限定回帰 Ⅰ
壮絶な攻撃。私はそれらを半ば強引に打ち払っていく。
けれども、回転は相手の方が上。徐々に押され始める。
「それでは非効率だ」
ただの一言、ただの一刀。
私の木刀の軌道に、合流させる。私がやるように横から合わせるのではなく、殆ど同じ角度で切り込んで、接触した一瞬で木刀を僅かに捻る。
私の強引な迎撃の力をも自身の攻撃に乗せて、彼の木刀は加速する。
すでに刀を振るっていた私に対処する術はなく、そのまま首に突きつけられる。
互いに身体を弛緩させて、一礼。
「――やっぱり速いね、悠真は」
「あれは俺の力じゃなくて、瑠璃の力を乗せたからな。それに、瑠璃はこちらの木刀を無理やり弾いているから段々と無理が出ているだけだ。単純な速さは俺じゃ勝てないからな」
淡々と、答え合わせをするように所感を話す。
戦闘中でも全てを見通すような、深遠とでも言うべき目を私に向けている。
「瑠璃はなまじ身体能力や反応速度があるからこそ、対処が力任せになりがちなんだ。反応できてしまうからすぐに対処しようとしてしまう。だが、俺や瑠璃の母君相手では、それでは足りない」
一度言葉を切る。
真っ直ぐに私と視線を合わせる。私が理解しているか、そこは心配していないようだった。
それが私の人となりを把握しているかの如く感じられて、嬉しい反面気恥ずかしい。
「相手の攻撃に対して、横から力を掛けるな。それでは先程の二の舞にしかならない。大事なのは攻撃の軌道を合わせること、ほぼ同一の軌道で攻撃を刀身で滑らせるようにする。そうすれば、必要なエネルギーは減り、先程の瑠璃のように回転力が足りなくなることもない」
――ああ、この目だ。私の事を私より詳しく見てくれる、私のポテンシャルをも視界に収めきっているその目が一番印象的なんだ。
「瑠璃、君の反応速度を有効的に使おう。早く対処することは大事だ。けれど、余裕があるのだから、より負担を減らせるように動けるはずだ。それが出来るようになれば――」
口下手で、悠真の言葉は分かりづらい。本人の頭の中の過程が少しずつ省略されている。
でも、本当に必要なことは、忘れない。
「君は誰にも負けない」
そんなことになったら、片手間で屠られそうだ。
私の事をいつもこてんぱんにしておいて、彼はそう付け足して、にやりと意地悪げに笑った。
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「――なんだ……?」
カルネイジの当惑した声音。
それもしょうがないと思う。
さっきまでの私じゃありえないことをしたんだから。
「お前、何をしたんだ」
「ただ逸した、それだけだよ。ちょっと方法は変えたけどね」
カルネイジの槍、その真横に刀を置いて、ほんの少し、必要最低限だけ軌道を逸した。
言葉にすると本当にそれだけ。
でも、思い出せたから出来るんだ。
「――ありがとう」
「……ああ?」
突然のお礼。彼女にしてみれば、何に対することか分からないだろう。
気にせず言葉を発する。
「貴方のおかげで、少しだけだけど記憶の欠片が揃った。私の中に空いていた小さな穴が塞がった。だから、ありがとう」
「お前は何を言って――」
二年前の事故の時、何故かは知らないけど、私の直近1ヶ月の記憶は無くなった。
でも、それだけじゃ無かった。
その大穴の他にも小さな穴は出来ていて、それが分かったのも、それが埋まったのも今。
穴の存在は少し前から何となく分かっていたけどね。いや、違和感としか思ってなかったから、知らないも同然か。
「分からないだろうけど、貴方が私にとっては大きな事が引き起こした。それだけは覚えておいてくれると嬉しいな」
「――ハッ、殺し合いの最中にすることかよ。それに、何が起こっても私に殺される事は変わらねぇ」
「殺し合い中に起こったんだから、しょうがないでしょう?――それと」
溜めを作ってから、言い放とう。
彼がくれた言葉を、私が無くしてしまっていた、
しまい込んでしまっていた宝物を。
「私は誰にも負けないよ」
勝手に第二ラウンドを始めさせて貰おう。
紺碧正近を構えなおして、高らかに私は言う。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
補足
瑠璃…横から叩きつけて、ベクトルを変える。
悠真…同一直線上にほんの少し傾けた仕切りを置く。
こんなイメージ。




