限定回帰 Ⅱ
「――死ねぇアァッ!!」
豪と振るわれる凶槍。
10度程を逸して、その力をも利用して一歩横にずれる。反作用などを利用するのなら、力の加え方を変えなきゃで割と面倒くさい。
――歩法 嚆矢
横にずれた一瞬で急加速して、カルネイジの脇腹を一閃する。
「シャアアーーッ!」
即時振り返る。
――歩法・撃法混合 風蝕
――斬法 伐刀
伐刀を応用的に風蝕から放つ。
金属製ではないとは言え、ある程度の厚みのある鎧を纏っているのだ。先程の一撃は浅かった。ならば、火力を上げなければならない。
「『ファストステップ』!」
攻めの姿勢を崩さなかったカルネイジが初めて逃げの一手を打つ。
回避の軌道を確認する。『ファストステップ』はアーツ(スキルに含まれるMP消費で使用する技)であり、基本的にアーツは動作が決まっている。
ついでに『ファストステップ』は使用者のAGIによって移動距離が変化するアーツ。
急な軌道変更は出来ない。
「『サンダーアロー』」
私の予想地点に先出しで魔法を放つ。
けれども、カルネイジは寸前で身体を少しだけ反らして、これを回避する。
初撃の当てつけかな?
――まあ、いい。最速で詰める。カルネイジに体勢を整える時間を与えるな。それが完了した瞬間が私の最期と思え!
――歩法 迅雷
加速する。
黒槍が空を薙ぎって刃が迫る。
これは迅雷で身体を倒している状態の私を狙ったものであるために、回避は難しい。
上空に跳ぶという選択肢も無くはないが、私が空中で取れる選択肢が少ないため、あまりしたくない。
なので――
刃を合わせる。
逸らすのではない。強引に軌道を変えるのでもない。ただ力を加えず流れに身を任せる。
「――?! どこにっ……」
瞬間、カルネイジの視界から私の姿が消えて見えたことだろう。
私はその動揺した様子を後ろから感知する。
――歩法 旋風
相手の攻撃に刃や籠手を合わせて、エネルギーを自身の移動に用いる歩法。
この歩法は微細な力の制御が必要で、今回のことが無ければ、私も暫くは使えなかっただろう。
最速で切り捨てに掛かる。珍しく生まれた大きな隙き。ここで逃したら、次があるのかさえ分からない。
一歩、地を踏みしめる。
瞬間的に放てる最大火力で。
「――見ィつけたァーーーー!」
瞬間、カルネイジは振り返りながら、再度横薙ぎを放つ。
けれど、しゃがみ込むことで回避する。
すぐに構え直す。
位置関係は、カルネイジが上で、私が下。
「ラアァッ!!」
――斬法 烈火
下からの突き上げが、カルネイジの首筋を狙う。
これで、終わりだ。
「――ッ!!」
声にならない裂波の気合。
カルネイジの首と刀の間に、黒槍が出現し、私に向かって空を駆ける。
どんなに多く見積もっても、カルネイジでは出せない程の運動性能を発揮して、槍はそこにあった。
その意志力は本当に称賛に値する。
黒槍と刀は互いが互いを道として滑走する。
黒槍は、私の肩口を、正近は、カルネイジの首筋を撫でるに留まる。
私の残りHPは約3割、対してカルネイジは弱点部位に攻撃を喰らいながらも残りが5割。
このままじゃあ、ジリ貧も良いところ。
即時、距離を取る。
しかし、距離を取ったのはカルネイジも同じ。
両者の後退で彼我の距離は5m程。
加えて、どう言う訳か、カルネイジは黒槍を下ろした。
「…………どういうつもり?」
どうして、下げる? どうして、退こうとする?
未だ殺し合いは続いているのに。貴方から吹っかけてきた喧嘩でしょう?
「俺ァ、殺したいだけで死にたいわけじゃねえからなぁ。そりゃあ、死にそうなら退くさ。――そして、強くなって殺しに行く」
「身勝手だね」
「お前が、モンスター相手に剣を振るうのと同じだろ」
答えに窮する。
カルネイジが大量のプレイヤーを殺そうとも、彼女がBAN(アカウント削除)されていないことから、運営側が決めたルール内でのPKしか行っていないことが分かる。
ならば、個々人のやり方でゲームを楽しんでいると言われてしまえば何一つ否定できない。
「――お前は、俺の獲物だ。俺以外に殺されんじゃねぇぞ?」
瞬間的にAGIに火を付けて、彼女はそこから消えた。
周囲を静寂が満たして数秒、私は大きく息を吐き出した。
『激動過ぎるな、この人のゲーム』
視界に入り込んだコメントが全てを物語っている気がした。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
殺人プレイヤーは死んだらペナルティがかなりキツいので、カルネイジさんも気を付けてたり……。
次回更新は、11/2になります。




