所在
「――ん? ラピスの様子?」
ラピスが失神した翌日の夕方、サニーは職兼趣味の配信活動に勤しんでいた。
サニーは、配信中のコメントにて、ラピスの様態を聞くものを見つけた。
「午前に見に行ったんだけどさぁ、まだ寝たまんまよ」
軽い調子で言葉を紡ぐが、その本心は誰の目にも明らか。
『SNSで妹ちゃんが倒れたって言ってたな』
『SNSで言うとはこれ如何に』
『発言とは言うから良いのでは?』
『そういや、あの人サニーより先進んでね?』
コメントで言及された、妹――アンバーの発言、それは、
『家の姉がゲロって、ぶっ倒れたんだが。サニーちゃん、ヘルプ!』
中々に色々な意味で衝撃的なものだ。
サニーとしては、アンバーの発言よりも瑠璃が倒れた点に驚いたわけだが。
「ラピスが倒れるなんて、何年ぶりだろ。最後に体調不良になったの…………、あれ? いつだ?」
風邪を引いたのは、五年前。
それも発熱はしなかった為に、瑠璃が明確に体調不良になった事など、日向はおろか当人ですら、まともに覚えていない。
「あっはっは、あいつが強靭すぎて覚えてないわ」
最早笑い飛ばす他無いレベルだ。
人の止め方よ。
『スペックェ……』
『相対的にサニーが普通に見えてくる』
『幼馴染みが覚えてないは、本当にえげつない』
『類は友を呼ぶ』
時折、サニーはラピスの事を話題に出すが、基本的に件の人物がヤバいで落ち着く。
その当人が表舞台に出てきたことで、サニーの与太話じみたネタが事実であると段々と認知されるようになっていった。
「――おい、ちょっと待て。誰が類友だ、誰が。ラピス程ヤバくは無い。…………はず」
コメントに対する反応速度の速さは、サニーの方が上だ。
ラピスの基礎的な反応速度に対して、単純な経験値だけで、それを上回る。
人気配信者は伊達ではない。
ただ、類友は事実という以外に道はないが。
言い回しやら、そのイカれた行動やら、挙げ始めたらキリがない。
『類友否定は草』
『じゃあ、その手のものはなんですか?』
『それをポイッしてから言ってどうぞ』
『エクストラ武器探し配信パート10』
『わあ、火力凄そう』
手のもの。
それは、サニーがエクストラ装備探し用に、用意しているものだ。
彼女の眼前には、ダンジョンのボス部屋の扉があった。
「…………んー、そろそろ行くとしますか……!」
彼女は、頃合いと見て、ボス部屋への侵入を試みる。
その時に鳴るは、外部からの通信。
送り主は、琥珀。
「もしもし、で良いのか? まあ、良いや。どったの?」
『サニーちゃん、出来ればすぐ家来て。お姉があれ探してる』
「…………マジ? てことは――」
『うん。戻った』
――マジかぁ……………………。
その表情は、様々が混じり合い、一概に何が伺えるというものでは無い。
だが、表情一つで視聴者たちの殆どは、何かがあったと確信した。
そして、それがおそらく彼女関連であろうとも。
「オッケ。ちょっとボス倒したら、すぐに行く」
『それ、時間掛かる?』
「いんや――」
軽い調子でボス部屋に侵入する。
出現するダンジョンボス。
遠距離から魔法を放ってくるタイプのボス相手に、サニーは一度、たった一度魔法を放った。
「――今終わる」
極限まで威力を高められた一発の魔法は、一瞬でボスのHPを削りきる。
インフォメーションを全て無視して、彼女は配信を閉じて、ログアウトを敢行した。
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「――瑠璃ぃ、調子は?」
「もう大丈夫だよ」
起きたら、夕方だった。
色々が衝撃だけど、まずやるべきことがあった。
それは、ノートを探すことだ。
だが、私の部屋にそれらしいものは無かった。少なくとも、掃除した時には出てこなかった。
そんな訳で――
「琥珀、ノートの場所知ってる?」
「お姉…………。分かった、日向ちゃんが来るまで待って」
ノートだけで、記憶の件まで察してくれるのは、ありがたい。
でも、それは、ノートの事を知ってて黙っていたということだから、ちょっと思うところが無い訳じゃない。
まあ、必要ではあったんだろうけどさ。私的にも。
そんなこんなで、琥珀に話して10分経たない内に、日向が来て、琥珀が三人分のお茶とお菓子を持ってきた。
「……ええっと、お姉記憶が戻ったって考えて良いんだよね?」
凄い言いにくそうに言ってくるよ。まあ、理由は分かるけど。
「うん。全部思い出したよ。全部…………っ」
駄目だ。泣くな。そんなものに意味なんて無い。
私に涙する権利なんて無い。
「そっか…………。日向ちゃん、持ってきた?」
「そりゃ、勿論。――でも、これ見せたくないな……」
日向が管理していたらしい悠真のノート。それを見せたくないって言っているということは、多分悠真が、一人の時に見ろ、って言ってたやつのことなんだろうね。
「日向、お願い。私は、それを読まなきゃな気がするんだ。例え、何があっても」
何が書いてあるのか、それはまだ分からない。
でも、決して良いことだけなわけ無い。
そうだとしても、私が読まない理由にはならない。
それが、私の責任。
渋々日向がノートを渡してくる。
若干の抵抗の後に、日向の手から完全に離れた。
「お姉、大丈夫、なんだよね…………?」
「……うん………………」
正直な話、大丈夫では無いが、でも、これは読まなきゃいけないものだから。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
始まって半年、私が当初思いもしなかったほどに、沢山の方に読んでいただいて、嬉しい限りです。
これからも、ラピスらの戦いは続いていきますので、来年もどうぞ宜しくお願いします。




