猪突猛進
「オオリャァァアアーーー!」
円環の動作を参考にした周囲一帯を薙ぎ払うアンバーの一撃。
その一撃で、三体のイノシシが動きを止める。
なんともSTRにものを言わせたゴリ押し。
まあ、アンバーの強みは直感とかを絡ませた力押しだから、この子的にはこれが最適解なんだと思う。
斧で敵を切り裂くのも、重量物を一周させるのも、かなり大変だと思うから、私はやりたくないけど。
兎も角、その動きを止めた奴らの処理は私の役割だ。
「……ふっ…………!」
――歩法 嚆矢
瞬間的に加速するこの歩法は、『電光石火』を得たおかげで、更に速くなった。
もともと最高速は出せないから、純粋に強化された感じだね。
敵影は3。
3頭の中心には未だアンバーがいるために、円環などは使用できない。
ならば、外側から複数の敵を切り裂く他ない。
まあ、一撃でそれをすることは不可能だけど。ゴム人間とかなら、ワンチャン?
一閃。
まずは正面のイノシシの首筋に横薙ぎを滑り込ませる。
その時の振るった運動エネルギーを刀から、足腰へと伝導させる。
その力に逆らわずに、一歩踏み込んで別のイノシシの懐に潜り込む。
片目を切り裂きつつ、更に力を伝導。
最後に、残りの一匹の真横から突き気味に首を撫で斬る。
攻撃とそのエネルギーを移動に用いることで、半永久的に斬撃と移動を重ねる、太刀上流において数少ない対集団用の技。
「――花影」
花影と同様に対集団用の残法である、雪華・風花との違いは、斬撃数にある。
雪華・風花は雪華のアレンジ版であるために、6連撃固定である。
それとは異なり、花影に攻撃回数の制限なんて無い。
また、花影の方が技を放った後の隙きが少ない。何度でも斬撃を重ねられるように体を使うから、他の動作に繋げやすいのだ。
その分、威力とか移動速度とかは雪華・風花の方に軍配が上がるから、この二つに優劣は存在しない。
単純性能の雪華・風花と柔軟性の花影。
要は使い分けだね。
辛うじてHPが残った二体目もアンバーの一撃で沈んだ。
『レベルが上がりました。Lv.33ー>Lv.34』
『『敏捷大強化』のスキルレベルが上がりました』
『『電光石火』のスキルレベルが上がりました』
「お姉、使う技のレパートリー増えてきたね」
「使い所が出てきたのと、勘が段々戻ってきた感じかな。……それはそうとして、2次スキルって上がりにくいね」
『敏捷大強化』のレベルは現状2。
1レベ上がるまでに、一緒に使い始めた『電光石火』はレベルが4にまでなった。
そりゃ、必要経験値が増えるのは当たり前だけど、激的だね。
「1次スキルの『電光石火』からしたら、ここら辺はかなりの経験値が入るからねぇ……。あーあ、私のスキルも早くレベル上がらないかな」
「プレイヤーの総意でしょう、それ」
中身のあるような、無いような話を続けながら、イノシシ狩りに勤しむ。
討伐数が100近くなってきたあたりで、突然アンバーがとんでもないことを言い出した。
「お姉、もうちょっとでスローターボス出そうだから、頑張って行こうか」
「説明プリーズ。どゆこと?」
本当にマジでどういうことなん……?
スローターボス? フィールドボスとかとはまた別みたい何だけど。
「ここのエリアとかみたいな、動物系モンスターメインのエリアって、そこのモンスターを大量に倒すとそこ限定のボスが現れるの。……で、それがそろそろだろうなって」
スローター――要はモンスターの大量討伐が出現条件か。動物系のエリアでとなると……
「家の者が世話んなったな…………的な奴って事?」
「それ的な奴」
と言うことは、そのボスは勿論――
「デッカいイノシシですね、はい。大体高さ4mくらい?」
「明らかに一体だけ大きさ可笑しい気がするよ」
普通の奴ら高さで表すと1mも無いんですけど?
『あれ、殆ど交通事故だぞ』
『餌を独占している(という設定)で普通のモンスターを弱めに、ボスを強めにしてる』
『成る程。狩場の独占対策か?』
『割と、スローターボス強いから、適正レベル帯だと対策にはなる』
運営側が考えた結果か……。
て言うか、交通事故って何?! そんな勢いで突っ込んで来るって事?
ええ………………。
え、ちょっと待って!
「アンバー、何イノシシ狩まくってるの?!」
「数的にそろそろだから、来るまで殺る」
説明中にも出現しなかったから、まだ数が足らない、と?
だからって、ねぇ?
――ドシン
重々しく空気が、大地が打ち震える。
「――お、来たね」
反対に軽いアンバーの声音。
視線の先に私も目を向けて、大きく目を見開いた。
大きい。
話には聞いていたけど、木々がとても小さく見える。
あれを、私達は相手にするのか。
対人剣技で、デカブツを。
「……どうすれば…………」
あのモンスターの命脈に刃を突き立てられるだろうか。
突きはおそらく決定打にはなりえない。首に入れれば、可能性はあるが。
斬撃も同様。というよりも、突きよりも効果は薄いだろう。
打撃では小揺るぎさえするか怪しい。
「お姉、来るよ!!」
「――――ッ」
駄目だ。思考に集中しすぎていた。
真に集中すべきは、これからの戦闘行為だ。
冷静に弱点を探り、徹底的に突く。
いつの間にか、俯いていたのを、前に向ける。
そこには、走り始めたイノシシの姿があった。
「――ぁ」
思わず声が漏れ出して、全身が硬直する。
思うようには動かないくせに、ガタガタと震えは止まらない。
――見たことがある。
――私は、この光景に覚えがある。
――何かがこちらに猛スピードで迫ってくる。
「――――ヅッ?!」
痛い。
痛い。
突き抜ける頭痛。
遠くなる意識。
迫り上がる吐き気。
「お姉!!」
――トンッ
優しくも力強い衝撃。
ゼロ距離から一気に、アンバーが離れていく。
否、私が突き飛ばされたのだ。
どさりと私が地に着いた一瞬後に、アンバーがイノシシに轢かれた。
重なる視界。
吹き飛ばされるアンバー。
飛び散るポリゴン。
プツリ、と視界がブラックアウトした。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。




