まさかの
木刀の打ち合う音が幾重にも重なって、それらを振るう彼らの命脈を狙い響き渡る。
……まあ、それっぽく言ったけど、要は打ち合い稽古の最中です。
ついでに私は観戦中。
正直脚動かない身じゃ剣術は出来ない。だから観戦以外にやる事が無いとも言える。
向き合っているのは、師範と古参(確かお母さんと同時期から)のおじいちゃん――武田 晋也さん。
武田さん曰く、日頃の運動不足解消のために始めてのめり込んだとのこと。
御年67歳。30代の頃に初めて、今では太刀上流門下生トップクラスの歩法の技巧を持つ人だ。
ちなみに私も昔何度も歩法についてのアドバイスをもらっていたりする。
武装はオーソドックスに打刀一刀。
お母さんは、色々と凄い。
40歳近いのに、未だ筋力でさえ若者に負けない。
武装は、太刀二刀。
太刀二刀流とか言う馬鹿みたいなものを実践レベルまで鍛え上げた現状太刀上流最強の剣士。
なお、記録に残っている限り、太刀二刀流とかを実戦した超人はお母さんだけだ。
……そりゃそうだけど。私よりも琥珀に近い戦法を取る。
膠着した状態から一転、武田さんが仕掛けた。
――歩法 滑歩
滑るように接近する。
だが、それを対処出来ないようでは師範は愚か、太刀上流門下さえまともに名乗れない。
――歩法 迅雷
お母さんは一気に間合いを詰めて、一閃。
けれど、それは意味を成さない。
――斬法 流水
太刀を巻き取って、外に流す。その回転エネルギーのままに手首を旋回させて、お母さんに対して仕返しの一撃。
それよりも早くお母さんは、武田さんの懐、それも30cm程の位置に潜り込んでいた。
――激法 徹震
肩口からの体当たり。それを経験則で、ギリギリ身体を傾けた武田さんが辛うじてダメージを減らす。
だが、それでお母さんの凶悪な威力なタックルを凌げる訳がない。
お母さんが、畳み掛けていく。
武田さんも、歩法で撹乱しながらも応戦する。
技巧の剣の武田さんに対する技術と勘を織り交ぜたお母さんの打ち合いは、本当に見応えがある。
あるんだけどさ――
――ピン、ポーン
家のチャイムが鳴りやがった。
琥珀は門下生として順番待ちだし、お父さんは仕事。
要は私が行く他ないのだ。
急いで、道場を出て玄関まで向かう。
配達員さんの後ろからになるんだけどね。
「すみません、今印鑑取ってきますね」
「……あ、はい…………」
ちょっとどいて貰って、靴箱の上にいつも置いてある印鑑を手に、宛先を確認して押印する。
宛先はお母さんに。区分は情報家電……? パソコンとかの区分だよね。
と言うかこの箱デカい。ついでに大手通販サイトの箱だね。
何頼んだのかは知らないけど、まあ、リビング置いといて、観戦の続きしよう。
さっきのカードはもう終わってるかもだけど。
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「――ああ、あれ? VRゲーム機よ」
「「え……?」」
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