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何か進展してるようです

 楽団が奏でる音楽が軽やかに流れる庭園。笑いさざめく人々。


 本日はお日柄も良く、例によって例のごとく、お城でパーティーが開かれています。


 今日はなんの催しかって? もはや私もよくわかりません。とりあえず王子様のご機嫌伺いってことで間違いないでしょう。ほんと、もういい加減に婚約者決めてほしいものです。

 できる限り王子様の視界から消え去りたい私にとって、このパーティーなるお呼び出しは苦痛でしかないんですから!

 でもサボれない理由もあるし……はぁ。なんでショーレ、親戚の別荘に遊びに行ってたのかしら? なんでうちのお義母様とお義姉様たちを見つけちゃったのかしら? ……って、いまさら恨みごと言っても仕方ないか。

 とにかく『私は元気ですよ〜』アピールのために、気が重いけどレッツパーティー。




 王様たちへのご挨拶は、お義母様たちの後ろに隠れるようにして済ませ、第一関門クリアです。目立たない、印象に残らないを徹底しなくちゃ。

 あとは会場の隅の方で、暇つぶしの人間観察をしつつゆっくり終わりを待つだけ。

 これもひっそりと飲み物片手に移動していたんですが、


「リヨン! 久しぶり!」

「あっ、ショーレ」


 やっぱりショーレに見つかってしまいました。いや、ショーレには〝元気ですよアピール〟をしないといけないから、むしろ見つけてくれてありがとう、かしら。

 それにショーレが一緒にいてくれるおかげで、おかしな人(と書いて鬱陶しい貴族の若者と読む)に絡まれることは無くなったので、ありがたいんですけどね。

「この間はリヨンに会えなくて残念だったよ。領地に行ってたんだって? 大変だね」

「ああ、うん……まあ。でも、お父様が戻ってくるまでだから……」

 領地に行ってたなんて真っ赤な嘘です。ええ、化粧品の材料採りに行ってました。商売に走ってました。歯切れ悪いのは許して!

「報告もなくて申し訳ない。でもちゃんと子爵のことは引き続き捜索してるから、諦めないでね、いい?」

「うん、わかった。ありがとう」

 ショーレの優しさに若干後ろめたさを感じつつ、でもそのためらいが、ショーレには『お父様のことを思い出させた(落ち込ませた)』と感じたのか、

「ごめん、元気出して」

 と、慰められてしまいました。

「ううん! 大丈夫! 気にしてないから、ね?」

「ほんとに?」

「ほんとよ!」

 私の顔色を伺うように見てくるショーレに、無理やりな笑顔を見せ付けます。

 もう私の罪悪感が限界なんで、その辺で勘弁してやってください。


 そのままの流れで、ショーレと一緒にいつもの定位置で会場観察することにしました。

 会場にはメインゲストであるお嬢様方(婚約者候補)と、その保護者、そしてお貴族様がたくさんいらっしゃいます。

 そういえばパーティーはお城の公式行事。だとすればショーレは王子側(招待側)だから、今ってほんとは仕事中なんじゃないの? と、ふと思いました。


「ショーレってば王子様の側近なんでしょ? 本当にお側にいなくていいの?」


 パーティーではほとんどいつも私の隣にいますよね。王子様のお側に侍っているのを見たことがありません。むしろ私の側近か! ってくらい一緒にいます。

「普段嫌っていうほど一緒にいるから、こういう時くらい解放されたいんだよね。それに、側近って何人もいるから、僕一人くらいいなくても大丈夫なんだよ」

 ほら、と言ってショーレが指差す方向では、王子様が何人もの美少年・美丈夫に囲まれています。

 王子様も美形だから、なんかキラキラしい集団……っ! バラの花が咲いて見えるっ!

「うわぁ……BL的ハーレムやでぇ……」

 腐ってないけど目の保養にはなりますからね!

「びーえる? 何?」

「え? ん? な、なんでもないよっ」

 思わず呟いた言葉に質問されて冷や汗が出ました。ショーレ、世の中には知らなくてもいいことだってあるんですよ。それに、私は〝知識〟として知ってるだけで決して腐ってませんからね! って、誰に言い訳してるんでしょう。

 ああでも、これは珍しい光景です。

 いつもなら、王子の両隣にはヴィルールバンヌ侯爵令嬢とメリニャック侯爵令嬢が陣取っていて、その周りを、それぞれのお嬢様方の取り巻き連中(あわよくばワンチャン狙い)が囲んでいるという〝正統派ハーレム〟を築いているはずなのに。

 今日はやけにたくさんの男どもに囲まれてますね! 主旨変換したんでしょうか?

