美味しいか不味いかで言ったら美味しい
「あの黒ヒツジ、レベル幾つ?」
「そういや『識別』今無いんだっけ? 私もアンバーも無いんじゃね?」
私が元々スキル枠に入れてた『識別』は、『電光石火』の犠牲になったので、今は使えない。
その後の40レベ到達での枠は『纏魔斬』入れたからね。
「私が持っている訳が無いのだよ!」
「アンバーちゃん、威張るところじゃ無いよ?……あと、あいつレベル30ですね」
あ、ハーフェン君持ってるのね。
レベルは30ね。ここのイノシシ共よりも少し下か。
……それ、ただのリンチになるよ?
「これ、私だけで行ってきていい? ちょっと過剰戦力でしょう?」
「お姉、いつも戦いたがってるよね。何? 欲求不満なの?」
「違います。夏休みになってから、欲求なんて殆ど溜まって無いよ。ひっさびさに、刀振れてるし」
欲求不満って、一般的に、ね?
エッチな事に使われる言葉だけど、本来の意味はその他の欲求全てに当てはまるからね。
アンバーよ、誂おうたってそうは行かないよ。
「ラピス、ラピス」
「何? サニーそんなニマニマして」
何か言うことあるの?
そんな表情する要素無いでしょう?
「それ……、夏休み前まで欲求不満だったって言ってるようなものだからな?」
「ぁ…………」
恐る恐るコメントを見る。
見ちゃダメだと何となく分かってはいるけど、少しだけ気になってしまう。
『あの……、コメントに困るんですが』
『ごめん、ちょっときた』
『サニーの配信で女子感出るの久々だな』
…………はい。
「ごめん。あいつ、殺してくるぅ…………」
「あ、はい。…………えと」
ハーフェン君、頑張っても微妙に言葉が出ないのね。
ごめんよ、反応しづらいよね。
――歩法 迅雷
もう、良い。どうしようもない現実への憤りも、羞恥心も、全て叩きつけてくれる。
――歩法・撃法混合 風蝕
思い切り地を踏みしめて、黒ヒツジの頭上に跳ね上がる。
「とっとと果てろ」
――撃法 神風
一回転からの踵落としを頭頂部にぶつける。
ガクンと身体が揺れる。でも、まだ倒れない。
そっか。……じゃあ、死ね。
――撃法 昇抉
アッパーカットで、身体を少しだけ浮かせる。
「廻踵!!」
回し蹴りで吹っ飛ばす。
とは言え、体重的にそこまで距離が開くわけではない。
でも、それでもこれを構える空間は簡単に生まれる。
「ぶち抜く……!」
――撃法 覆滅
踏み込みの力を、胴体の捻動を、体重を、肩から、手先へと伝えて、全身の関節を一気に伸ばす。
早い話が、発勁だ。
そのエネルギーを相手の体内で炸裂させて、付近の内蔵を潰す大技。
使った後の硬直が大きいけど、かなりの対生物性能を誇る。
WJOがモンスターの内蔵まで作り込んでくれているからこそ、真価を発揮したね。
「メエエェェェェエエェェエェーーーーッ!」
断末魔らしきものと一緒に、ヒツジの口元から赤いダメージエフェクトが出た。
まあ、うん。現実じゃ吐血物だからね、しょうがないね。
『ヒエッ』
『あんま攻撃性能高くない籠手だけで撲殺したぞ、こいつ』
『素手はアカン』
『ごめんなさいごめんさない』
まったく、アンバーはお仕置きで。
性的な意味に捉えた奴も同罪で。
……あれ? これ私もか?
いやいや、それは無い。無いはずだ。
私は、視聴者さんたちの中で勘違いして何やかんや思われることが嫌なのであって決してそんな性欲が強い女ではないと思うしそもそも聞き方が酷かったアンバーと誘導してきたサニーが悪いのであって私に特に否はないと思われる。そのはずなのだ。私がそう思っているからそうで大丈夫だ。
…………大丈夫だったら、こうはなってないか。
「お姉、ちょっと考え事してる時に悪いけど……いっぱい来た」
「――え、マジ?」
言われて、ちょっと五感に集中する。
「四方から来てる気がするね。私だけだったりしない?」
「しない」
「しません。さっきの黒いヒツジがトラップ系のモンスターだったんでしょうね」
まあ、うん。勘違いなわけ無いよね。
勘違いであって欲しかったね。
流石に、これは対処が大変だ。
「サニー、素材一旦気にしなくて良いよ」
「そらそう。つか、余るっしょ」
どんどん集まってくるモンスターはイノシシとヒツジの混合、驚いたことに1:1位でヒツジがいる。
視界内だけで20位モンスター見えるから、全体で60位かな?
要は、一人最低15か。これから増えるかもしれないから、今の仮定は無駄かもしれないけど。
「――んじゃまあ、開戦は派手に行こう」
互いに背中合わせになるように構えていた私達の中から、サニーが一人一歩前に出る。
「『多重魔法』『ファイアブラスト』」
サニーの周囲に4つの火球が出現する。
一瞬の内に放たれたそれらは、四方のモンスターを爆風で覆い尽くした。
さあ、私達もやろう。
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