たし、涙も収まり落ち着くのにしばらくかかりました。

「ショーレ、お父様を見つけてくれてありがとう」

 涙をぬぐいながらショーレを振り返ると、

「え〜、うん、それね」

 なんか歯切れが悪いですね。

「ショーレがお父様のこと見つけてくれたのでしょ?」

 ショーレがダメなのでお父様に聞くと、返ってきたのは意外な答え。


「いや、私を探して見つけてくれたのはシャルトル殿下だよ」


「え!? 王子様が?!」

「そう」

 頷くお父様。驚く私。

 いやいや、王子様が探してくれてるとは聞いてなかったよ?

 じゃあ、本当にお礼を言わないといけないのは王子様に、ってこと?

 慌ててお父様から離れ、王子様の前に跪き、

「シャルトル殿下、父のこと、探してくださりありがとうございました」

 ものすごく心をこめてお礼を言ったというのに、肝心の王子様は。


「あ、お礼はこっちではなくそっちに言ってくれるかな?」

「?」


 何を言ってるのかさっぱりわからなくて顔を上げると、王子様は自分の頭に手をやり、その綺麗な金の髪に手をかけていました。

 何するのかしら? 

 何が起こるのかわからなくてぼーっと見ていたら、おもむろにそれをグイッと引っ張って——。


 するっと取れたのは……サラサラの金の髪を後ろで束ねたカツラ。王子様はそれを手にしたままショーレに近付くと、ポフッとその頭に載せました。


「えっ…………? えええええ〜〜〜っ!!!」

「ちょ……載せるならちゃんと載せろよ」


 驚きのあまり叫んでしまった私。


 全然冷静なまま、もぞもぞとヅラを調整しているショーレ。


「ど…………どどどどどどういう……こと?」

 失礼とは思いつつもショーレの頭を指差したまま、動揺が止まりません。

 今、ショーレは王子様から渡されたカツラを被ってる。そして、カツラを脱いだ王子様は、色は同じ金髪だけどショーレと同じく短くサッパリとした短髪で。

 んんんん?? 


 ロン毛(ヅラ)が王子様で、短髪(地毛)がショーレ?


 あいつが私で私があいつ、的な? ……ややこしい!!

 私が二人を見比べキョロキョロしていると、


「ん? 僕が本物の〝ショーレ〟で、そっちが本物の〝シャルマン殿下〟ってこと」


 さっきまで〝王子様〟だった〝ショーレ〟(もう訳わかんない!!)が爽やかに笑いながら言いました。


「はぁぁぁぁぁ!? 王子様、あなた、ヅラだったんですか——!」


 本日二回目。


 ぷつん。情報量キャパオーバー。情報処理が追いつかなくなって脳内電源切れる音がした——気がした。


 もうそろそろ気絶していいですか?

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