「あれ全部、王子様の側近?」

 いち、にい、さん……う〜ん、十は超えてますよね。二十は大げさかもしれないけど、それくらいはいるかな。

「いいや、違うよ。側近もいるけど、今日はご学友が多いね」

「友達いたんだ」

「え?」

「えっ?! な、いや、珍しいなって。だって王子様ってば、いっつも綺麗なお嬢様たちに囲まれてるから。そうそう、いつもの侯爵令嬢たちは放っておいていいのかしら」

 私がキョロキョロと周りを探すフリをすれば、

「大丈夫でしょ。たまには男同士で気楽に話したい時もあるだろうし」

 ニコニコと王子たちを見ているショーレ。

「そうね。どう見ても、いつも以上に表情が柔らかいものね」

 ショーレの言う通り、私たちの視線の先にいる王子様たちは、気取りなく話し、笑って、とても楽しそうです。

 誰かが面白いことを言ったのか、王子様たちがどっと笑ってます。すごい盛り上がってますねぇ。お嬢様方を侍らせて、ツンととり澄ました氷の微笑とはえらい違い。

 たまにお腹を抱えていたりするところを見ると、王子様だって若い男の子ですね。あらやだ、私ったら発言がおばさんぽい。

 そもそもいつも無愛想というか冷たい感じしかしない王子様なのに、今日は別人のようです。

「今日の王子様なら、みんなが言うところの『プランセ・シャルマン』も納得ね」

(笑)はつけなくていいかも。

「いや、その呼び名はやめてあげて」

「あらそう? お似合いじゃない。今日の王子様には」

 せっかく私が褒めたというのに、ショーレは苦虫を潰したような顔で抗議してきました。ショーレが怒ることないのに。


 そして、今日は放置されたままのお嬢様方はどうしてるかと探すと、少し離れたところにそれぞれコロニーを作り、王子様たちの集団を眺めていました。

 そして両令嬢は、愛しの(?)王子様を独占している側近・ご学友に嫉妬の眼差しを向けているようです。

「ブレないね、あの人たち」

「そうだね」

 男友達にすら嫉妬心を見せるお嬢様に引く私と、苦笑いしているショーレ。

 いや、まあ、うん、ちょっとしたBL的ハーレムですからね。王子様も、あからさまにいつもと雰囲気違いますからね。


 でも、男友達にまで嫉妬する気持ちって……。


 もし、トロワが友達とワチャワチャしてたら、私はあんなふうに嫉妬するのかなぁ? 私を見てよって、思うのかなぁ? ……思わなかったから、諦めたから、あの時(・・・)あの場から逃走したのか。——そう、前世。

 しかもあの時は男じゃなくて女だったけどね!

 あの時、『私の彼氏に何してんの!』って相手の子とファイトしてたら何か変わってたのかな? 逆に〝気の強い女〟って千夜に思われて、結局ジ・エンドだったかな?


 っと、なんでここで自分のこと省みてんの!? トロワ関係ないし! 前世、思い出したくもないし!!


 なぜか自然にトロワのこと(と千夜)を思い出していて慌てた私は、多分一人で百面相してたんでしょう。

「リヨン? どうしたの?」

 ショーレが不思議そうに私の顔を覗き込んできました。

 同じ高さに降りてきた、青い瞳。王子様と同じ色、トロワとは違う色。

 やっぱり男心って、男の人に聞くのが一番ですよね。参考までに聞いてみたい。

「……男友達と仲良くしてるところを嫉妬されるって、引く?」

 さりげなくショーレに聞いてみると、

「度合いによるかな。少しくらいならうれしいな、とか、かわいいなって思えるけど、酷いと独占欲強いなぁって、引く、かな」

 ちゃんと考えながら答えてくれました。

「やっぱり? じゃあ、女の子といるところを嫉妬されるのは?」

「そこ、嫉妬して当たり前でしょ。逆に、嫉妬されなきゃ愛されてないって思うでしょ、普通」

「あ、そっか」

「そうだよ」

 あの時、千夜はどう思ったのかなぁ。まあ、今となっては知るすべもないけど。そしてどうでもいいけど。

 それよりも、現実現実。

「まあでも、ご学友や側近にまで嫉妬するほど令嬢たちは王子様のことを想っていたのね。意外だったわ」

 ただの政略結婚と思わせておいて、本気だったんですね。

 いまだ王子たちの集団を恨めしそうに見ている両令嬢を見ながら私は感心していたのだけど、


「え? そんなわけないでしょ。しょせん政略、地位と名誉と金目当て。ライバル蹴落としてなんぼ、男友達といちゃついてないで、早く自分に決めろよくらいにしか思ってないよ、あの子たちは」


