試行
「ふぅ……!」
下段からのすくい上げるように放った斬撃に対して、ハーフェン君は半身になることでそれを躱す。
半身になった状態から身体を戻す時に、一閃。
牽制用とは言え、避けざるを得ない。
一歩横にずれるように避けて、先程振り上げた正近を上段に持ち込む。
ハーフェン君は(一応)斬撃を放った後だから、隙きがある。
「――ハァアアッ!」
――斬法 地嵐
圧し潰す。
身長的にも体勢的にも私が上で、その状態からの振り下ろし。
彼の取れる行動はかなり制限される。
「くっ…………!」
回避も流水も困難な状況下に於いて、ハーフェン君は当然防御を選択。
二振りの小太刀を交差させて私の一撃を受け止める。
ギリギリと三振りの刀身が軋みを上げる。
さて、この状態だと私が有利だ。
左肩を即時、刀の峰に押し当てる。
――激法 徹震
ショルダータックル。
ゴガン、と金属同士の硬い音と共に、ハーフェン君は堪らず、吹っ飛ばされた。
彼は受け身を取りながらも、いまだに体勢を戻せていない。
ここを攻めない手はない。
――歩法 迅雷
一気に懐に飛び込む。
けれど、ハーフェン君だってまだ諦めたわけではない。
半ば強引に身体を起こして、私にコンパクトな構えから突きを放つ。
……まあ、そうするよね。
それを待ってたんだけどね。
ハーフェン君の地面に対して垂直な突きに対して、私は刀を正面に地面に対して水平になるように構える。
接触。
それによってお互いに刀が弾かれる。……なんてことにはならない。
私の刀はハーフェン君の腹部に突き刺さり、彼の一撃は間一髪私の真横を通り抜けた。
なぜそうなったのか? 理由は簡単。
「……今のは、鏡壊、ですか…………?」
「まあ、それの応用ってところかな?」
ハーフェン君の突きに対して、私は刀を刃をハーフェン君の刀側になるように横に倒して突き込んだ。
刀身同士が接触した結果、彼の一撃は私の刀の反りに沿って逸れ、私の刀はより彼の身体の真ん中よりに突き刺さったという訳だ。
ハーフェン君の言った鏡壊とは、相手の武器を弾いた時の反作用を用いて、斬撃の軌道を変える斬法の事だ。
それで今回の使った技は、その応用で、悠真の技法――ベクトルの流用とでも言うべきかな――それを用いた彼が作った剣技。
新しい斬法と言って差し障りのないものだ。
当主に言わずに太刀上流に加えるのは、差し障りがあるんだけどね。
まあ、兎も角として、PVPは私が勝って、専用エリアが消滅した。
『なんか技と技のぶつかり合いって、良いな』
『タックルを刀越しに入れるのコワッ……。防げぬ』
『ラピスは何を得たのだろうか?』
得られたものか……。
「んー、これ見える?」
表示させたのは、あるデータ、それも画像データだ。
『ノートか、これ?』
『矢鱈綺麗な字だな』
『綺麗というか正確?』
「――これ……」
お、ハーフェン君は気が付いたみたいだね。
そう、悠真の遺品であるノートだ。
手紙が挟んであった奴だね。
ノートには、太刀上流のあらゆる技の情報やコツがびっしりと書き記されている。
隅から隅まで、余すこと無く。
一個一個の技に、成人男性の平均的数値を基にした最高効率が記述されているのが、何とも彼らしい。
そのノートの最後2ページに悠真のオリジナル技の案が書かれていた。
今回のそれもこの内の一つ。
技名はまだ無い、彼の置き土産。
まったくもう。こんなものまで遺してさ。
技名は、保留で。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。




