道場ならぬ訓練場破り
ザッ、と態と音を立てて、地を踏みしめる。
訓練場にいた人々の中で、その音に気が付いた者は皆視線をこちらに向ける。
良いね。訓練場にいる住民(多分門下生)の内、4割は剣戟の打ち合いの音に紛れた私の足音に反応した。
多分感覚を広げるような技術またはスキルを前提にしている。
モンスターに対して人が勝る武器の一つは勿論感覚器官に支えられた思考、及び情報処理。
それを強化して戦いに活かすのはかなり重要なんだと思う。
私の場合は、元々の五感の性能的にスキルでの補強は要らないけど。
相手の動作を、距離を、数を、その他地形的要因を、それらを活用するのは基本的に身体能力で負ける人がモンスターに勝つのにかなり強力な手札となる。
うん、対モンスターを意識した技術体系、それがどんなものか非常に興味がある。
「何用だ?!」
「対モンスター用に研ぎ澄まされた武術を味わってみたくて来ました」
一人、先んじて向かってきた。
多分、まだ始めて間も無い人だと思う。ぱっと見で分かる程に剣に習熟してる人達は、警戒だけして動いていない。
言いながら、私の足は進み続ける。
正面の人には悪いけど、重心移動や歩幅がなってない。
貴方だと分からない。
『軽っ』
『ヤル気満々の癖に』
『温度差で風邪引きそう』
ノリが軽い言うな。分かってるから。
「ごめんなさい。――それ、貸して下さい」
彼が手にしていた木刀――両刃だから木剣かな――その柄に手を伸ばして、手首のスナップを効かせる。
するりと抜けて、一度手の中で回す。
私の手には彼の木剣があった。
――撃法 奪命
大本は柳生の無刀取り。相手の武器を素手で奪い取る技。
なお、柳生の無刀取りは表層に出ているのは武器を奪うことである。
が、根本的には、武器を選ばず、例え武器が無かろうと狼狽しない境地に至ること、である。
兎も角、武器は手に入った。
取り敢えず、件の人には額に軽くデコピンをプレゼント。
正直ぶん殴ることも出来るんだけど、流石に可愛そうじゃん?
一歩一歩、歩み寄る。
視線の先には、師範であろう大柄な男性。
髪を刈り上げて、その手には大きな両手剣が一振り握られている。
彼の視線は訓練場に入る前から門下生たちではなく、私に向けられていた。
「……お前さん、出来るだろう…………?」
「そちらには負けますよ。……少なくとも、今のところは」
くつくつと彼の口元から楽しげに喉を転がす音が聞こえる。
現状、技術もステータスも目の前の彼には負けているだろう。
鈍っているとは言え、研磨した剣士としての勘が言っている。
私は総合的には負けている、と。
だったらそれを超えれば良い。
総合的には負けていようと、一撃を制すれば人は殺せる。
「胸をお借りします」
「んな剣気練っといて良く言うよ……。ったく、言葉だけ取り繕いやがって」
互いに木製とは言え剣に殺気を込めて。
己の剣を研ぎ澄ます。
――歩法 滑歩
上体を動かさずに像を結ばせない。
けれど、彼は当然のように対応してくる。
一度剣を合わせて、一拍の間が空く。
綺麗に地面に受け流した。自身より体格、身体能力の優れるモノを相手にするからこそ、だね。
なら、もっと加速していこう。
「……ふっ…………!」
――歩法 迅雷
一気に加速して、コンパクトに突きを放つ。
突きは地面に流せないからね、相手にとってはやりにくいでしょう。
彼は一歩横に回避する。
それを視界に収めながら、柄から左手を落とす。
――斬法・撃法混合 金鳴
左手で右手を弾いて、刀を一気に加速させる。
「……ほう」
玲瓏・撞響との違いは手で打つ部分にある。
玲瓏・撞響は刀の峰を打って、遠心力で強引に斬る斬法。
金鳴は柄を打って、刀身を加速させるだけ。威力は向上しない。
なお、出の早さは金鳴の方が数倍早い。
だが、彼は軽く枝葉を避けるように身体を逸して斬撃を回避して一転、上段から袈裟の一撃を放ってくる。
――歩法 旋風
刀身を滑らせて、そのまま運動に変換する。
後ろに回る。その分のエネルギーが私にはある。
けれど、敢えて真横で止まる。
残りのエネルギーを回転運動に変える。
「――ハアッ……!」
――斬法 伐刀
思い切り振るった胴を抉る横薙ぎ。それを相手はすぐに引き戻した剣で受けた。
その瞬間、彼の身体は吹っ飛んだ。
でも、それは私の力だけじゃない。彼が自ら飛んで威力を逃したのだ。
身体に掛かる負荷を徹底的に減らすのが理念の一つにはありそうだね。
まあ、ここからもガンガン行こう。
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