「………………」


 ショーレはしれっと毒を吐いていました。ショーレさん、女子の気持ちもよくご存知ですね。

 う〜ん、やっぱり女子コワイ。


 一方、令嬢方の取り巻きお嬢様たちは、王子様とそのご学友たち(・・)をうっとりとした瞳で見つめています。

「…………王子じゃなくてもいいのか…………」

 ワンチャン狙いちゃうんかい!

 まあ、王子様のご学友に選ばれるような人たちですからね、見た目ももちろんのこと、家柄・頭脳においてもハイスペック集団ですもんねぇ。側近も然り。現にショーレだって、モントルイユ公爵家のおぼっちゃまだし。

 お嬢様方の本音を見た気がしてゾッとした私の隣では、

「そんなもんでしょ」

 ショーレが涼しい顔で言ってのけました。さっきといい、今日のショーレはブラックですねぇ。




「でも、お嬢様たちを放置していたら婚約者選びは進まないじゃない。それはよくないと思うの」

 無駄にお城に呼び出すな。…………という本音はおいといて。

 これじゃあなんのためにお城に来たのか、ほんとにわかりません。

 私が顔をしかめていると、


「進んでないことはないんだけど、まだあまり公言できないからなぁ……」


 ボソッっとショーレがつぶやいた一言。小さい声だったけど、私にはしっかりはっきり聞こえちゃいましたよ!


 その発言、かなりひっかかります。

 

 公言できないことって何? 進んでないことはないって、どういうこと?

「え〜? 何それ何それ誰にも言わないから教えて! ね? お願い!」

 手を合わせてショーレにお願いします。

「あ、やべ。聞こえちゃったか。う〜ん、いくらリヨンのお願いといえども、ちょっとこれは無理かな」

「ええ〜? びみょーにひけらかすとか、超気になるところでお預け〜?」

「ほんと、ごめんて」

 困り顔で謝るショーレ。

 あ〜もう、気になるなぁ。自分で考えるしかないのか。

 ショーレのつむじを見ながら、頭の中でさっきまでの話を整理します。

 婚約者選びの話をしていて、『まだ公言できない』『進んでいないことはない』ってショーレがつぶやいたんですよね。しかも今日は最有力候補のお嬢様方を遠ざけていて……って、あっ。なーんだ、簡単なことじゃない。

「……あら。そういうこと?」


 私ったらひらめいちゃいました。


 それって、まさかの〝第三勢力的お嬢様〟を婚約者候補にするってことじゃないんですか?


 まだ公言できないのは、婚約者候補とその家族を、ヴィルールバンヌ家とメリニャック家の力から守る術が確立されていないからってことじゃないの?

 つまり、両家よりも格が下のお嬢様に白羽の矢が立ったってことじゃないの?


 おお〜。なんかうまくパズルのピースがはまった気分。うふふ、私ちょっと冴えてません? 結構いい線いってる推理だと思うんですけど?


 侯爵家よりも格下……ということは、伯爵かな? 子爵、男爵ってこともありうるかな。そんなに内緒なんて。……あ、でもうちには打診来てないから、うちはスルーですね。


 なんでそんなことが断言できるかって?


 だって、王家から『リールかニームをお妃に』なんて打診あった日には、お義母様、大はしゃぎするでしょ。とっくに祝杯あげてますよ隠せない人だもの。逆に、私に打診が来てたとしたら激怒パンチ食らってるだろうし(使者・私ともに)。

 ということでうちは除外なのです。


「お〜い、リヨンさん?」


 急にショーレの顔を見てニヤニヤしだした私のほっぺを、ショーレはペチペチと叩いてきました。もうっ、私は正気ですよ! ちょっと自分の推理にご満悦になってただけなの。


 王子様が婚約者決めちゃえば、私はもう物語のことを気にすることなく我が道いけるんだけどなぁ。


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